Rise of the Meta-Designer
ウダイ・ガジャンダル Uday Gajender
「次世代」イノベーションプロジェクトと「スリー・イン・ア・ボックス」製品開発を専門とし、ビジネスおよびエンジニアリングのリーダーとして、PayPal、Facebook、Citrix、Adobeなどにデザインを提供している。また、ACM Interactionsに定期的に寄稿しているほか、SXSW、UX Australia、IxDA、Midwest UXなど、世界各地でデザインに関する講演を行っている。
「メタ化」してはいけないということがよく言われます。頭の中ですべてを理解しようとすると、物事があまりにも抽象的で扱いにくくなってしまうからです。しかし、デザイナーにとっては今まさに自身をメタ化する適切な時期ではないでしょうか。メタ化は、自動化され、計測され続ける日々の仕事から解放される上で少なくとも有効です。そして、さらに大きなことは、メタ化は、私たちがプロとして生き残るために、デザインの本質的な価値をリフレームします。
From ACM Interactions / July — Aug 2019
アルゴリズム、自動化、計測。高速出力を安全に確保するという効率性と信頼性をのために、デザインはますますルーチン化し、予測可能になり、システマティックになっています。人間とコンピュータのインタラクションの詩的表現は、スケール化され、スケジュール化されたデリバリーのための処方箋へと進化してきました。分散化されたデザインパーツのライブラリーからコンピュータによるユーザビリティテストまで、この進化の中で、デザイナーはどうなっていくのでしょうか?デザイナーの存在する理由は何でしょうか?しかし、デザイナーの価値の本当の姿が見えてきているのかもしれません。私は、戦略的、人間的、そしてあえて言えば哲学的な側面を持つ、メタデザイナーと呼ばれる人たちが現れるのではないかと考えています。
企業の役員室ではデザイン思考が台頭し、そこで新たに任命されたカスタマーエクスペリエンスチーフが異なるビジネス要素を結びつけてホリスティックなモデルを定義する、といったことが起こり始めています。このトレンドは、デザインそのものをデザインする、つまり、メタデザインによって組織に顧客中心の能力と感性をもたらすという気の遠くなるようなチャレンジを示唆しています。デザイン思考の流行は、共感に沿ったマインドセットをもとに、従来のビジネスマネジメントの鎖をまず断ち切り、問題をリフレームし、「速く失敗」し、反復することをサポートする態度を解放することで、このメタデザインという概念の表面をなぞっています。
一方、カスタマーエクスペリエンスは、顧客に焦点を当てた「アウトサイド・イン」の価値創造マシン(つまり、お金を稼ぐ!)を回転させるためのビジネスに沿ったガバナンスのフレームワークを提供しています。そこでは、顧客を表向きには意思決定の中心、少なくともROI分析の中心に置いて、マーケティング、セールス、カスタマーサポート、プロダクトマネジメントの各チームが、一貫したメッセージング、ワークフロー、ブランディングを実現するために、非常に複雑な調整を行います。そして、製品開発の考え方としてはユーザーエクスペリエンスがあります。
これは、基本的には1990年代後半のドットコムブームの名残(ウェブサイトのUX)ですが、現在は、HCI、認知心理学、インタラクションデザインなどの関連分野のベストプラクティスを反映して、(Webサイト、アプリケーション、スマートデバイスなど)あらゆるデジタル製品やサービスにおいて、魅力的なやりとりを提供・利用することを指すようになっています。
これらすべてのレベルのデザインを、生きて、呼吸し、進化し、それ自身が増幅するある種の装置として組織に結びつけること、これがメタデザインの深遠な挑戦です。それは、優れたデザインが生まれ、長期的に繁栄するための条件を実際にデザインすることであり、継続性と価値を持続させることであり、運に左右されたり、一人の強い個性によって定義されるものではありません。ここにはレガシーの感覚があり、特定の人々のグループを超えて永続する何かがあります。
これはメタデザインの深遠な挑戦だ。それは、優れたデザインが生まれ、育つための条件を実際にデザインすることなのだ。
誰(あるいはグローバルに分散した学際的なチーム)が、どのように、本質的なサービス、システム、構造、文化的な雰囲気、プロセスモデルをデザインし、それをデリバリー可能なものとして運用しながら、同時に、組織の価値や目的についての深い疑問を追求し、著しく欠如しているヒューマニズムの側面を加え、デザインを意味のある重要なものとして精神的に高めるのでしょうか?これはとても大変なことです。しかも、これらが必ずしもデザインリーダーの典型的な問いではないことを認めておきましょう。
しかし、日常業務を超えてチームの長期的な活力と価値を確保するためには、このような考え方が必要です。さもなければ、移り変わる状況や、誰か(ビジネスや技術部門の幹部)の気まぐれ、あるいは視界の外にある側面(デリバリーに焦点を当てた近視眼の盲点)に反応するなど、プロアクティブな行動がとれず、常に防御に徹することになってしまいます。
私たちは、製品やアプリが次を先取りしてユーザーに素晴らしい体験を提供することを期待しています。であれば、私たちのデザイン組織の倫理観にもそれを期待してはどうでしょうか?どうすれば、文化や精神として次を先取りできるようになるでしょうか?どうすれば、反復的かつ批判的にデザインをデザインすることができるでしょうか?
そのためには、メタデザイナーとして何が求められるのかを知る必要があります。それらの多くは、鋭敏で、積極的で、機知に富んだデザインリーダーと同じように聞こえるかもしれません。それはある程度重要なことです。しかしメタデザイナーは、自分の視点と行動をデザイナーらしい方法で常にリフレーミングすることで、仲間や(他の部署やチームからの)挑戦者のための土壌を肥やすことができます。
その意味で、このようなメタデザイナーを導く基本原則は、以下のようになるでしょう。
[行動の中の内省]:デザインをしている最中に、推測される関係性や潜在的な結果を考慮すること。
これは、内省の時間をほとんど与えられずにアウトプットを実行しなければならない今日の高速なニーズや、虚栄心に満ちた指標や投資家のお金のために「素早く行動して破壊せよ」という「今すぐ出荷」のメンタリティーの影響を受けています。しかし、このような内省は、個人(キャリアの成長)、チーム(卓越した習慣)、そして製品(私たちは、正しい理由で正しい人のために正しいものを作っているか?)に利益をもたらします。
[戦略的先見性]:組織の異質な機能、決定、態度、結果のつながりを先読みすること。
これを困難にしているのは、深くサイロ化され、グローバルに分散したチームや、依存関係を率直に問う真のパートナーシップや協調的なコンテクストの欠如で、これは悲惨な収束やひどいミスアライメントをもたらす可能性すらあります。誰も、苦労して作ったものが最後にとんでもないことになるのを望んでいません。つながり(またはその欠如)を理解することで、そのようなサプライズを防ぐことができ、チームが適切なプロセスを得るための準備ができ、事態がおかしくなる前に有用な「介入」の瞬間を持つことができます。
[知的ヒューマニズム]:問題に対する批判的な視点と深い分析に基づいたニュアンスのある語彙を提供すること。
これは、効率的なコミュニケーションのために最適化された、社内用語、頭字語の略語、味気なくステレオタイプですらある顧客像で埋め尽くされた思慮のない技術的な話(納期の速さに感謝!)が矢継ぎ早に行われることによって、大きな問題になっています。しかし、人間の純粋な好奇心によって形成された、複雑な層を深く解き明かそうとする気持ちを表す言葉を使って日々の会話を豊かにすることは、気づきによって目を見開き、考え方を少しだけ鋭くすることになるかもしれません。
[創造的挑発]:過激でスペキュラティブな提案をすることで、リスクを伴う対話を引き起こし、新鮮な視点を可能にすること。
これは、安全、確実、予測可能な効率的なアウトプットを確保しようとする試みには絶対に反するものですが、人間中心のイノベーションを大切にするあらゆる組織の生命線として欠かせないものです。挑発するということは、現状や主流のものに挑戦し、許容できるリスクの限界をを押し広げるような代替案を生み出すということです。ハーバード・サイモンがデザインの中核的特性として語った「既存の状況を好ましい状況に変える」ことを私たちが求め続ける理由は、ここにあることが多いのです。
これらの原則に続くのが、メタデザイナーの実践的な仕事を象徴する行動です。
意味のあるものを提供するだけでは十分ではない。その意味は、人間を尊重し、サポートするものでなければならない。
もちろん、ここで述べていることのいくつかは組織行動学や心理学、あるいは単純に企業内セラピストの話のように聞こえるかもしれません。それは間違いありません。しかし、ここではメタ・デザインという概念が鍵を握っています。それによって、意図と意義と実践による結果とが合流するからです。
これは、単にホワイトボードに色とりどりの付箋や投票用のドットを貼って熱狂することではなく、行動の中から起こることです。極めて重要な成果のためにエンパワーし、それを実現できるようにするには、力と枠組みを意図的に形成することが必要です。これは画一的なアプローチではありません。スタートアップから多国籍企業まで、すべての組織は、独自の条件で別の見方をしなければならず、顧客主導のゴールをサポートするためには、プロセスと文化のバリエーションが必要です。これは、コンテクストと目的、そして実行可能な成果を深く問い直すことを意味します。
このような意味でのメタ・デザインは、ヒューマニズムと主知主義という戦略的意味が込められたデザイン実践の次の壮大なフロンティアとなるでしょう。私たちがデザイン思考+カスタマーエクスペリエンス+ユーザーエクスペリエンスを、単なる 「成功するビジネス」のためのチェックリスト以上のものにしたいのなら、これらの要素が必要になります。このアプローチを推進するために、あはなた何をしますか?それは確かに野心的で、取り組みは漠然としていますが、実現可能性や価値がないわけではありません。
注)『ブラック・ミラー』(英: Black Mirror)は、2011年から放送されている英国のテレビドラマシリーズ。新しいテクノロジーがもたらす予期せぬ社会変化を描く、ダークで風刺的なSFアンソロジー。(wikipediaより)
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英文はmideumで公開されています。
●Rise of the Meta-Designer
https://medium.com/the-designers-speakeasy/rise-of-the-meta-designer-85600c82b86a
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