デザインのビジネスインパクト
このウェビナーセッションは、ZOOMを使い、3名が世界の各地から参加して行われた。アレンはイタリアから、マリアはカナダから、そしてアリソンはニューヨークから。
アレンはデザイナーのためのビジネススクールであるd.MBAの創設者でありCEOを務めている。デザイナーとビジネスクールはかなりニッチな接点だが、じつはとても関連性があり魅力的だと考えていたという。そこで、MBAを取得するための学校ではなく、MBAをデザインする学校を作るに至った。マリアはクリオ(www.clio.com)というリーガルテックの会社でデザインのリードをしている。15年前にMBAを取得したいと考えたが、とてもたいへんな経験になってしまったというエピソードを紹介した。
トークの冒頭でアリソンから、デザインリーダーシップの状況についてのマッキンゼーのレポートについて言及があった。アリソンは個人的な経験からも、多くの企業のCEOはデザインが大企業に組み込まれていると確信してる。しかし、その中の多くのCEOはデザインがビジネスにもたらす価値について、完全には気づいていないのではないかと考えている。その点について、アリソンからアレンに、d.MBAの創設者としての視点と経験からどう考えているか意見を求めた。
アレンからはまず、IDEOでビジネスデザイナーとして働いていた時のエピソードが紹介された。彼は、IDEOに入社してすぐに、クライアントとデザイナーの間のビジネスとデザインのギャップがいかに大きいかに気がついたという。それは、デザイナーが話している言語と、クライアントが話している言語との間にある、ある種の断絶にあった。
「この会社の背後にあるビジネスモデルを理解するのを手伝ってもらえないか?」
「戦略がこのプロジェクトにどのように影響するのかを理解するのを手伝ってくれないか?」
アレンは、毎日の仕事の中で発生するこのような特定のタスクに対して、何か素晴らしい成果を上げていても、相手からは必ずある有名な答えが返ってくるという。
「それは戦略と一致していないんだよ」と。
こうした経験から、アレンは「多くのビジネスリーダーはエンジニアリングやデザインの詳細をわかっていない」と考えるに至った。そして、その責任の一部はビジネスパーソンが教育やデザインをすることにあって、それを解決するためには、デザイナーがビジネスの言語を話し始めなければならないと考えている。
「逆説的に言えば、ビジネス言語を話すことで、私たちデザイナーは顧客中心主義に近づき、結果的に私たちが信じているすべてのものに近づくことができると思うよ。」とアレンは語った。
デザイナーがビジネス言語を理解し、話せるようになるためには、どうしたらいいのか。アリソンから他のメンバーに対してそのポイントについて問いかける。
「デザイナーとして、私たちはビジネスの言語をどのように話すかを考えなければなりません。それはデザイナーがビジネスのテーブルに座っていることがより真剣に受け止められるようになるために必要なこと」とマリアは答える。
「共通の言語を作ることができるようになることは、それ自体が教育のプロセスのようになるのかもしれません。また、ビジネスの言語を使うことが、デザイナーの声明という意味をもっているかもしれません。」
アリソンはマリアに、d.MBAの卒業生として、この問題をどう考えているかと質問を投げかけた。
「なぜあなたはこのプログラムに投資することが、デザイナーとしてのあなたのキャリアのために重要であると決断したのですか?」
マリアは、会社の中で何年もの間「ビジネスのテーブルに座りたい」と言い続けてきたが「実際にそのテーブルに招待されたときには、デザイナーが使う言葉で話してしまっていた」という。仕事をしながらビジネススクールに通っていたときにd.MBAを知り、すぐにその価値を理解したという。
「私はd.MBAを見たときに、そこには自分が取得することができるすべての知識があると感じた。たくさん勉強して、多くの本を読むことになり、自分自身でたくさんのコネクションを作らなければならなくなるけれど、どうやって自分の知識を広げていくか、どうやって自分が持っている概念を形にしていくか、どうやって毎回CEOと会話をできるようになるかを最終的な目標にして取り組んだ。」
アリソンが、それが今日のあなたの経験をどのように変えたと感じているかと問いかけると、マリアはデザインのリーダー的なポジションに就いて、より戦略的なインパクトを与えることが重要だと考えるようになったという。
マリアは戦略的なインパクトを意識することにより、「ある特定のことを実際に数値化できるツールを使うことができるようになり、成果について話すことができ、適切なメトリクスを定義することができるようになり、イニシアチブが与えている影響について話し始めることができる。」という。
アリソンは、自身がデザインコンサルティングの仕事をしていたときには、ストラテジストとチームを組んで仕事をしていたが、彼らはMBAを持っていたり、持っていなかったりすることもあったので、DスクールのMBAと、伝統的なMBAの違いについて絶えず話し合っていたという。それぞれは全く違うアプローチを持っていたという。
それに対してアレンはd.MBAでの経験を話した。
「デザイナーのような特定のターゲットグループに特化したものを作ろうとするときには、会計学やマクロ経済学など、デザイナーにとっては重要ではないものもたくさんあるので、そのときは、そのような無駄なものをたくさん取り除いて、別のものを追加していくことができます。」
「伝統的なMBAの良いところは、様々なプロファイルの人がいて、エンジニアもいれば、医者もいるし、デザイナーもいて、基本的には全てが揃っているところです。MBAを取得することでそれらの分野のすべてをカバーする必要がありますが、より詳細な知識を得ることができます。」
アレンは、戦略は、それ自体の意味だけではなく、デザイナー自身やその仕事にどのように関連しているかが意味を持つという。
「デザイナーは戦略を自分の仕事に取り入れることができるようになるし、それにより「自信を持つ」ということも大きな部分を占めている。同じシーンにいる他のデザイナーや、同じように苦労している人たちが同じ道を歩んでいることよって、自信がついてくる」「今日話していることの大きな部分は、ツールを使ったアプローチですが、その多くは、貢献を始める準備ができている、これを試してみる準備ができているというマインドにつながっています。私は、これらのプログラムはあなたに自信を与えるべきだと思いますし、いくつかのツールは、一種の自信をもたらすと思います。」
ここでアリソンから、アレンが以前に記事の中で書いた、デザインのROIを伝えるためのプロセスの3つのステップについて説明を求めた。アレンから、仕事を定量化するためのプロセスの一部が紹介された。
<参考> The whole process comes down to three simple steps:
(How to estimate the ROI of design work, https://www.invisionapp.com/inside-design/estimate-roi-design-work/)
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このフレームワークを実際に使ったことがあるマリアに、アレンからこのタイプのフレームワークがどのように役に立ったかと投げかけられた。
マリアは、デザイナーと一緒に作業をするときに、このフレームワークを使って各製品マトリックスを定義したり、マトリックスが他のマトリックスにどんな影響を与えているかを定義するのに使うという。前もって定義しておくことで、チームが何かに取り組む際には、ある特定のことを定量化するようになるという。そこで、何か間違ったことはないか、何かを変える必要はないか、仮説に基づいて客観的な視点を与えてくれるという。
「デザインはそんなに主観的なものではないということを、デザイナーに理解してもらうのに非常に役立っています。このフレームワークはビジネスを前進させるために、何かを実現するための乗り物なのです。」
アレンは、重要なマインドシフトの一つは「我々が必要としている新しいメンタルモデルのようなものだ」という。しかし、それを一方的に押し付けるだけでは正しいサービスを提供できないことを理解しなければならないと強調する。
「d.MBAの学生たちを見きたところでは、デザイナーにビジネス言語を使うための適切なツールを与えることは、彼らをビジネスマンにしてしまうのではなく、デザイナーが会社の中で顧客中心主義をよりよく説明できるようになることにつながります。」
アリソンからアレンに対して、dMNAの学生が直面している課題についての問いかけがあった。「あなたのプログラムで学生が直面している主な課題は何でしょうか?」
アレンは、それは素晴らしいアイデアを持っているのに、それを正しく伝える方法がわからないというフラストレーションだという。そしてマリアも自身の体験からこう付け加えた。
「デザイナーが企業に入り、さまざまなツールのトレーニングを受けてもうまくいかないのは、それが企業のためにどのように機能するか、なぜツールを使うのか、なぜツールが必要なのかがわかっていないところに問題があるからです。」
マリアは彼女が実際に多くの仕事で学んだことを使って、新人デザイナーのためのオンボーディングを作成したという。各部門が直面している課題を自分たちで分析し、それらを調整できるようにするためだ。
「正しいメトリクスを理解することで、例えばうちの会社はこのスペースを占めている、競合他社はここにいる、最大の競合他社は10年と比較して40年前から存在している、モデルが違う、彼らは何か違うものをターゲットにしているなど、正しい意思決定をするためのあらゆるコンタクトを得ることができます。」
そしてそこではさらに交渉戦術が重要だとマリアいう。
「交渉で優位に立つには、相手が何を気にしているのかを理解しなければなりません。」
「過去には私たちデザイナーがこのアイデアは素晴らしいといっても、誰も私たちの話に耳を傾けてくれないことがありました。私たちが素晴らしいと思っていたアイデアは、実は思ったほどではないというケースがあることを理解し、自分自身を学び、理解することが必要です。 正しい言葉を話し、人々が本当に気にしていることを理解することは、私たちの影響力を高めるのにも役立ちます。」
ここで、話題は機能的なコラボレーションを助けるツールの話に移る。
アレンは、彼が最高のコラボレーションツールの一つとして考えている「コーヒーブレイク」と呼ばれるものを紹介した。それは他の部署の誰かをランチに招待してコーヒーブレイクをして話をするというものだ。
「通常は一緒にランチをして話をしたところで終わってしまいますが、180度後ろを振り返って、それまでと別の話をするように仕掛けます。」
具体的には「マーケティング部門のことや財務部門のこと、戦略部門のことを理解するために社内の誰かと話をしよう」「彼らの課題やKPIを理解するために彼らと話をしよう」と声をかけて、そしてその話の内容を全てメモをとるようにするのだという。
「すると、あなたは、あなたのビジネスや会社について知る必要があるすべてのことを学ぶことができます。人々が使っている言葉を理解し、成功をどのように測っているのかを理解し、誰が特定の意思決定をしているのかを理解することができます。」
そしてさらに、このコーヒーブレイクの際に「彼らの最大の課題は何かと質問して、それを実行してみる」ことを付け加えると効果があるという。
「会社の誰もが、実際に実行したことのないアイデアを持っていてますが、私たちデザイナーはプロトタイピングと呼ばれる特別な力を持っています。それは財務部門の人も、ビジネス部門の人も持っていない力です。私たちは、実際に形にしてみないとわからない様々なアイデアを、社内での政治的な力を築くことも含めて、実際にその種をテーブルに届けることができるようにしているのです。」
「実際にアイデアをプロトタイプ化し、私たちのアイデアを取り入れるのを助け、顧客中心主義を取り入れるのを助けることができるのは、私たちがビジネスの共感性をもっているからです。」
アリソンは、まさに「それが私の仕事です」とアレンの話に強く同意した。
「私の顧客は内部のすべての人であり、内部の仕事を実際にどのようにスケールアップしていくかを理解し、それをデザイン組織にも反映させていくことで、さまざまな角度から話を聞くことができます。」
アリソンは、ほとんどの企業がスプレッドシートやパワポの言語を話しているのに対して、デザイナーはその言語を正しく話していないので、どこか中間に位置するところがあるのではないかと考えている。そして、デザインオペレーションのリーダーとして、コラボレーションのために独自のツールを組織に導入して、人々がより効果的にコラボレーションできるようにしたり、プロセスがどのように機能するのかを人々に少し教えたりもしているという。
「コーヒーブレークのようなもの以外にも、明らかに素晴らしいものもありますが、特に現在のようなリモートの世界では、思考やコラボレーションを開始するのに役立つ特定のタイプのツールがあれば、それを使ってもいいと思います。」
それに対してアレンはビジネスの観点からとして、ビジネスの人達とのクロスコラボレーションには、実はとても簡単なものを使うのが有効だという。
「グーグルドキュメントで十分なこともあるし、ホワイトボードにスケッチを描いたりしておくこともできる。正直なところ、スプレッドシートは本当に役に立つこともあります。」
「スプレッドシートに何かを入れておくだけで、彼らはホームにいるような気分になります。たとえそれが本当に基本的なことであっても、ポストイットやホワイトボードに書くのではなく、それをスプレッドシートに入れておくと、彼らは興味津々になって、特にノンデザイナーとのコラボレーションを強化することができます。」
そこには派手なものは何もないが、アレンの経験からそれが本当によく効くのだという。そしてマリアも、チームとの信頼関係を築くためには、透明性や可視性を高めることで信頼の基礎を築くことが重要で、そのためにコラボレーションツールが有効だと考えている。
「コラボレーションには政治的な側面もありますし、最初から透明性があればあるほど、物事を簡単に進めることができます。顧客と最前線で接している営業チームから、顧客からのフィードバックを得たり、彼らの意見を取り入れたりするときに、こうしたコラボレーションツールをうまく使うことができます。」
後編に続く…
(DMN編集部)
参考URL
●InVision
●Business Impact of Design
https://www.invisionapp.com/talks/business-impact-of-design
●How to estimate the ROI of design work
https://www.invisionapp.com/inside-design/estimate-roi-design-work
PROFILE
Alison Rand(アリソン・ランド)
InVision シニアディレクター、デザインオペレーション
戦略的なデザインと人事管理システムとプロジェクト管理の専門知識を生かし、InVisionのシニア・ディレクター、デザイン・オペレーションのヘッドを務める。ジョン・マエダ、frogでプログラム・マネジメント・ディレクターとしての経験も持つ。
Maria Pereda(マリア・ペレダ)
Clio デザインディレクター
バルセロナ出身のデザイナーで、15年前にニューヨークに移住し、デザインのキャリアをスタートする。d.MBAの卒業生。
Alen Faljic(アレン・ファジック)
d.MBA ファウンダー・CEO
デザインリーダーのためのオンラインビジネスプログラムであるd.MBAの創設者でありCEO。IDEOでビジネスデザイナーとして活躍した後、現在は国際的に最も著名なビジネスデザイナーの一人であり、Beyond Usersポッドキャストのホストでもある。
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