Illustrations by Kristina Volchek
デジタルノマドとしての新生活で見えた文化の違い
ポーランドで5年間過ごした後、私は完全なデジタルノマド生活を始める決心をしました。パートナーとともに、持ち物の大半を売却・寄付・処分し、スーツケース2つに人生を詰めました。最初の滞在地はタイ・バンコク(今この記事を書いている場所)で、次は桜の季節に合わせて日本・福岡です。
アジアの暮らしに馴染む中で、文化的な違いを至るところで感じています。それは日常だけでなく、デザインにも表れます。今年1月、興味深い現象が起きました。アメリカのTikTok一時利用停止を受け、数千人の欧米のユーザーが中国のアプリ「小紅書(RedNote)」に流入したのです。
この出来事から、「欧米とアジアのデザイン文化はどのように違うのか?」「その間に共通点はあるのか?」を考え始めました。
TikTok禁止が示した「デザインと適応力」
TikTokの一時停止により、多くのアメリカ人が代替サービスを探し始めました。Instagram ReelsやYouTube Shortsに移る人もいれば、RedNoteに流れる人もいました。
RedNoteは中国のInstagramとTikTokを合わせたようなアプリで、インターフェースは非常に情報密度が高く、欧米のデザイン基準でいえば「ごちゃごちゃしている」とされるものでした。
しかし意外なことに、欧米のユーザーは適応したのです。
翻訳が不完全でも、彼らはアプリを使いこなし、内容に関与し、デザインの特徴さえ評価し始めました。これは「欧米のユーザーにはミニマリズムが必要」という一般的な前提を覆すものでした。つまり、「良いUX」の定義は意外と柔軟だったのです。
欧米 vs アジアのプロダクトデザイン:二つの世界、一つの未来
中国・日本・韓国などのWebサイトを初めて訪れた際、「情報が詰め込まれている」「圧倒される」と感じた欧米の人は少なくありません。欧米デザインの目線からは、これらは「古臭い」「雑然としている」と見えがちです。
しかしアジアでは、情報密度が高いことは「悪いUX」ではなく、「期待されるUX」なのです。
なぜこの違いが生まれるのか?
欧米(アメリカ・ヨーロッパ)デザインの特徴:
ミニマリズム、余白、明確な階層構造、情報の段階的開示を重視。
→ 目的は「迷わず導く」「集中できる体験」。
アジア(中国・日本・韓国)デザインの特徴:
最初から多くの情報を提示し、色鮮やかで機能が詰め込まれたUI。
→ ページ遷移せずとも一度に全体を把握できるのが期待されている。
どちらが優れているということはなく、RedNoteの例は「人はどちらにも適応可能」であることを示しています。
UI/UXにおける主な違い
言語の密度
中国語・日本語・韓国語は単語間にスペースを挿入しないため、文字が自然と密集します。加えて、中国語では1文字に多くの意味が込められるため、見た目が情報過多に見えるのです。
タイポグラフィと階層構造
欧米デザインではフォントサイズや余白、グリッドを使って階層を表現します。アジアでは、色や囲い(ボックス)、コントラストで代用することが多く、文字の大きさに依存しません。
余白 vs 情報優先
欧米では余白が読みやすさを助けると考えられていますが、アジアでは「画面スペースの最大活用」が重要で、できるだけ多くの情報を表示する傾向があります。
ナビゲーションと情報構造
WeChatやAlipayなどの「スーパーアプリ」は、チャット・決済・買い物などの機能を1つにまとめています。一方で、欧米のアプリは機能ごとにアプリが分かれるのが一般的です。
アジアのUXから学べること
情報密度の再考:
常に「少ないほど良い」とは限らない。必要な情報を一気に見せた方がストレスが減る場合もある。
ミニマリズムの再評価:
単純化しすぎると、かえって操作手順が増え、UXが複雑化する可能性がある。
ユーザーの適応力を信じる:
RedNoteの成功例が示す通り、人は新しいデザインにも馴染むことができる。
多文化UXこそが未来
RedNoteの事例は、「ユーザーが一つのUXスタイルに縛られているわけではない」ことを証明しました。彼らは適応し、学び、異なる文化のデザインに触れても使いこなせるのです。
欧米のデザインは、明確な構造やアクセシビリティ、親しみやすさを提供します。アジアのデザインは、効率性、多機能性、情報密度で優れています。UXの未来はこの両者の「融合」であり、多文化的なデザインです。
今後、世界中で使われるプロダクトは、情報密度と余白、構造と柔軟性のバランスを取った「ハイブリッド型デザイン」に進化していくでしょう。
最後に
最高のデザインは、西洋式でもアジア式でもありません。
「適応可能」であり、「多様なニーズに応える」インクルーシブなものであるべきです。
英語版参照元:
https://uxdesign.cc/how-culture-shapes-ux-western-vs-asian-product-design-3f0116c19581
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