2014年に開催したDMNセミナーでは、過去30年近くにわたり、世界的第一人者として「コ・デザイン」分野を牽引されてきたリズ・サンダースさんに、具体的手法や事例と共に「コ・デザイン」の最新状況を紹介いただきました。
オープンイノベーション2.0
デジタル化とグローバル化がさらに加速し、ビジネスチャンスは急激に拡大する中で、多くの企業では社内知識よりも社外知識との融合がもたらす技術が急速に価値につながる新たなイノベーションプロセスとして、オープンイノベーションに取り組む動きが出てきています。
欧米を中心として積極的に取組まれているオープンイノベーションでは、世界中に存在する優れた知識や技術に瞬時に繋がって、自社の利益のためでなく、企業、研究機関、国、そして市民(個人)からイノベーションを起こしています。
とりわけヨーロッパにおいては、オープンイノベーションは欧州委員会(EC)などの組織や国家主導で先導され、ヨーロッパ独自の持続可能な社会を実現させるイノベーションモデルを構築・推進することを目的として、ソーシャルイノベーションへの取り組みから、産学官だけでなく市民を含めたイノベーションを推進しています。
欧州とその周辺地域が直面している課題は、それぞれの国が孤立して取り組むには大きすぎるため、新たなアプローチが必要となります。ヘルスケア、交通、気候変動、若者の失業、金融の安定性、繁栄、持続可能性、成長などの分野において、より良い解決策が世界的に必要とされています。これらの課題は、イノベーションを通じて新たな価値を共有する大きな機会を提供しています。
市民社会がビジネス、学術、政府部門と協力して、ある組織が単独でできることの範囲をはるかに超えた変化を推進するイノベーションを実現する活動がイノベーションのための新しいモデル「オープン・イノベーション2.0.」です。
オープンイノベーションをサポートするデザイン思考
そして今、オープンイノベーションにおいて,自社の知見をアウトバウンドしながら価値創造を展開する一つの方法としてデザイン思考が注目されています。チームで問題を深く観察し、ブレインストーミングによるアイデア発想、プロトタイプを繰り返す手法が、自社の知見を外部と連携して価値創造につなげるのに役立つからです。デザイン思考の「ユーザー中心」の視点が、オープンイノベーションを導入する際の重要な鍵となります。
ユーザーや関係者を巻き込んで課題に取り組む方法論であるコ・デザインの先駆者であるサンダーズさんは、現在は医療サービスを専門に手がけています。その方法論には多くの示唆があります。
今回のDMNのセッションは、製品開発、サービス開発、研究開発、組織開発などに携わっている方々、特にデザイナー、ユーザーリサーチャー、マーケットリサーチャーにとって、未来のデザインのためのマインドセット、メソッド、テクニックを手に入れる機会となったことでしょう。
未来デザインのマインドセット・メソッド・テクニック
2014年12月17日(水)
於インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター
本日は、コ・デザインについてお話しさせていただきます。今日、デザインからコ・デザインへと移行していることについてお話ししたいと思います。まず、エキスパート型のデザインと参画型のデザインでは、どういったマインド上の違いがあるか、という話をします。それから、個人のクリエイティビティ、集合体のクリエイティビティがあると思いますが、その背景についてもお話しします。
プレゼンテーションの後半では、実際にクライアントとやってきた例を示しながら、どういった形でコ・デザインが進められてきたのか、という話をします。最後には、コ・デザインの先にあると私が考えているもの・・・集団的なドリーミング・・・皆で一緒に夢を見ることについて話したいと思います。
デザインのプロセスでは変化が起きています。私がこのキャリアを歩み出した頃、1980年代に溯りますが、当時のデザインは人のためにデザインするというものでした。つまり、マーケティングのターゲットとしての個人のためにデザインするというやり方でした。
それ以来、たくさんの変化が起きました。今日ますます大きくなっているのは、人々と一緒にデザインするということ。また、個人だけではなくて、グループと一緒にデザインするというやり方です。
けれども、そのマップ自体は変わりません。今までのやり方の仕事もありますし、新しい仕事もある。そのどちらも同じマップ上に起きていることです。
過去、私たちが何をデザインしていたか。それは消費のためのデザインでありました。人々が購入して、所有して、使用するためのデザインだったのです。
しかしながら、消費者は単にものを消費するだけでは飽き足りなくなりました。消費者はクリエイティブになりたいと思うようになったからです。それが過去20年、現場で見て、一番、大きな変化だと感じている部分です。人々は単に消費するだけではなくて、自らクリエイティブでありたいと思う。行動を起こし、適応し、ものを作り、ものを生み出したいと考えているのです。
だから、デザイナーであるからには、人々が消費したいという願いとクリエイティブでいたいという願いの両方を満たしていかねばなりません。
イヴァン・イリイチの『コンヴィヴィアリティのための道具』という本にでてくる一節を読みます。ここには私たちが、コ・デザインやコ・クリエーションのときに使うアプローチのマインドがとてもよく表されています。
「人は単にものを入手するのみならず、何よりも自分を取り囲む環境のものを作る自由が必要である。おのれの思考に合わせて、それらに形を与え、そして、それらを彼らのために使うために・・・」
というわけで、現在、2つのマインドが作用しています。どちらも、能動的な作用ではありますが、対極的なマインドでもあります。
こちらのダイアグラムにでている流れを見てください。Rはリサーチャー。このリサーチャーがユーザーを調べ、それからいろいろな理論に基づいてインサイトを得ます。そのインサイトからリポートをまとめ、それらを情報源としてインスピレーションの元として、さまざまなものを生み出していくわけです。これがエキスパート型のデザインです。
一方、下側にあるのは参画型のアプローチ。登場人物は一緒です。ユーザー、リサーチャー、デザイナー。彼らが面と向かって一緒になって作業をしています。使っているツール、マテリアルは先程と変わりません。ここでユーザーはエキスパートです。何をデザインしているにしても、デザインにおいてはユーザーこそがエキスパートだ、という考え方、これが、参画型アプローチのマインドです。
それからもう1つ、ここ20〜30年の変化を言葉の変化でとらえると面白いものが見えてきます。つまり、誰のためのデザインであるか、その対象者の呼び方が変わってきているのです。
1980年代まではものを買う人は、顧客、カスタマー、消費者と呼ばれていました。1980年代になって、ユーザーという言葉がでてきました。たとえ、PCをうまく使えなくても、ユーザーと言われるようになったのです。
その後に、ユーザーはアダプターと呼ばれるようになりました。適応者という意味になりますが、買ったものを使うだけでなく、自分に合わせてカスタマイズする人がでてきたのです。そういった参画型のプロセスで、コデザイナーにもなりました。彼らは今まででてきたさまざまな呼び方のすべてであり、そういった彼らを捉えて、コ・デザインのプロセスに取り込んでいくことが鍵となっています。
今日、私たちはクリエイティビティが頭の中にだけに詰まっているものではないことを知っています。私たちのクリエイティビティは、私たちがどう感じているのか、どのように情緒的な状況にあるのか、という心と切っても切り離せないことがわかったからです。
頭も心も体の中にあります。私たちが歩いたり、起き上がったり、何らかのことを表現しようとすると、クリエイティビティが刺激を受けます。そういうわけで、クリエイティビティは、頭と心の中にあるだけではなくて、体の中にも詰まっていると言えるのです。
私たちは、だいたいにおいて、何らかの場所、何かの空間の中に身を置いています。その空間の中には、作業に使うマテリアルがあります。そのため、クリエイティビティの作業は、私たちがどこに身を置くか、また、どんなマテリアルを手にするかで、大きな違いがあります。
こちらの絵はブレーンストーミングを示している図です。たくさんのクリエイティブな人が、さまざまなアイデアを持ち寄ってブレーンストーミングをしています。それらのアイデアがぶつかりあうことによって、また新しいアイデアが生まれてくるという構図です。
ブレストはとてもよいものだと思いますが、すごくよいものだ、とまでは言えないと思います。ブレストでは、小さな散漫なアイデアがたくさんでてくるに過ぎないからです。
一方、私は、コレクティブ・クリエイティビティというやり方がよいと思います。たくさんのクリエイティブな人々が一緒になってフェイスツーフェイスで作業をしています。お互いに心を触れあわせ、身体を触れあわせながら、一緒にツールとマテリアルを作りながら、小さな散漫なアイデアではなくて、1つの大きなアイデアを作りだそうとしています。
そのような人々のバックグランドが多種多様であればあるほど、分野横断的なクリエイティビティが生まれます。さらに大きなアイデアを生むチャンスが生まれてくるのです。私がコレクティブ・クリエイティビティを喚起しようとするときには、参加した人々の心や頭や体が一緒にクリエイティビティを発揮できるように配慮します。特にツールと空間とマテリアルに特別な配慮をして、彼らの作業を手助けします。
私は、コ・デザイン、コレクティブ・クリエイティビティの状態に持っていく前に、現在、どういう状況にあるのか、それをしっかり把握するようにしています。つまり、一足飛びに新しいことをやる前に、まずは現状を理解するわけです。
こちらのスライドはデザインのプロセスを時系列的に表したものです。そして、この青い点、これはデザインするものを表しています。過去、私たちは、この青い点からデザインの作業を始めていました。つまり、クライアントから「こういうものを作って欲しい」という依頼を受けて、そこからデザインプロセスを始めていたのです。
今日では、その青い点より前の部分が、とても大きなフロントになりました。つまり、プレデザインの状態です。どういったものが必要なのか、何を作っていかなければいけないのか、を考えるところからデザインのプロセスが始まるという考え方です。
まず私は、現状を把握するために、こういった3つのカテゴリーに分けて考えることにしました。現在、行われているデザイン手法は、相手に何かやってもらうか、相手に何か喋ってもらうか、もしくは何か材料を渡して作ってもらうか、そのいずれかに当てはまります。人に何か言ってもらう、やってもらう、作ってもらう、ということですが、それぞれの依頼の仕方で違ったレベルのエクスペリアンスに対する理解が得られます。
消費者のエクスペリアンスを理解するということでは、インタビューしたり、もしくはフォーカスグループをしたりして、彼らの話を聞くのが1つ。それからまた、彼らの行動を見たり、使い方を観察したりというエスノグラフィー、観察といった手法があります。彼らが深いところで考えていることを知るには、それに関して何か作ってもらうのが一番です。そのことについては後ほどお話しします。
まず、現在のエクスペリアンスの理解ができた後、未来のエクスペリアンスに関する探索を行っていきます。ユーザーとその他、重要なステークホルダーと一緒にそれを探っていくのです。
こちらの図は先程のものと類似しているところがありますが、大きな違いもあります。単に聞くのではなくて伝えてもらう。そしてまた、やって見せてもらうだけではなくて、作って見せてもらう、もしくは表現してもらう、演じてもらうということです。このモデルはどの地点から始めることもできます。たとえば、参加者に未来についての話を伝えてもらい、それに基づいて表現してもらったり、何かになったふりをしてもらったりする。その後で、それをよく表すような小道具を作ってもらって、それを見せてもらうというやり方も1つだと思います。
矢印が双方向にグルグル回っていることからわかるように、どこから始めても、どの順番でやってもよいことになっています。いずれにしても、積極的な参画型のアプローチで彼らをプロセスに巻き込んでいくわけです。
後編へ続く…
(文責:編集部)
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