タイトル-1

CX Talk Session 1

CX Talk - Session 1

CX Talk 第1回目のセッションは、先端テクノロジーを活用して多くの企業のデジタル課題の解決に取り組むNTTデータ先端技術の平岡様をお招きし、先端テクノロジーとビジネスデザインの関係やグローバルCXとガバナンスの課題について語ります。

Guest

Hiraoka


平岡正寿(ひらおかまさとし)

NTTデータ先端技術株式会社
コーポレートエグゼクティブ(デジタルビジネス推進)

ソフトウェアソリューション事業本部 APテクノロジー事業部長SIer、コンサルティングファーム、ベンチャー、NTTデータを経て、2020年から現職。
システム開発、データベース設計をバックボーンとし、直近10年ではAgile開発/大規模Agile開発の実践、お客様DXの支援、サービス創出の支援と、そこに纏わる組織立上げなどを主な活動領域としている。

Guest

JB


Jonathan Browne
(ジョナサン・ブラウン)

株式会社mct 取締役/コンサルタント

ロンドン出身。ケンブリッジ大学日本学科卒業。
2000年、フォレスター・リサーチのジャパン・オフィスを設立。
日本にペルソナやカスタマージャーニーマップのノウハウを伝授。
2009年から、フォレスター・ロンドンに移籍し、CXマネジメント、CX戦略などのコンサルティング、顧客とのコ・クリエーションPJなどを推進。
2017年、独立後、様々な企業とのPJ展開、グローバルCXのレポートを執筆(CSAリサーチより出版)。
2019年、mctにジョイン。言語は英、仏、独、日。趣味はハイキング。

デジタル投資の「主」と「従」
目指す体験の追求か、他社追従の継続か

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Jonathan Browne 以下 JB)
本日はお時間を頂きありがとうございます、平岡様と「先端テクノロジーとビジネスデザイン」や「グローバルCXとガバナンス」に関するお話ができれば幸いです。

さて、企業が新しいテクノロジーを導入する理由はさまざまです。コスト削減、サービスの拡充、規制への対応などが考えられます。最近のNTTデータ先端技術様の取引先のリーダーとの対話から、企業がテクノロジーを採用する主な理由についてお話しいただけますか?


平岡 正寿様 以下敬称略)
本日はよろしくお願いいたします。
新しいサービスを作り出すために、新規のテクノロジーを導入する、という流れがストーリーとしてはかっこいいのですが、正直なところそういった流れがそれほど多くは無く、競合他社が取り組んでいるのでそこに追いつかねばならないという恐怖感や焦り、あるいはコスト削減や省力化といった理由も相変わらず根強いと思います。
加えてよく伺うのは、技術負債の払拭。レガシーシステムのコードはスパゲッティ化していますし、古くなったテクノロジーはコストを圧迫しがちです。新しいテクノロジを導入し、価値を生み出すことが「従」となる関係で相談を頂くことが多いように感じます。

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JB)
なるほど。そうしますと、最近「 デジタルセイムネス」という単語をForrester Research社のアナリストが発信し、耳にすることが増えてきましたが、自社も競合他社も同じプラットフォームを使うことになるため、デジタル上の体験の中に、差別化ポイントがなくなってしまうのではないでしょうか。
 
どの銀行を利用しても同じような体験、どの製品を購入・利用しても同じ体験、そういった問題が起きそうですがいかがで
しょうか?

平岡)
おっしゃる通り、そういったことが起こってきているように感じます。 今、多くの企業がAWS*1やAzure*2・GCP*3などのクラウドサービスを使っていますが、その上に乗っているサービスを全員が使うというような状況になると、その状況における”テクノロジー”の優位性は希薄になると思います。

 ひとつひとつのデジタルの機能の新しさや優位性はなく、使われるものは技術的には同じだけれど、それをどう組み合わせてどう使うか、どういうサービスに仕立てるかのところに優位性が出てくるのではないかと考えています。「同じ技術、違うサービス」これによってデジタルセイムネスを避け、差別化を推し進めていくのではないでしょうか

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JB)
その通りですね、同じテクノロジーをベースとしつつも、顧客が受けるエクスペリエンスで差別化を図らないといけないですね。とはいえ、企業が事業や予算の計画を立てる際に、競合他社ばかり追いかけているようでは、これまでの枠組みを超えることや、新しい発想は生まれにくい。「out of the box」な状況を作れないと言われています。

お話をしながら思い出しましたが、私の母国であるイギリスの企業では、「社長のdavos envy」という言葉がありまして、企業の社長が一同に集まる場面へ出かけた際、現地では自社での取り組み事例などを紹介しあうのですが、帰ってきた社長が「なぜうちには他社で実現できているこの機能がないのか」とIT部門に指摘をし、それを作ることになってしまうという揶揄があります。


平岡)
そうなると、まさに差別化の図れないサービスになってしまいますね。


JB)
もともとの目的、顧客にどのようなエクスペリエンスを提供したいかではなく、ただ他社の持っている機能を自社でも持つことを目指してしまう状態は必ず避けねばならないと思います。

*1 Amazon Web Services: Amazon Web Services, Inc.が提供するクラウドコンピューティングサービス
*2 Azure(Microsoft Azure): マイクロソフトが提供するクラウドコンピューティングサービス
*3 GCP(Google Cloud Platform): Googleが提供するクラウドコンピューティングサービス

新しいテクノロジーへ常にチャレンジする
組織カルチャーを醸成することの重要性

平岡)
テクノロジーについて新しいものが今後もたくさん出てくると思いますがそれらは誰もが使えるようになるまでの時間も短くなっています。クラウドなどはわかりやすい例ですね。今後も技術的に新しいものが出てくるでしょうが、お金を多少払えば個人でも使える環境があり、企業しか使えないといったことはなくて、技術は開放されている状態といえます。

サービスにおいて、本来はこういうビジネスをやりたいとか、こういう顧客体験を作りたいっていう思いがあって、新しい技術でそれをどう実現するかを考えるっていうのが王道だとは思うんですこのストーリーだけではなかなか差異化を実現するのは難しいかなという気がしています


JB)
サービスやビジネスのこれまでの検討の延長では「out of the box」な状況を作れないのではないかと。


平岡)
はい、なかなか枠の外に出られないのではないかと。そういった時に価値があると思うのは、例えば生成系AIのようなディスラプティブな技術です。新しい技術を目にしたときに、ビジネス全体への使い道は思いつかなくても「この技術を使い、このようなことになると面白いのではないか」、「この技術がこういったことをサポートしてくれるなら、こういった活用ができるのではないか」と、使い道を検討すること枠の外で考える機会になるのではないでしょうか。もちろん王道も変わらず王道としてあるべきだと思いますが。

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JB)
平岡さんのおっしゃるプロセスに私も賛成いたします。一方でそういった気持ちを利用した、テクノロジーに対するホラ吹きのような人達も発生しやすいのではないかと心配になることがあります。
約20年前、ドットコムバブルが弾ける前で、多くの企業が目的も考えずネットテクノロジーを導入し、バブルがパーティーだとしたら、はじけたあと二日酔いの様な状態になってしまいました。生成系AIにおいても少しそのような懸念がありますがいかがでしょうか?

平岡)
そうですね、いろんな意見があると思いますけども、よく言われるようなAIを始めないと大変なことになりますよ」といった伝え方は、具体性がないので、そのままでは単なる脅迫のように感じます。しかし、実際に自らのビジネスシーンで試してみて「あ、こういうことができるんだ」もしくは「こういうことはできないんだ」という体験しないことは「大変なこと」ですよ、とは言えると思います。 

その体験から、テクノロジーを活用した、PoC(Proof of concept)やMVP(Minimum viable Product)の検証を経て、 良し悪しの判断、その結果としての継続や断念の判断を組織的に行う仕組み、プロセスがない、社員のチャレンジしてみようというマインドを持ちにくい組織は「大変なこと」になるかもしれない、ということだと思います。そういった文化や風土は突然にはできないので。

JB)
「生成系AIに取り組まなければならない」ではなく「新しいことに対してトライをする状態を持っていないことがまずい」ということですね。


平岡)
はい、その組織がそういったマインドを持っているのかどうかが今後の重要なポイントだと思います。mctの皆さんはそのような、人を育てることやマインドをその会社に育むということがお仕事ですよね。


JB)
はい、そうですね、これまではデザインシンキングやサービスデザイン、最近ではフューチャーデザインといったプロセスの理解とマインドセットに関するご支援が多くありましたが、今後はテクノロジーも組み合わせたデザインプロセスに取り組むカルチャーの醸成に関するご支援が必要になるのではと考えています。

それに伴って、これまでテクノロジーに関連する部署やテクノロジストだけに限られていたことを、マーケティングやサービス部門へと広げ、部門を横断した取り組みの機会が増えるのではと思いますが、そのあたりはいかがですか。

平岡)
そういった機会は増えて行く気がしますね、もちろんそれはよいことだと私も思います。一方で先ほどお話した通り、テクノロジーに対するアクセスの敷居が下がっているが故に、いわゆる市民開発といわれるような取り組みも加速しているように見えます。もちろんこういう活動はマインドセットの醸成という観点からも重要だと思いますが、市民開発を無条件に推奨することには少し懐疑的ですジネス環境やビジネスプロセス、テクノロジーそのものが変わり続けていく中、技術に常に新しいものとってかわられる可能性があり、それが技術負債となる可能性がある、という点からです。

新しいものへのチャレンジと同時に継続的な改善も含めて技術負債とのバランスを維持することがテクノロジーを活用するということだと思いますし、技術者の活躍が期待される1つの分野でもあると思います。


JB)

短期の視点だけでなく、中期長期でのバランス感覚も重要ということですね、ありがとうございます。

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グローバルCXの鍵は、「世界共通で最適化すべき部分」と
「各地域ごとに任せるべき部分」の線引き

JB)
今後、多くの日本企業がグローバライゼーションの取り組みを進め、ますます重要になると思いますが、テクノロジーを提供する立場から、日本企業のグローバルCXの取り組み、現状と課題についてどのように考えていらっしゃいますか。

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平岡)
グローバルCXの体感はJBさんの方があるんじゃないかと思いますけどね笑。

テクノロジー世界共通のものなのでグローバルも何もありません。どこどこ発のテクノロジーというのはありますけど、それが良ければ、みんな使う。クラウドに乗っかっちゃえば、もう場所に関係なくみんな使います。

仕事上、ウェブサイト構築や、そこからのデジタルマーケティングの検討をさせていただくことも多いのですが、グローバルの視点で難しいと感じるのはテクノロジー自身ではなく、テクノロジーを活用するCXどこまで共通のものとして提供するか、どこからローカルのものとするか、という点です。

とあることを気持ち良いと思う人たちもいれば、そのことをあまりハッピーだと思わない人たちもいるわけですね。そこには国地域に起因する文化的な差異が結構あるわけです。あくまでその体感として思うのは、グローバルCXに取り組む上で共通的に考えるべきことと、国や地域など、文化的枠組みでカスタマイズ、適合させるエリアをちゃんと分けるべき全世界共通のテンプレートみたいなものを作って、これに全地域合わせましょう、というようなやり方はうまくいかないことが多いですし、一方で各国・各地域で完全に自由でやっていいよと言うと企業としてのガバナンスがうまく発揮できないわけです。

「このルールは統一化しよう、CXは必ずここを守ろう」という企業・組織のポリシーと、各国や各地域の特徴、文化特性に合わせてカスタマイズを許す領域を、企業の持っているマインドやその業界の特性に合わせて(難しいですが)きめ細やかに決める必要があると思います。

現状、グローバルCXをそこまでちゃんとやろうと考えらっしゃるお客様は、それほど多くない気がします。なるべく統一したいという方向に向かう事が多いですが、実際はうまく統一できないということを実はお客さんもよく理解されていて、バランスで悩んでらっしゃるという感じなんだと思います。

JB)
テクノロジーの話ではないのですが、以前、4年前ほど前に、元シェルのグローバルCXを担当している人にインタビューを行ったのですが、シェルが例えば、ガソリンスタンドのカスタマーエクスペリエンスを改善しようとした時に、各リージョンのマネージャーには、ガソリンスタンドに入った顧客に「ゲストであるという気持ちになってもらわなければならない」というように定めたのですね。でも、国によって、ゲストに対するおもてなしは違います。

そのため、本社が「お客さんがガソリンスタンドに入った時には、こういう挨拶、こういう風に対応してください」とは定義せずに、 各国に、ゲストに対するおもてなしの仕方を任せたのです。

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平岡)
すばらしい取り組みですね。

JB)
日本では日本式のゲストに対するもてなしがあると思いますし、スコットランドだったらスコットランドのやり方もあるし、アメリカだったらアメリカのやり方があります。それが、今度は技術でサポートしないといけなくなると思いますので、フレキシビリティが必要になると思います。言語もそうですね。

時代や文化圏による変化に対応するために、
システムが持つべき柔軟性

平岡)
そうですよね。今のお話だと、多分、「ゲスト」という人の定義はできるようになっているけど、その定義の中身までは書かないということですね。

そして、例えばガソリンスタンドの例を使わせてもらうと10数年前日本ではガソリンスタンド行くと、ガソリンスタンドのスタッフの人が車に駆け寄ってきて、「いらっしゃいませ」という挨拶の後、ゴミを捨ててくれたり、灰皿をきれいにしてくれたり、窓を拭いたりしてくれたりしていました。

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JB)
そういうおもてなしがあったんですね。


平岡)
でも今となってはそういうおもてなしをしてくれるところずいぶん少なくなっているんです。セルフサービスのガソリンスタンドも多くなっていますし、ゴミも自分で捨ててくださいと書いてあるんですよね。これは悪いことではなくて、そのように価値感も変化していくということです 

日本はそういう風に変化しました、他の国は違う変化をするはずで、その変化に対応できるように(広い意味での)プラットフォームを用意するというのがテクノロジーとしてグローバルCXに対応していくための共通で必要な部分ではないかと思います。その変化対応準備することが共通化されるべきもので、変化自体の本当のリアルな対応は各文化圏ごとに行うことになるんだと。さっきのシェルさんの場合、「ゲストをおもてなししましょう」というのは各国共通のプラットフォームだったわけでそれが素晴らしい。そういった線引きを決めるのが大変だと思うんですよね。色々なCXの場面で、ここまでは標準、ここから先は文化依存みたいなところを丁寧にやっていくことがグローバルCXのポイントかなと思いますが、これはなかなか難しい。

JB)
おっしゃる通りとても難しいですね。

先週、私の前の上司が講演していたこともあって、南アフリカで行われたカスタマーエクスペリエンスマネージメントフォーラム(CEM Africa)Youtubeで見たのですが、そこで現地企業の人達が心配していたことは、アフリカはフォロワーなので世界のテクノロジーがアフリカに入ってきますが、サービス構築などの際に、そのテクノロジーがアフリカの文化に合わないということでした。

そこで出ていた話が、例えば銀行のシステムにおいて、AIなどを使って自動的なリスクアセスメント、例えばローンを出すか出さないかを決定できるモデルがヨーロッパやアメリカで完成したのちにアフリカに持って来たとすると、 アフリカのライフスタイルに合わないのでは、という話でした。アフリカのファミリーはヨーロッパのファミリーとは違いますので、 同じモデルを使ってもちゃんとリスク評価ができないのでは、という心配を皆がしていたので、モデルの中にそういったフレキシビリティがあることはやはり必要ですね。

平岡)
そうですね。今の話だと、「リスクを評価する」ということは共通化されていて、「どうリスクを評価するか」は文化圏ごとに決められるようにしておくというのが重要だったんですよね。何種類のパターンを用意すれば適切なのか、こういったこれがとても大変なのだと感じます。

先ほども言いましたけど、文化そのものは変わっていくので、いつどのように体験をアップデートするのかは各文化圏に任せる必要があるんですけど、そこにはそれができる体制が必要で、当然お金も必要になります。グローバルCXは緻密にやればやるほどお金がかかると思うので、そこのバランスをどう見るかの難しさがありますが、こういった部分に、AI的なものによるブレークスルーの可能性があるのではという気はします。

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テクノロジーの進化に適応するために、
明日から我々がすべきことは

JB)
これからのテクノロジーの進化に適応するために、将来のプロフェッショナルが必要とする知識やスキルは何だと思いますか。企業がどのようなスキルを開発しないといけないかについて、コメントをいただきたいです。

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平岡)
新しい技術が出てくると、多くの人がまずは使ってみようとします。最近だと、ChatGPTはこんな風に使うと面白いねみたいな。

将来の技術やCXのプロフェッショナルになると考えると、そこの下にある本来の仕組みや構造を正しく理解するということは重要だと思います。なぜそれがどのようにできているのか、なぜChatGPTは気の利いた答えを返すのか、なぜ時々間違えたり、ありもしない答えを平気で言ってしまうのかなど。すべて、裏仕組みがあるからなんですが、それが分かると改善の方法を検討できたり、新しい使い方に気づいたりもできるので、本来の仕組みや構造をちゃんと学ぶことが重要かなと思います。

あと、これはよく言われていることではありますが、あえてここで言わせていただくと、テクノロジーがビジネスにどう価値が提供できるかを常に考えながらやることだと思います。 技術が大好きだから技術だけをやっていればいいわけではなく、それがビジネスのこの場面でこのような形で役に立つのではということを常に考えながら技術を触るということが重要だと思います。

そのためにも、いろいろなプロフェッショナルとコミュニケーションをしていただければと思います。

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自分の知らないことを知っている人は世の中にたくさんいるわけで、そういう場に出ていってコミュニケーションするということは、多分プロフェッショナルがプロフェッショナルであるために必要なことだと思いますし、今日JBさんとお話できて、僕はちょっとプロになれたわけです笑。そういうことかなと思います。


JB)
今日話せてよかったです。ありがとうございました。


平岡
)
こちらこそ、ありがとうございました。

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