~ビジュアルデザインの思慮と感性~
「WOWが目指すのは、時代を敏感に反映させながらも、決して流されることのない普遍的な価値を持ったデザイン。 独自のプロセスでアートとデザインを一体化させる。コラボレーションによって分野という壁を越える。 インタラクションデザインからビジュアルデザインを導き出す。我々が創りたいのは、ビジュアルデザインの先にあるさまざまな分野の技術、 知識、美意識を結集できる、エモーショナルなプラットフォームなのだ。」
東京と仙台、ロンドンに拠点を置くビジュアルデザインスタジオWOWは、CMやVIといった広告における多様な映像表現から、さまざまな展示スペースにおけるインスタレーション映像、メーカーと共同で開発するユーザーインターフェイスのデザインまで、既存のメディアやカテゴリーにとらわれない、幅広いデザインワークを展開しています。さらに積極的にオリジナルのアート作品を制作し、国内外でインスタレーション展示を多数実施。 作り手個人の感性を最大限に引き出しながら、ビジュアルデザインの社会的機能を果たすべく、映像の新しい可能性を追求し続けているクリエイティブリーダーです。
デジタルがコミュニケーションを大きく変えた今でも、ビジネスやクリエイティブのさまざまな状況で「伝える」ことに関わる仕事をされ、その難しさを痛感することも少なくないのではないでしょうか。
WOWの仕事はビジュアルデザインを中心にしながら多岐に及び、さらには社会的な課題にも取り込もうとしています。しかし、そのクリエイティブな仕事を根底で支えているのは、「伝える」ことだと言えるでしょう。
DMNでは2014年2月に、ビジュアルデザインの分野で、常にもっともすばらしい仕事をしているWOWの、新鮮でクリエイティブで心に響くコミュニケーション力はどこからくるのか?を、わかりやすく教えていただくセッションを開催しました。
この《「伝える作法」プレミアムレッスン》では、WOWの創業メンバーでアートディレクターの鹿野護さんを特別講師として、WOWが培っている「ビジュアルデザインの思慮と感性」とはたとえばどのようなものなのか、また、言葉では伝えられない非言語のコミュニケーションの重要性など、鹿野さんがさまざまな研究と深い洞察から得たことを、惜しげもなく紹介、解説していただきました。本レポートの中にも、皆さまの日々のお仕事に直結するヒントが数多くあると確信しています。
WOWのコミュニケーションが素晴らしいのは、なぜだろう?
今日は伝える作法というテーマで、表現する中での心得的なところをご紹介します。こんなフォントを選んでレイアウトするとキレイになる、という技法的なことではなく、どのようなマインドで伝えることを設計するか、ということをお伝えできればと思います。
これから、自己紹介、伝える、ことばとしぐさ、視覚、ファンタジア、表現という順番でお話しします。WOWがこういう考え方でやっているわけではなくて、私が中心でやってきたことについてお話しします。 そこで、このムービーを見てください。お父さんのギター演奏に合わせて踊り出す双子の赤ちゃんのムービーです。お父さんのギター演奏を聞いて動き出してから、お互いに目を合わせる瞬間があります。これいいよね、という雰囲気を2人でだしている。アイコンタクトをとるというのはコミュニケーションの中で大きい要素です。それをデザインで創り出すのは非常に難しい。家族の中では自然にできるが仕事のなかで生み出すのは難しい。だから、これを繰り返して見ています。
私は現在、取締役としてアートディレクションやコンセプトのデザインをしています。もともとは現場で制作していましたが、今は俯瞰してデザインを捉えていく仕事をしています。また、昨年から地元の大学のほうでエクスペリエンスデザインを教え始めました。私は、大学で情報デザインを学んで、その後、コンピュータグラフィックスに猛烈にはまりました。その後、プログラミングにはまり、インターフェイスデザインに力を入れました。3つの表現に関わって、表現そのものをどのように捉えていくか、という情報デザインにマインドが戻っています。
WOWという会社は1997年、私が拠点としている仙台で始まりまして、2000年に東京に本社を移します。2008年にロンドンに、パートナーが出資する形でオフィスを作りました。海外の仕事の橋渡し役となっています。少しずつ海外の仕事が増えていまして、特にヨーロッパを中心にしています。トルコの建築家と一緒にインスタレーションをやったりしています。
WOWの仕事の中心はモーショングラフィック。コンピュータを使ったり、実写を使ったりして、時間のデザインをして、ビジュアルを動かすということです。
もう1つ柱になっているのがインスタレーション。映像を単に上映するだけではなくて、映像を空間に置くことで、映像を体験するもの、遊ぶものに変容させることができます。それを7年前ぐらいに始めまして、その頃に私はプログラムを始めました。最近はユーザーインターフェイス(UI)のデザインに興味を持っています。オリジナルのアプリケーションのデザインもしていますし、メーカーの人たちと一緒にプロダクトの中に入れるUIのデザインもやっています。
WOWがどんなことをやっているか、ひとまとめにしたムービーがありますので、それをご覧ください。(約3分上映)。展示会の映像やパリコレのものです。三宅一生さんのプロジェクトもあります。屋外でのプロジェクションマッピングもあります。今、見ていただいた映像というのは、基本的にはクライアントの方と一緒に作り上げたものです。
オリジナルワークスといって、自ら映像を創ることを心掛けています。創業して以来、1年に1本は皆が面白いと思えるものを作ろうという決まり事を作りました。利益を生まないといっても手は抜きません。撮影をしたり、スタッフを集めたりして、自分たちがやりたいことをやっています。
その延長でインスタレーションにたどり着きました。あるとき、展示する機会に恵まれて、映像を展示するとどうなのか、と皆がそこにチャレンジした。今まで思っていた映像のイメージから、何歩も進んだ新しい表現が可能になると気づいて、そこで自分たちの新しい柱を作ることができました。直接的には売上にはつながらないが、自分たちのモチベーションを再確認するという意味でオリジナルワークを作っています。
これは2008年に作った「工場と遊園地」という作品です。仙台の美術館のフロアをフルに使って展示した、横幅40メートルくらいある作品です。画面の半分の20メートルがシルエットの映像になっています。そこで、いろいろなものが工場で作られる。もう半分の20メートルは遊園地という形になっています。工場で作られたものが大砲で撃ち出されて、遊園地のほうに飛んでいきます。それが人の影に反応してはじけたりする。半分は普通の映像で、半分はインタラクティブという作品を作りました。
世界観を説明なしに伝えられて、自然に遊べて楽しめるもの。しかも、日本人でなくても楽しめるもの、ということで作りました。なので、モチーフは非常にシンプルです。こんなふうに遊んでくれるのが、私たちにとって新鮮でした。これが、新しいデザインをやっていこう、という1つのきっかけになりました。
そのときのビジュアルを評価していただいて、スマートキャンパスという電子ペーパーを使った時計のビジュアルにも採用していただいた。2月から予約開始になります。
伝えるのは難しいと感じています。そこで、皆さんにちょっと頭の体操をしてほしい。お配りしたプリントに時限爆弾が書いてあります。赤か青かという究極の選択をしなくてはいけない。その紙に、ここを切ったら止まるよ、というアイコンや模様を描いてください。国境を越えて、どんな国の人でも、このマークが書いてあれば、間違って切らないだろうというマークです。
いろいろな答があって面白いんですが、ある学生がはさみを書きました。でも、切れば安全なのかどうかわからない。これが書かれていると非常に混乱します。ある学生はニコニコマークを書きました。ここを切れば大丈夫ということらしい。でも、犯人が書いたものだとしたら恐ろしいマークになる。二面性をはらんでいます。
○と×も書いた人もいました。これも混乱します。自分にとってか相手にとってかわからない。その中で、1つ面白いのがドクロマーク。ドクロマークが書かれていたらドクロマークのほうは切らないだろう。でも、罠かもしれません。
誰が誰に伝えるのか
私はいつも何かアイコンを作ったり、シンボルを作るときに、この例題を思い出す。情報を誰が伝えているのか、ということが相手に届かないと、情報の意味が反転してしまう場合がある。ドクロは誰が書いたのか。誰が書いたのかわかれば通じる。
伝える先というのが誰かによって変わってくる。こちらの人から、あちらの人に伝えるというときに、誰に伝えるかというのが重要で、次に重要なのが、どうやって関心を惹き付けるのか、ということです。
WOWという会社では魅力的でふさわしい表現が要になっているので、この状態で、この人を振り向かせるのが我々の使命だと考えています。魅力的でふさわしい表現をすると相手は見てくれますが、そのとき意図はちゃんと伝わったのか。こちらの頭の中にあったものが、あちらに伝わったのか。私はメンタルモデルと呼んでいるが、頭の中にあるメンタルモデルを相手と共有できるのか、ということを考えています。
ここで重要なのは言語の情報と印象です。それが怖いものなのか、楽しいものなのか。言語情報と印象の両方が伝わることが重要だと思います。次に重要なのは、魅力が伝わったのか。これがものすごく重要だと思っています。
お互いのメンタルモデルが一致して意図やコンセプトが伝わっても、それが素敵なものだと相手に伝わることが重要です。そのときに重要視しているのが、伝える人の背後にある、大きい概念。私は世界観と呼んでいるが、ブランドという言葉に置き換えるとわかりやすい。世界観が相手に伝わることで魅力を伝えることができる。
さきほど言語の情報と印象の両方を伝えることが重要だと言いましたが、私は、ことばとしぐさと呼んでいます。この2つが掛け合わされて情報が伝わっていきます。先ほどの双子の赤ちゃんのムービーでは、2人は言語情報を使ってなくて、アイコンタクト、笑顔などのしぐさで印象を伝えていました。この音楽、好きだよね、というのが、しっかり伝わっていた。
もう1つ例があります。これはコントで、言語情報に頼ってコミュニケーションを図ろうとしている。アンジャッシュという芸人さんのコントです。
●コント映像概略
(※メールでやりとりしている2人。メールの抜粋)
小島「でんぱくどうの小島です。この前はお疲れ様でした」
渡部「こちらこそお疲れ様でした」
小島「渡部さんの企画、最高でしたよ」
渡部「今度、乾燥機貸してください(かんそうきかしてください)」
小島「そういえば、のぞかれている気がしていると言っていましたが、大丈夫だったんですか」
渡部「木の精でした(きのせいでした)」
今、皆さん笑ったと思うのですが、実は、これにすごく近いやりとりのエラーを経験されたことがあるのではないかと思います。お客さんとのやりとりでも、社員同士でもある。言語は明解に伝わっているのに、意味がちょっとずれて伝わったり逆にとられたりすることがある。
さきほどの赤ちゃんとまったく逆ですが、言葉の情報と印象の意図の両方が伝わらないと、コミュニケーションとしてうまく成立しないことがあります。それは映像を作るときに強く感じます。
コピーとビジュアルがずれていたりとか、ちぐはぐだったりとか、似ている情報なのに、うまくかみ合っていないことがままある。印象と意図と言語による情報というのを両方伝えるために、それを確認していく必要がある。
立川談志が「人間関係は良い誤解か悪い誤解かしかない」と言っている。これは言い得て妙と思っていて、ケンカをしたりするといつも思い出す。本当に意図がしっかり伝わっているというよりは、たまたま、印象と意図が良い誤解か、悪い誤解かで伝わっているだけではないかということです。
ことばの情報はバーバル。しぐさの印象はノンバーバル。どちらがすぐれているかではなくて、それぞれのよいところをうまく組み合わせていく必要がある。ですから、何を言葉で伝えて、何をもって印象として伝えるのかというのを常に意識しています。これをしないと、よいコミュニケーションを作り出すビジュアルを作れないのです。
パントマイムをやる方が話していたのですが、時間経過をパントマイムで表現するのは非常に難しい。5時間後に何かする、というのを5という数字を使わずに表現するのは難しい。どうしても言葉で表現せざるを得ない。ということは、時間経過、重さ、長さ、スペックというのは言葉を使わないと伝わりません。
仕事としてはビジュアルのデザインを本業としているが、そのコンプレックスからか言葉に敏感になっています。以前、「20世紀ボヤージ」という作品を個人的に作ったとき、言葉がたくさんでてくる作品を作った。そのとき、ありとあらゆる資料から、自分が気になった言葉をピックアップしました。そのアーカイブとして500個ぐらいあります。自分の心に残ったものをいつでも取り出せるようにしています。
もう1つ、その余波なのか、書籍のアーカイブをしています。これは自分専用のブログで、読んだ本の引用、気になった文章をとりだして、1冊について1000文字から2000文字くらい書き込んでいます。ブログなどのデジタルツールは、人に公開するために活用するのではなくて、自分のアーカイブのために活用すると、ものすごく強力です。
常に自分の書籍だったり、自分のデータベースを作るという感覚で情報と接することで、世界の見え方が変わってきます。この厖大な言葉たちから、ビジュアルを創り出すことをやっています。
言葉を集めれば集めるほど、言葉の限界というものが見えてきます。まず1つが、状況を記述しきれないこと。この皆さんの状況を文字で起こそうとすると、多分、一人目くらいで限界が来ます。おおまかには記述できるが、この状況を言葉で伝えるのは難しい。だけど、写真1枚で明解に伝えることができます。
言葉を使っている以上、言葉という思考ツールなので、その思考から逸脱するのが難しくなります。たとえば、ランダムな言葉を次々とだしていく、というのは人間は非常に苦手です。思考から逸脱しなければならないケースでは、言葉ではなくて、しぐさだったり、非言語の情報を使うように心掛けています。
言葉にしかできないことがあるし、ビジュアルにしかできないことがある。その両方をしっかり認識することによって、初めて生まれてくるビジュアルコミュニケーションがあると私は信じています。
言葉では伝えられないものの中には世界観があります。醸し出している世界観を言葉で伝えるのは難しくて、しぐさだったり表情だったりとか、言葉ではない情報で伝えると、すごく簡単に伝えることができます。
ここでしぐさと言っているのは人間のしぐさだけではなくて、ふるまい、動き方、タイミング、リズムなども含まれます。それから、視線、身振り、表情、しゃべり方、間合い、沈黙、色、など言葉以外の情報を使って、皆さん、コミュニケーションをしています。特に、しゃべり方、間合いというのは、なかなか文章では伝わらないもので、人間はすごく敏感にそこを意識します。同じ「ありがとう」という言葉でも笑顔で言われるとうれしい。表情で印象が違います。「ありがとう」という言葉は伝わったとしても、顔がくもっていたり、怒っていたりすると反対の意味に伝わります。
非言語のほうが非常に強く認識されるケースがあると思います。とくに最近感じるのは居心地です。無意識に感じる居心地を、素晴らしい建築家やインテリアデザイナーは意識的に作りだしています。ですから、ビジュアルデザインをするときも、居心地に近い、無意識に感じられる魅力をいかに作るかということを心掛けています。
話し手の印象についてですが、話の内容は7%しかなくて、姿勢、しぐさ、外見が半分くらいを占めているというメラビアンの法則があります。声や話し方によって話し手の印象が決まるということです。9割くらいの印象が、言語ではないところで感じられてしまうことに恐怖感すら覚えます。
それを私たちの仕事に割り当てると、ビジュアル、モーション、インタラクションというのは、こういうしぐさのところに入ってきて、言い方、話し方は音、音楽、効果音になってくるのですが、音と映像のバランスによって伝え方の印象が変わってしまいます。
クライアントの方が素晴らしいメッセージを持っていても、表現が悪いと届かないばかりか、逆にとられるケースもあります。逆に言うと、これをうまく使うことによって効果的な情報伝達ができるとも言えます。
私たちのやっている仕事の中の大きい要素として、ことばとしぐさ、情報伝達と印象の伝達のパーセントをどれくらいにするかということが、とても重要だと考えています。これが限りなく、ことばによっているのか、しぐさによっているのか、もしくは半々なのか。そのプロジェクトによって最適なものがある。ですから、表現するときに最初に求められるのは、この閾値をどう変えていくかということだと思います。
ここで、2つのテレビCMを見ていただきたい。眼鏡市場という眼鏡屋さんのコマーシャル。これはかなり言葉によっています。話し言葉、テキストを駆使して、言語情報を詰め込んでいるコマーシャルです。
「眼鏡市場さん。本当にレンズ代込みで、1万5千円なんですか」
「はい」
「私の遠近両用は、すごく薄いやつなんですけど」
「大丈夫です」
「私はすごく度が強いんですけど」
「ご安心ください。超薄型ですと、一流メーカーのレンズが30種類以上からご自由にお選びいただけます」
「そうなんだな。眼鏡市場」
・・・・・・
(以上ビデオ)
情報がぎゅーと詰まっていると思います。もうひとつのCMはZoff。こちらは言葉は最小限です。
映像は、音楽をバックに女の人が街を歩いたりしている。音声はピアノの音楽のみ。最後に「天候にあわせてかえられるレンズ」というテロップが流れる。
(以上ビデオ)
まったくテキストを使わないコマーシャルもありますから、これは多少言葉を使っています。この2つのCMは対称的な例だと思います。映像としては後者のほうが優れていると思います。
これを授業で見てもらって学生に感想を書いてもらったところ、眼鏡市場のほうがいいです、という人もいた。目的に応じて、このバランスも変わってくるし、売り手に応じても変わってくる。
表現というのは、表現者が一番素敵な表現を創り出すということではなくて、より最適解として、言語と非言語の組み合わせを創っていくということだと思います。眼鏡市場は詰め込み過ぎ感はあるが、思わず買ってしまう。ビジネスの中でしっかり機能するという可能性を秘めている。
Zoffは直接的な売上というよりも、ブランドのイメージを構築するのに役立ちそうな雰囲気があります。表現というのは非常に多種多様なバランスの中で創られていて、こういう視点でコマーシャルや映像を見ると面白いのではないかと思います。
言語と非言語情報の最適なバランス。そのバランスを常に意識するのが、伝える作法という観点からいくと重要ではないかと思います。
後編に続く…
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