レイラ・アジャラルー Leyla Acaroglu
UNEP地球チャンピオン、デザイナー、社会学者、サステナビリティ・プロボケーター、TEDスピーカー、教育者、unschools.co、disrupdesign.co、coproject.coの創設者。
今回は、体験学習を通じて循環型経済(サーキュラー・エコノミー)を推進する「サーキュラー・クラスルーム」について、レイラ・アジャラルー氏によるMediumの記事をご紹介いたします。
フィンランドは、誰もが認める世界最高の教育システムを持つ国として知られています。宿題を出さないことや、生徒中心であること、学際的であること、ライフスキルを教えるアプローチ、そして、体験や現象に基づく学習を重視していることなどがその要因です。(詳しくはこちらとこちらとこちらから)。
私は、昨年、フィンランドの高校で行われている、循環型経済、持続可能性、創造的問題解決に焦点を当てたカリキュラムをデザインするという先進的な取り組みに招待されましたが、教育に大きな影響を与えるこのプロジェクトの可能性に、たいへん興奮しました。
サーキュラー・クラスルーム(The Circular Classroom)は、フィンランドの高校および後期中等教育の学校にサーキュラー・シンキング(循環型思考)を取り入れることを目的とした、学生と教師にも等しく提供される教育リソースです。無料で利用できて、多言語にも対応していて、すべてが楽しく、美しいフォーマットで作られています。この教材は、デザイン方法、経済の仕組み、人間としてのニーズを満たす方法、社会的、経済的、環境的利益をもたらす未来をデザインするのに役立つ、より創造的な専門職の役割の開発を支援する方法について、これまでとは異なる考え方をする機会を提供します。
サーキュラー・クラスルームプロジェクトのビジュアルの例
この記事では、プロジェクトの展開と成果について、また、コンテンツの概要や、採用したデザイン手法、体験教育によるカリキュラムの枠組みなどについてまとめました。プロジェクトを立ち上げ、私を招き入れてくれて、全体の運営もしてくれたCo-founders Ltdと、開発資金の提供から、無料のリソースとして残したいという私の要求にまで快く応えてくれたWalki Groupに感謝します。より良い未来をデザインするといった、先進的な教育に、民間企業が投資するのはとても素晴らしいことです。
サーキュラー・クラスルームの紹介
このプロジェクトでは、全体を通して、若者たちが、製品やサービス、システムをデザインし直すことが、未来につながる素晴らしい機会があることを知るためのサポートをする狙いがあります。今日の世界との関わりが将来にどのような影響を与えるかを探り、また、将来の職業についての決断についてもサポートする意図もあります。これは、地球規模の問題が議論されるときにしばしば描かれる悲観的な世界観を、克服するためのツールや介入する力があることを確認することにもなります。さらに、この教材は、循環型で持続可能な活動という、新しく刺激的な(しかし非常に複雑な)分野における教育者のスキルアップをサポートしています。
サーキュラー・クラスルームのカリキュラム教材は、ディスラプティブデザインメソッドを使った共創プロセスから生まれました。このプロセスの結果(詳細は後述)、メインとなる3つの知識構築モジュールができあがりました。それぞれのモジュールは、中心的なコンセプトを紹介する短い映像と、知識構築のためのコンテンツが充実している詳細なワークブック、そして教室での共同的で、経験的で、実社会的な学習のためのアクティビティで構成されています。
私たちは、とても才能のあるイラストレーターでデザイナーのエマ・シーガルと協力して、視覚的に美しく魅力的なデザイン美学と、学生たちに語りかけるようなコミュニケーション言語を作り上げることに力を尽くしました。彼女のイラストは、複雑なコンセプトを、身近で親しみやすいビジュアルに変換するようにデザインされていたため、アクティビティを補強して統合するのに役立ちました。生徒と教師が、フィンランドで開催された一連のコ・デザインワークショップを通じて、直接的に携わった結果、20を超える授業内のアクティビティが生まれました。
私のデザインプレイカードをサーキュラー・クラスルーム用にアレンジした教員支援ツールの一例
3つの主要な授業内モジュールに加えて、役に立つ教師のためのサポートパッケージを作りました。このパッケージには、コンテンツを教室に導入する方法の詳細や、体験学習活動を授業計画に用いるためのヒント(フィンランドのカリキュラムに関連したもの)、そして循環性や持続可能性についてより複雑な話をするためのアイデアが含まれています。
コ・デザインワークショップの成果は、参加者が将来的に新しい教材を共同で開発することをサポートするだけでなく、教育者と学生の両方の活性化にフォーカスすることにもつながりました。最終的には、教師と学生が協力して独自のサーキュラー・クラスルームのコンテンツを生み出し、それを使って他の人たちが循環型思考を学べるようになることを目指しています。
学習モジュールと教員支援パック
フィンランドのカリキュラムではすでに、持続可能性や積極的な市民性に重点が置かれていますが、私たちは、モジュールのアクティビティや、熟考する要素を通して、このテーマの価値を引き上げることに力を注ぎました。各モジュールには、核となる3つの教室でのアクティビティと、授業中や家での学習を充実させる追加のアイデアが含まれていて、循環型経済が私たちにもたらす素晴らしい機会について、生徒たちがわくわくし、やる気を出すような内容になっています。モジュールを学習環境へ取り入れるようになったら、教師は自然に、同僚や生徒と協力して、独自のサーキュラー・クラスルームのツールを開発し、それを社会に発信していくようになっていくでしょう。
アクティビティの例
それぞれのワークブックは、教師が循環型思考の主要なコンセプトを、教室に取り入れることができるように開発されています。教えている教科の分野が何であれ、サーキュラー・クラスルームのアクティビティは、それぞれが互いに、教科を超えて、共同的に、統合的に結びついています。生物学から数学、語学、哲学まで、カリキュラムの各学習目標に対応した、全般的なアクティビティが用意されています。
ワークブック1:リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへ
最初のモジュールでは、現在の直線的経済と、廃棄物のこともあらかじめ考えて設計されている、循環型経済への移行の可能性と発展性についての問いにフォーカスしました。アクティビティは、生徒達が、より良い未来をデザインするために、一人一人がどのような行動をとることができるのか、また、循環型の未来が抱える複雑な問題の解決を可能にするのは何か、といったことを探求するのにも役立ちます。このテーマの領域の全体像を知りたい方は、以下の教室内のビデオをご覧ください。
学習モジュールのアクティビティでは、ライフサイクルの考え方を学びます。身の回りにある自然のシステムを見極める方法を習い、いつも私たちが買って使っている日常の消費財商品の比較をします。循環性については、生態系、産業界、個人の領域のさまざまなレベルで表現され、経済におけるアクティビティの役割やサプライチェーンの仕組みを学びながら、生徒はローカルとグローバルの両方で考えることを学んでいきます。
サーキュラー・クラスルームモジュール1のサンプル:リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーワークブック/ワークブックのダウンロードはこちらから
ワークブック2:システムと持続可能性
2つめのモジュールでは、世界の中でシステムがどのように機能しているか、また、持続可能性の概念は実際にどのようなものかを理解していきます。自然には、私たちの生命維持に役立つこと以外に、どんな働きがあるかを考えるといった、生徒達の意欲をかきたてる内容になっています。
システム思考のアクティビティを通して、生徒たちは日常的な現象を探求し、それを可能にしているダイナミックな相互関係を見つけ出し、「生分解性」のようなキーワードの意味を解き明かします。また他のアクティビティでは、自転車とは何かを考えたり、1人あたりの環境負荷の計算方法なども学びます。
このモジュールには、個々の行動がどのように累積の影響を与えるかを学ぶことや、個々の変化がどのように積み重なってより大きな持続可能性を達成するのか、循環型経済の観点をどのように私たちの個人的な生活に適用することができるのかをなどを知るためのアクティビティが用意されています。上のビデオでは、このモジュールで扱う基本的なコンセプトを説明しています。
サーキュラー・クラスルームモジュール2のサンプル:システムと持続可能性ワークブック/ワークブックのダウンロードはこちらから
モジュール3:デザインとクリエイティビティ
デザインは、私たちの毎日の生活にインパクトを与える、社会的に強力な影響力を持っています。そして、数多くの新しい産業を創り出す、刺激的な職業でもあります。創造力は、これからの時代に欠かせない重要なスキルになります。気候変動や海洋プラスチック廃棄物など、大きな複雑な問題に対処するためには、創造力が必要です。そのため、このモジュールは、創造的な思考を活性化し、若者が自分の人生や未来のエージェントにとなるためのツールを提供することを目的としています。
次のビデオでは、デザインとは何か、それが私たち全員にどのような影響を与えるのか、なぜ人間は現状維持のために世界をデザインするのか、そしてどのようにデザインを変えればポジティブな変化をもたらし、循環型のソリューションを生み出すことができるのかを紹介しています。
このモジュールのすべてのアクティビティでは、複雑な問題にクリエイティブな思考を適用することを学び、より良い未来を築くためのコラボレーションと前向きな展望の力を身につけることにフォーカスしています。
サーキュラー・クラスルームモジュール3のサンプル:デザインとクリエイティビティワークブック/ワークブックのダウンロードはこちらから
サーキュラー・クラスルーム:教員支援パック
教育者サポートパックは、循環型経済、システム思考、持続可能性の分野における知識を速やかに伝授して、フィンランドのカリキュラムとの関係も作りながら、教育者の授業計画をサポートするためにデザインされています。このようなサポートツールは、コ・デザインのセッションを通じて教育者から要望されたものなので、教育者が独自の方法でコンテンツを提供するための、サポートや知識が整っていると実感できるようにしたいと考えました。
次のビデオでは、サーキュラー・クラスルーム・モジュールに含まれる教材の内容と、使い方について簡単に紹介しています。
教員支援パックのサンプル:ダウンロードはこちらから
循環型経済は、世界の経済を、持続不可能で採取的な直線的経済の状態から、より持続可能で再生可能な循環型モデルへとデザインし直す動きです。商品やサービスは、素材や資源の価値を長期的に維持する美しいシステムの中でデザインされます。
こうした抽象的で複雑なテーマを分解して、学生が全体像から個人の行動まで落とし込んだ経験ができるように、3つのモジュールのコンテンツを作成しました。その結果、主体性が向上し、テーマの独自性を保ちながら問題の再構築に取り組むことで、刺激的な機会が得られることを示すことができました。
私はこれを、創造的で好奇心旺盛な若者たちに、純粋に関連づける方法を模索しました。そして、彼らが自分の生活と、身の回りの大きな世界との関係を引き起こすきっかけとなるような、日常的な例を紹介しました。こうしたアクティビティは、教室の外における「生活の中」での学習をさらにサポートするためにデザインされて、教育者が独自のレッスンプランをデザインできるように、一連のリソースを提供しています。
Illustrations by Emma Segal from the Circular Classroom
私が開発したディスラプティブデザインメソッドは、既存のシステムに国際的な介入を行うための足場となるものです。丁重にかつ、枠組みを変えるような方法で開発を進めました。マイニング(掘り下げ)、ランドスケーピング(俯瞰)、ビルディング(構築)の3つのプロセスは、創造的な変革者が問題や現象を解決しようとする前に、その問題を深く理解することをサポートします。明白な部分を深く掘り下げ、必要なすべての経験的情報を探し出す(マイニング段階)ことで、機会、問題、そして潜在的な変革の場を俯瞰的にまとめます(ランドスケーピング段階)。そして、そこから、現状に対して丁寧に挑戦したり、改善が望まれる部分にスポットが当たることで、創造的な介入を構築することができます(ビルディング段階)。
このケースでは、マイニング段階において、中心となるトピック領域に対する現在の知識や取り組みを理解し、強みを生かして新しいアプローチを提供するすることが重要でした。
これにより、初回のワークショップの結果として開発した、主なアクティビティのいくつかを試作することができました。また、ビルディング段階では、学生と教師が混在したグループでアイデア出しのセッションを行い、教室に適した独自のアクティビティを共創することに挑戦しました。生徒や教師からは素晴らしいアイデアがたくさん出てきて、そのうちのいくつかは特別のアクティビティとしてワークブックに追加され、現在サーキュラー・クラスルームのウェブサイトで公開されています。
私は、このプロジェクトの早い段階で、重要なのはコンテンツを自由に扱えるようにすることだと考えました。私には共有できる知識の集積がありますが、元となる種に過ぎません。これは、どうやって循環型思考を取り入れ、また人類が共有する未来についての経験的・反省的な思考をどのように教室にもたらすかといったテーマについて、他の多くの人を励ましてしてその気にさせて、教育的コンテンツを作り、イニシアチブを生み出していくためのスタートポイントです。私は、すべての教育者と学生が協力して独自の「サーキュラー・クラスルーム」のコンテンツを作成し、それを通じて、私たち全員にとってより良い未来を設計するために行動することを奨励したいと思っています。これにより、フィンランドの学生だけでなく、世界中の若者が、今日の行動を通じて、より持続可能で、公平で、効果的な未来に貢献できることを実感できることを願っています。
サーキュラーエコノミーのための新しいマテリアルの流れ
経験と現象に基づく学習という考え方は新しいものではありません。パウロ・フレイレや最近ではケン・ロビンソン卿のような教育界の重鎮たちは、何十年も前から教育形態の重大な変更を声高に主張してきました。コルブやその他の教育理論家の研究は、学習心理について多くの新しいインサイトを与えてくれました。フィンランドのシステムがとてもエキサイティングな理由はここにあります。彼らは体験型教育を前面に押し出して、これまでの支配的な教育様式に挑戦しています。教師にはさらに、自分から率先して、生徒が成功するために何が必要かを理解することが求められています。
主なアプローチについては、こちらをご覧ください。
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この記事は、2018年10月に公開されました。英文はMediumで閲覧できます。
●The Circular Classroom: a Free Toolkit for Activating the Circular Economy through Experiential Learning
(DMN編集部)
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