最初にデヴィッド・トング氏は、まだ使ってもいない新社屋を売却したアメリカのアウトドアショップREI社や、自宅をオフィスとするためにキャンピングカーを自宅に置いたケースなどに触れて、リモートワークが世界的に浸透していることを紹介した。
REI社が売却した使用していない新社屋
キャンピングカー「エアストリーム」を仕事場にしたトング氏の友人
ビジネス面においてはオンラインリテイリングの普及が新型コロナウィルスの影響で急速に進んでおり、さらにその流れが加速していくことに触れた。そのような状況の中で、企業においては経営層が率先してリモートコラボレーションを牽引する必要があり、リモート環境に対応した新しいマネジメント手法を適用するべきだと強調した。
トング氏は自身の経験から、リモートコラボレーションをする場合には対面の4倍の時間がかかるとして、次のように語る。
「リモートコラボレーションの際にはワークショップキャンバスを使うのが良いでしょう。ミーティングの目的、参加者、タスク、使用ツールなどをプランニングして、それらをBefore、During、Afterに分けて記入します。ファシリテーターが、ミーティングやアクティビティをやっている間にどのツールや環境が必要となるのか、どのような測定方法でリモートコラボレーションを評価するのか、を説明します。リモート環境ではタスク管理が難しいので日本の看板システムから生まれたプロジェクト管理ツール『Kanbanize』というツールを使うのもよいでしょう」
ワークショップキャンバス:Before、During、Afterに分けてミーティングの目的、参加者、タスク、使用ツールなどを記入する
日本の看板システムから生まれたプロジェクト管理ツール『Kanbanize』
トング氏はリモートコラボレーションのTIPSとして以下のようなことを紹介した。
①ストレスを軽減するためにメンバーになるべく責任を与えて、自らをマネジメントできる環境を作る。
②マネージャーと各メンバーがワンツーワンで話ができる時間を必ず設ける。
③午前は自分の仕事をする時間、午後はビデオ会議に割く時間などと区分けする。
④ビデオ会議では、レクチャー、ディスカッション、投票、ブレイクアウトグループなど、さまざまな活動を入れる。
⑤ボードに貼ったポストイットをカメラで撮影して見せるなど、従来のコミュニケーション方法と併用する。
トング氏のリモートワークの様子。
トング氏は照明やマイクにも留意するようアドバイスする
トング氏は、人とシチュエーションとツールの関係についてアドバイスする。
「Zoomのようなリアルタイムで使用する同期的ツールのときは人によって反応速度が違うので、多くの活動には非同期的ツールを用いたほうがよいでしょう。また、「miro」などの最新ツールを使うときもあるでしょうが、状況によってはGoogle Docsでも充分なケースがあるので、できるだけ慣れ親しんだツールを使ってください」
トング氏に続いて、ルーク・スタージョン氏はオンラインホワイトボード「miro」を用いて、ツールの選択方法と5つのリモートツールについての解説を行った。まず、ツール選択の際には以下の2つの質問について考えることが必要であるという。
①「同期的か非同期的か?」
②「コンテンツは重いか軽いか?」
2つの質問を軸にした図。代表的なリモートツールはこのような位置に配置されるので状況に合わせて選択する。
スタージョン氏はツール選択の際に留意すべきことをアドバイスする。
「今回、ご紹介する5つのツールは代表的なもので、それぞれ同じようなツールは20くらいあります。私は、リアルタイムの同期的なツールは効率が悪いことが多いと思います。プロジェクトに入ると1日かけてZoomコールに入っている場合がありますが、そうすると本当の仕事ができません。リアルタイムのツールは魅力的かもしれないが、仕事の効率を悪くするケースが多いと考えてください」
スタージョン氏が推薦するオンラインホワイトボードは「miro」。同等のツールには「Mural」もあるが、テンプレートの使いやすさとデザインからmiroを選んでおり、今回のプレゼンテーションにもmiroを使用している。また、自分のアイデアを記録するためにもmiroを使っているそうだ。
スタージョン氏が推薦するmiroの使いやすいテンプレート
miroで注意することは以下の3点である。
①最初、使うときには少なくとも20分、自信を持って使うためには1時間程度、習得に時間がかかる。
②リアルタイムで使用するツールであるため、一度削除したコンテンツはリカバリーできない。
③重たいコンテンツを使用するとパソコンの動きが遅くなる。
他にも様々なテンプレートが用意されているので、ぜひご参考ください。
リンク先:https://miro.com/ja/brainstorming/
プロジェクト管理ツールとしてスタージョン氏が紹介するのは「Asana」。To Do ListとCalendar Viewの機能があることが推薦理由である。Asanaを使うことで各プロジェクトのステータスが一目でわかり、ステータスアップコールが必要なくなるため時間が節約できる。スタージョン氏は、アメリカでBLM(Black Lives Matter)のデモが盛んになったとき、Asanaでアメリカにいる人たちからのアップデートがないのを見て連絡するのを控えた。その後についてスタージョン氏は次のように振り返る。
「アメリカはBLMで大変なので、プレッシャーをかけないで静かに待っていればよいと判断しました。その2週間後にアメリカの人たちと話ができたときに『実はもっとサポートが欲しかった。連絡してくれればありがたかった』と言われた。勝手に連絡しないほうがよいと思っていたが、実はその逆でした。ツールだけを見て判断できないこともあります」
リアルタイムで共同編集ができるUI/UXデザインツール「Figma」についての紹介もあった。スタージョン氏は、2人のデザイナーが同時にFigmaを使ってデザインしている画面の動画を見せながら、最新のリモートツールの高機能な面も紹介した。スタージョン氏はリモートということだけでなく、その高機能さゆえに従来のデザインツールではなくFigmaを使うことが多いという。
2人のデザイナーが同時にFigmaを使ってデザインしている画面
インタビューのコメント管理などに用いるリサーチデータベースのDovetail、オールインワンの情報管理ツールのNotionについての説明もあった。スタージョン氏がコスタリカの教育コンテンツを制作した際には、1週間分のコンテンツをNotionで制作するのに2週間要したケースを紹介して、コンテンツ内容や利用の仕方でツールを慎重に選択すべきだとアドバイスする。
スタージョン氏がNotionで制作したコスタリカの教育コンテンツ
Dovetailについても同様で、その情報を長期的に何度も使う際には有効だが、一時的なものの場合には作成に手間がかかってパフォーマンスが上がらないケースもあると注意する。
ビデオ共有ツール「loom」については、簡単にモニター画面の録画ができることや、録画しながらファイル圧縮するので即座にアップデートできるメリットについて紹介した。
また、最新のリモートツールは、ほかのツールとのインテグレーションが可能になっていることも特徴である。スタージョン氏は次のように語る。
「最近よくあるケースは『あなたはあなたの好きなツールを使ってください。私は私が好きなツールを使います』というスタイルです。各自が好きなツールを使って最後にそれらをインテグレートするようにしています」
スタージョン氏の後、トング氏がファシリテーターの役割について語った。ファシリテーターは、スケジュール、グランドルール、ツールや言葉の使い方などを説明して皆が安心できる環境を整備する役割を担う。ときにはプロジェクトマネージャーであり、テクノロジーのスペシャリストであり、インストラクターであったりもする。リモートワークにおいてはどうしても必要となる役割で、今後、各企業はファシリテーターの養成に努めるべきだとトング氏はアドバイスする。
The Division、Greyspace、mctはリモートコラボレーションをサポートする用意ができており、そのプランニング、ツールのトレーニング、ファシリテーターの派遣や養成、フィードバック分析などの依頼に応えられるという。
(ライター:中村文雄)
PROFILE
デヴィッド・トング氏 / The Division
The Divisionの創設者。工業デザイナーとして広く知られ、家具、鞄、家電製品、カー・インテリア、カメラ、コンピューター機器を含む多岐にわたる分野でアワードを受賞。ロンドンのデザインスタジオを経てサンフランシスコIDEOにてインダストリアルデザインディレクターとして従事。ビル・モグリッジ氏や深澤直人氏といった今日多大な影響力を持つデザイナーと協働。https://the-division.com
ルーク・スタージョン氏 / Greyspace
デザイナー、コンサルタント、講師、リサーチャー。Greyspaceの創立パートナーとして、デザイン思考やフューチャー思考を使って新しい働き方に挑戦する組織をサポートしてきた。彼はグローバルなデザインチームを率い、そこで開発された多数の新製品やサービスが、国際的な展示会に出展されている。http://greyspace.studio/
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