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Written by DMN事務局
on 5月 13, 2024
DMN Report #95
イケアはどうやって中国にデザインを適合させたのか
文化的ニーズを理解することは、体験を成功に導く上で何を意味するのか?
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Marcus Fleckner

UX&UIデザイナー&デザインポッドキャストホスト

 

How IKEA adapted its design to China


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上海のイケアストア https://www.bbc.com/news/business-36771294

 

デザインに対する文化的感受性

イケアがいかにして中国に進出し、1998年に1号店をオープンしたのかについて概要を紹介し、どう中国に適合し、どのような代償を払ったのかについて考察します。

 

ボルボやイケアのような企業は、スカンジナビアの市場とは異なる、多様な消費者層の共感を得るため、デザインや商品提供においてその国の文化的なニュアンスを認識し、対応する必要があります。課題は、標準化された商品と、地元の嗜好や伝統のバランスをとることにあります。従って効果的なデザイン戦略は、異なる文化的背景を持つ消費者にシームレスで適切な体験を提供するため、ユーザーリサーチとローカリゼーションの努力を優先すべき、ということになります。

 

また、ボルボがスウェーデンのルーツを強調しているように、企業の伝統を称える透明性の高いストーリーテリングやブランディングは、ブランドの信頼性とグローバル消費者からの信頼を高めることができます。

 

本記事では、これらの課題を克服するためにイケアは何をしたのか、どのように中国進出を成功させたのかについて詳しく見ていきます。



イケアはどうやって店舗を中国文化に適合させたのか

ボルボとイケアはまったく異なる企業です。一方は自動車製造、もう一方は家具やホームアクセサリー製造です。この2つのスウェーデンの大企業に共通するものは何でしょうか。

 

両者に共通するのは、スカンジナビアの枠組みや規範から遠く離れた市場に進出しようとしたことです。どちらの場合も、スカンジナビア系であることが、後に企業にとって有利であることが証明され、新しい国での販売価値を高めることになりました。

 

ボルボはアメリカに進出し、人気の自動車メーカーとなりました。イケアはコンパスの反対側、中国に焦点を当てました。中国はイケアにとって未開拓の市場であり、多くの適合が必要でしたが、長年にわたって経済成長を続けていたため、挑戦しがいのある魅力的な市場でした。(Werner, 2012)

 

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中国のイケアストア

https://www.bloomberg.com/news/articles/2016-09-13/ikea-sales-rise-7-1-as-it-prepares-first-india-serbia-stores

 

イケアは一部を除き、世界中のどの店舗でもほぼ同じ品揃えを提供しています。しかし中国市場で必要となった変更は、進出する際に想定していたよりもはるかに大きなものでした。イケアは商品ラインナップを中国の人々や中国文化、ニーズに合わせて変更し、適合することを認めざるを得ませんでした。

 

1958年にスウェーデンのエルムフルトに1号店をオープンして以来、イケアは継続的に店舗を拡大してきました。1号店オープンからわずか5年後の1963年、隣国ノルウェーのスレペンデン市に新店舗をオープンしました。次は1969年のデンマークでした。以来、ヨーロッパ内外の新しい国に新店舗をオープンする間隔は、わずか1~2年でした。1974年には日本初のイケアストアがオープンし、ヨーロッパ外で初の店舗となりました。(IKEA, 2014)



どうやって中国に進出するか

スカンジナビアのデザイン(そのナショナリティとアイデンティティの価値が検証されているもの)に基づき国境を超えて成功した、ボルボとイケアというスウェーデンの2大企業に焦点を当てます。特に、イケアの中国市場での躍進と成功と、スカンジナビアの文化的条件から遠く離れた未開拓の新市場に進出する際の課題を検証します。また、イケアが中国市場で成功するためにどのように適合しなければならなかったのかを分析し、ボルボがアメリカ市場で成功した際との類似点を導き出し、スカンジナビアの枠組みから遠く離れた新市場への進出における両社の違いについて記述します。両社のスカンジナビアのルーツが、スカンジナビアとは全く異なる文化を持つ他の国々で成功するために重要な意味を持つかどうかについても考察します。

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とても異なる2つの国

https://www.politico.eu/article/eu-front-line-china-stockholm/

 

アジア(と中国)への道

イケアが初めて中国市場に足を踏み入れたところから話を始めます。中国はイケアにとってアジアで最初に進出した国ではありません。むしろ遅かったとさえ言えます。

 

アジアで最初にイケアストアがオープンしたのは日本でした。その翌年(1975年)に香港、1978年にシンガポール、1994年に台湾、1996年にマレーシアへ出店しました。中国へ進出したのは1998年のことです。なぜもっと早く中国に出店しなかったのでしょうか。既に地理的にも文化的にも中国にかなり近いと考えられる香港に店舗を構えていたにも関わらず。しかしイケアは、香港を有利な市場として認識するのに23年かかりました。長年にわたり、中国市場が成長を示すトレンドは示されていました。(Yihong, 2007)

 

イケアが上海に最初の店舗を構えたとき、必要な商品を中国で生産できる工場を開設することに決めました。これによってイケアのヨーロッパの生産工場から輸入した場合に発生する輸入関税の支払いを避けることができました。家具を中国で生産することで、商品の価格を抑えることもできました。しかしイケアは、中国において、ヨーロッパのような低価格店という位置づけはしていません。(Steensig, 2011)

 

イケアが中国市場へ進出した際に直面した大きな課題のひとつは、商品価格が高すぎて、ヨーロッパと同じ層をターゲットにできなかったことです。イケアは小売価格をほぼ半額にせざるを得ませんでした。これにより中国でも競争力を持つようになりましたが、同時に(ヨーロッパでよく見られたような)中間層以下の人々ではなく、中国で成長しつつある中間層をターゲットとすることになりました。(Steensig, 2011)



スカンジナビア以外で適合する方法

 

「新しい国に進出したとき、私たちは自分たちのやり方で行動しました。イケアの家具は文化的主張なのですから。しかし年月が経つにつれ、私たちはより柔軟に対応することを学びました。特にスウェーデン国内の需要が減少し、スカンジナビア以外の市場への依存度が高まった頃、そうなりました。」(Schoch, 1998, p. 11)

 

この言葉は、イケアが中国市場に進出した際に直面した課題を表しています。この引用はイケアの文化的優位性に関する報告書からのものであり、中国における、あるいは中国についての研究に基づいているものではありませんが、「イケアウェイ」が常に正しい方法とは限らないことを、少なくとも長年にわたって適合させていく必要があるものであることを、イケア自身が認識していたことを示しています。この報告書(IKEA: Culture as Competitive Advantage)は、1998年にイケアとEUが共同で実施したもので、1970年代から1980年代にかけて、イケアがヨーロッパの新しい市場にどのように適合する必要があったのかについて調査したものです。商品ラインアップやディスプレイを積極的に変更し、適合させなければならなかったのは、寝室でした。これはヨーロッパの各国で大きく異なることが判明したからです。

 

1985年にイケアはアメリカに1号店をオープンしました。アメリカ市場への適合を学ぶには長い時間がかかりました。イケアはその10年前(1975年)にカナダに1号店をオープンしましたが、この2つの市場や文化は全く異なるため、活用できる経験や知識は多くありませんでした。イケアそのものをアメリカの企業として適合するべきか、ホームアクセサリーをアメリカの消費者に合わせるべきかを考える上で多くの問題に直面しました。イケアのアメリカにおけるカントリーマネージャー、Jan Kjellman氏はこう語っています。「最終的にある解決策を考えました。スウェーデン訛りの英語を話すアメリカ人のお客さまをターゲットにした商品企画です。アウトサイダーであるイケアの強みを生かすことです。(Schoch, 1998, p.11)」1958年の創業以来、ヨーロッパで踏襲してきた既存のビジネスモデルをアメリカに単純に移転することは、一筋縄にはいきませんでした。もちろん国や地域ごとの変更や調整が必要でした。アメリカの消費者は、より大きなベッド、より大きなワードローブを求めていました。イケアはアメリカの各イケアストアの現地のニーズに基づき、調整する必要がありました。(Valerie Chu, 2013)



課題

イケアが中国市場に進出する以前から直面していた課題のひとつは、心に響く中国語(書き言葉と発音の両方)の名前が必要だったことです。

 

結果、「快適な家、家のための家具」を大まかに訳した「Yi Jia」という名前が生まれました。(Steensig, 2011)発音的には「イケア」のように聞こえます。イケアの店舗は現在も「IKEA」という名称で営業しています。イケアはどの国でも同じ商品を提供しており、店舗の規模にもよりますが、8,000~10,000種類の商品を取り揃えています。ただし店舗ごとにレイアウトや商品の陳列方法は異なり、これは国や地域によっても異なります。

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中国のイケア

https://news.cgtn.com/news/2019-08-27/IKEA-is-going-high-profile-with-its-China-strategy-Jvdk1mAtBS/index.html

 

中国のイケアストアには、中国の典型的なアパートを紹介する展示が多くあります。特にリビングルームの展示を強調しています。リビングルームは中国の人々にとって家の「中心」であり、自分のステータスを示す部屋であることが多く、ほとんどの時間をそこで過ごすからです。(Miller, 2004)

 

イケアはまた、中国ではベッドルームの家具やアクセサリーの人気が最も低いことに気づいていました。これはおそらく、中国の人々が寝室を家の中で最もプライベートな場所のひとつと考えており、人目につきにくく、それゆえに家の中で他の部分ほど注意を払う必要がないからだろう。イケアは、中国市場に進出して最初の5~6年間、このような一般的なイメージを持っていました。

 

「イケアは最近、特に上海でベッドルームの売上が急増していることを確認しました。来年は、ベッドルーム全体をターゲットにしたグローバルキャンペーンを展開する予定です。」(Miller, 2004)



中国市場への適合

他の市場や文化(ヨーロッパ、ロシア、アメリカ)とは大きく異なる中国市場において、イケアは大きな調整を迫られました。スカンジナビアと異なり、中国には手頃な価格の家具の選択肢がたくさんあります。そのため中国の消費者は、イケアが中国に持ち込んだ「文化」に共鳴しませんでした。「中国の人々にとって、平らな段ボール箱を家に運び、板やネジを使って自分で棚を組み立てなければならないという考えを理解するのは少し難しかったようです。」(Steensig, 2011)イケアは自らの既成概念にとらわれずに、中国の消費者が受け入れやすいコンセプトにする必要があったため、購入した商品を自宅まで配送するオプションを提供しました。(Steensig, 2011)中国のイケアはいくつかの重要な点で、ヨーロッパのイケアとは大きく異なっています。

 

  • 中国のイケアは低価格の家具チェーンではなく、中間層をターゲットにしている
  • 商品は市場に合わせて改良され、中国の一般的なアパートの広さを反映している
  • 店舗は主要都市の郊外にあり、中国の人々の多くが電車で移動するため、駅に近い
  • マーケティングはソーシャルメディアとマイクロブログサイトの微博(ウェイボー)を通じて行われる
  • 物流面は、中国に2つの工場を建設し、輸入関税を回避して製品の価格を抑えている
  • DIYの理念は中国の消費者にはなじみがないため、消費者の自宅まで商品を配送するサービスを提供している(Valerie Chu, 2013) (Steensig, 2011)

 

中国市場に進出して以来、イケアは未開拓の新市場への大きな適合が必要だったにも関わらず成長を遂げてきました。この適合はまた、欧米の小売店、特に欧米の家具店に慣れていなかった中国の消費者の順応をも意味しています。



文化の衝突か、文化の融合か

中国は伝統に彩られた国であり、家の装飾や美意識に関して豊かな文化を持っています。そのため、イケアにとって中国進出は大きな挑戦だと見る向きもありました。しかし、1998年に上海に1号店がオープンして以来、イケアの中国での販売数は年々プラス成長を示しています。(IKEA Group, 2013)イケアが発表した最新の数字によると、2014年度には中国の消費者がイケアの売上記録を更新しました。(Pedersen, 2014)イケアはなぜこれほど人気があるのでしょうか?ミートボールのおかげ?(訳者注:イケアの店舗ではスウェーデンミートボールの食事を提供している)中国の消費者がスカンジナビアのデザインを高く評価している?または、私達がまだ発見していない全く別のものを求めているのでしょうか?イケアの成功には複数の理由があります。

 

1998年に中国市場に進出したイケアは(前述のように)当初から、ヨーロッパで通常ターゲットにしているセグメントとはかけ離れたものとなり、中国の文化にそのまま転用できないことはわかっていました。つまりイケアの進出は、中国の中間層をターゲットにしたマーケティングを始めることを意味しました。その理由は以下のとおりです。

 

  • 中間層は比較的所得の高い消費者で構成されていることが多い
  • 中間層の人々は比較的若い(30~45歳)
  • 教育水準が高く、欧米の文化やデザインに対する関心や知識も高い

 

こうしたターゲットを絞ったマーケティングが功を奏し、イケアは刺激的で革新的な欧米ブランドとしての地位を確立しました。

 

イケアは、インテリアデザインと店舗での買い物のしかたの両面から、店舗と商品をめぐる特定の文化を作り出すことに長けています。中国のイケアも同様です。中国の消費者はイケアに行くことに誇りを持ち、しばしば1日がかりの小旅行となります。中国の人々の多くは長時間働いており、買い物に費やす時間はほとんどありません。そのため、丸1日かけてイケアに行くのです。イケアに行くために長距離を移動する人も多くいます。(Leanderdal, 2014)また、中国の消費者は「イケアに行く」ことに対して異なる視点を持っています。イケアに出かけて家具を買うことは、ほとんどアミューズメントパークと考えられています。そのため、中国の人々のイケアの「使い方」はヨーロッパとはかなり異なります。イケアは人気スポットなのです。

 

「多くの人は店内で1日中を過ごします。中国ではイケアは単なる家具店ではなく、アトラクションでもあるのです。」 (Leanderdal, 2014)

 

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疲れた中国のお客さん https://www.telegraph.co.uk/news/picturegalleries/worldnews/10950697/Ikea-shoppers-in-China-fall-asleep-in-furniture-room-displays-in-pictures.html

 

中国のイケアストアは人気が高く、平日でも混雑しています。イケア北京では、平日に15,000人、週末には倍の30,000人のお客さんが来ることも珍しくありません。(Hatton, 2013)中国の消費者がイケアを楽しい訪問先として見ているだけでなく、(ヨーロッパのイケア店舗と比べて)イケアの使われ方が変わっているのです。

 

私たちはショールームで家具を試すことに慣れ親しんでいますが、中国ではこれを文字通り受け止めており、お客さんが椅子やベッドで昼寝をしている光景は珍しくありません。(Hatton, 2013)(Leanderdal, 2014)このように、イケアの中国店舗では、これまでとは全く異なるショッピング文化が生まれています。しかしこうした文化を捨て去りたいわけではないと、イケアのPRマネージャー、Yvonne Yin氏は言っています。「家具を試してもらうのは構いません。なんなら、何も買わなくたって良いのです。」(Leanderdal, 2014)

 

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買い物中に昼寝することは、中国では普通のこと

https://www.telegraph.co.uk/news/picturegalleries/worldnews/10950697/Ikea-shoppers-in-China-fall-asleep-in-furniture-room-displays-in-pictures.html



自分でやらないこと

イケアにとってそれまで進出した国と大きく違う文化のひとつは、中国の人々が率直に言って「DIY」のコンセプトを嫌うことでした。そのため当初は、イケア以外の国では成功を収めているフラットパック(平らな段ボール箱と自分で組み立てる家具)のコンセプトを中国の人々に受け入れてもらうことが、大きな課題となっていました。(Valerie Chu, 2013)
 
経済が活況を呈し、より安価な代替品が常に出回っているこの国で、「お隣さん」が同じ価格で組み立てて届けてくれる商品を持っているのに、家に帰って自分で家具を組み立てなければならないというコンセプトを売り込むのは難しいことです。戦略を変更し、代わりに中国の文化にビジネスを適合させたことが、イケアの成功につながりました。
 
イケアと比べて、アメリカの大手ホームセンターのホームデポは、中国での成功を収めることができませんでした。その理由は、前述のように、中国の人々は「DIY」の文化を歓迎しないからです。しかしホームデポは、家の問題を解決するというプロジェクトを持って来店するお客さんのみをターゲットとしていました。
 
「ホームデポへ行き、シーリングファンを取り付けたい、新しい窓を取り付けたい、デッキを作りたいなど、解決したい問題について話すと、店員は親切に何をしなければならないかを理解して教えてくれますが、そのやり方が必ずしも西洋文化で固められている必要はありません。」(Bhasin, 2012)

イケアの成功のもうひとつの重要な理由は、この15年間でマイホームを持つ中国の人々の割合が、ほぼゼロから70%に増えたことでしょう。このことは、人々が自分の家を飾り、家具を揃えることに熱心であることを意味します。多くの人は家の装飾についてほとんど、あるいはまったく知識がないため、イケアは店舗で中国家庭の事例を紹介し、その手助けをしています。(Bhasin, 2012)



ナショナリティとアイデンティティ

スカンジナビアの企業にとって、その名前やナショナリティを新しい市場に持ち込むことはどれほど重要なことなのでしょうか?


明確な答えを出すのは難しいですが、イケアによる中国市場進出の歴史と、海外にある他の北欧企業の事例をもとに、違いと、成功例を浮き彫りにします。


アメリカのイケアがスウェーデンのルーツを活かして市場を開拓したことは明らかです。英語を話しながらも、スウェーデン語のアクセントを効かせた広告を出すことで、イケアは単なるアメリカ企業ではなく、スウェーデン企業であることをアピールしました。

 

企業のナショナリティは時として、その企業のアイデンティティよりも重要な意味を持ちます。スカンジナビアやスウェーデンのように、優れたデザインと高品質の製品、そして安全性の最前線で高い評価を得ている地域や国から生まれた企業であれば、その企業そのものがもたらし生み出したアイデンティティ以上の意味を持ちます。そしてこのことは、しばしば、企業にとって新市場での成功や失敗の原因の一部となり得ます。

 

イケアだけでなく、ボルボの例もあります。ボルボは大規模な多国籍企業の中で、可能な限りスウェーデンのルーツを維持しています。しかし、イケアも発見したように、進出したすべての国でナショナリティを維持することは必ずしも可能ではありませんでした。「イケアウェイ」は必ずしもいつでも可能ではないのです。

 

「多くの報告書が、民族や国のステレオタイプが、私たちの行動や購入品、評価に大きな影響を与えることを結論づけています。」(Werner, 2012, p. 207)

 

歴史を通じて、ボルボは常にアメリカ市場で好成績を収め、多くのアメリカの人々にとって人気のある選択肢となってきました。ボルボは1955年に初めてアメリカ市場に進出しました。(Volvo Cars, 2014)翌年(1956年)にはすでにボルボはカリフォルニア州で最も重要な輸入ブランドの第2位にランクされています。(Volvo Cars, 2014)ボルボがアメリカ市場で成功したのは、ボルボの保守的で伝統的なデザインの選択が根源にありました。



ボルボの肩に乗るイケア

イケアがアジア市場に進出したのは1970年代(1974年の日本)であり、ボルボがアメリカの地に足を踏み入れてからすでに20年ほど経っていたため、イケアはボルボの経験を参考にした可能性は否定できません。イケアが、ボルボや他に海外進出した北欧企業と大きく異なる点は、北欧のイケアストアだけでなく、世界中のイケアストアでスウェーデンの商品名をそのまま使用していることです。

 

これはイケアがすべてのイケアストアで統一感を保ち「イケアウェイ」に従おうとする明確な意思表明となっています。同時に、スウェーデン(おそらくスカンジナビアも)の外では、地元の文化や国の規範にすぐには順応しない国際企業であることを明確に示しています。その代わりに、自分たちがどこ(スウェーデン)から来たのかを誇らしげに示します。中国の上海にあるイケアの店内を歩いてみれば、中国文化に染まっていないことにすぐ気づくでしょう。それどころか、スウェーデン語がすぐに目に入り、ビストロに行けば、イケア名物のミートボールや、その他のスウェーデン料理、イケアらしい料理を食べることができます。



これらの国では、スウェーデン出身であることが有利なのか

国が高い評価を得ている場合、ナショナリティはプラスに働くと言われています。スカンジナビア諸国はしばしば上位にランクされています(特にスウェーデンは)。さらに、新しい市場に適合させるために調整や変更を加えることに前向きであれば、成功の可能性は大きく高まります。ボルボとイケアは、国境や文化を越えて理解されるよう作られ、それにより機能性が高まり、最終的にこれらの要素をすべて具現化した製品を生み出し、グッドデザインと表現されるものを共有しています。

 

「グッドデザインとは、表面的なスタイリングだけの問題ではありません。製品を理解しやすく、使いやすくすることも同じくらい重要です。製品が機能的でなければ、美しくもあり得ません。ボルボの車は、自身のルーツとスカンジナビアデザインの伝統に根ざした、独特のデザインを持っています。」(Volvo Car Corporation, 2007)

 

ボルボもイケアも、創業当初は自社の製品やブランドアイデンティティにあまり手を加えようとしませんでしたが、長い年月をかけて調整してきたことが、結果的に現在の地位を築くことにつながっています。イケアはスウェーデンという明確なナショナリティを持っています。両社が複数の国や文化圏で事業を展開する多国籍大企業に成長しても、それらはかき消されることはありませんでした。イケアもボルボも、それぞれのやり方でナショナリティを維持してきました。イケアはおそらく、どこの国から来たのか、どのような文化を持つ会社なのかという点でわかりやすいでしょう。一方ボルボは、安全性、信頼性、品質が挙げられます。3点式安全ベルトを発明したのはボルボで、以来、すべてのクルマに標準装備されるようになりました。そしてボルボは、いつも競合他社の一歩先を行く努力を続け、常に新しく革新的な安全ソリューションを打ち出してきました。ボルボやイケアのような大企業にとって、本来のナショナリティと、顧客のニーズによって長年にわたり引き継がれ発展してきたものを区別することは難しいことです。このスウェーデンの2社に共通しているのは、彼らの製品はもはや当初のナショナリティ(スウェーデン)ではなくなっているということです。アメリカや中国で販売されている製品はどれも、スウェーデンやスカンジナビアで生産されていません。このことは、製品を販売する国に輸入するにはコストがかかりすぎるという、純粋に現実的な選択でそうなっています。



メイド・イン・・・どこ?

イケアは中国市場に参入して間もなく生産工場を建設しました。ここでの「Made in Sweden」というラベルはまったく異なる意味を持ち、イケアやボルボの製品に稀に見られるようになりました。一方、他の多くの国際企業は「Designed in/by ...」や「Developed in/by ...」といったラベルを使用しています。この方法を採用している大手企業のひとつはアップルです。彼らはすべての製品に「Designed by Apple in California. Assembled in China」というラベルを印刷しています。これは、製品が他国で組み立てられているにも関わらず、製品自体は依然として同じ高品質を維持しており、ナショナリティも変わっていないことを示すための意図的な選択です。このラベル表示は、その企業が消費者にとってのナショナリティとアイデンティティの重要性を認識していることを示すものです。アップルのような企業は、自社製品がカリフォルニアのアップルで設計され、細心の注意を払って製造され、中国のアップルの提携工場(Foxconn)で「単に」組み立てられるというストーリーを作るのに、多くの費用と時間を費やしています。(Edwards, 2013)

 

しかし企業は、自社製品が世界のどこから来たのかを曖昧にしたい、あるいは曖昧にする必要があるかもしれません。自社の評判を高め、ナショナリティで判断されないようにするためです。最近の例では、ここ数年、中国で製造された製品であることを示す新しい略語が登場しています。「Made in China」は誰もが目にしますし、「Made in Republic of China,」も見たことがあるかもしれません。最近は製品を輸出する中国企業が、この略称である「Made in ROC」や「Made in PRC’ (People’s Republic of China)」を使うことが増えてきています。



結論

自動車メーカーにとっても家具・インテリア小売チェーンにとっても、その企業が生まれた国のナショナリティやアイデンティティの価値は極めて重要であることが証明されました。さらに、企業のナショナリティやアイデンティティは、容易にネガティブな影響を与える可能性があることも示されました(ホームデポとそのアイデンティティ、中国市場での失敗を参照)。また、イケアが中国において、欧米市場とは異なる嗜好や異なるターゲット層に基づき、店舗や商品ラインアップを全国的・地域的に適合させなければならなかったことが明らかになりました。

 

1955年のボルボのアメリカ市場進出と1998年のイケアの中国市場進出は、多くの類似点があります。両社とも、自社製品をより国ごとに適合させる必要があり、全く同じアイデンティティを単純に移転することはできませんでした。しかし、両社とも自社のナショナリティを堅持し、隠すことはありませんでした。特にイケアに顕著で、商品のネーミングはほとんどスウェーデン語であり、もちろん店舗ではスカンジナビアンデザインのスタイルが必ず目に入ってきます。

 

Jeff Werner氏がボルボにおけるナショナリティの重要性について述べた際、非常に肯定的だったことからも、1955年のボルボと同様、イケアにおいてもPCI(Product Country Image)に、ナショナリティが重要な役割を果たしていると結論づけることができます。

 

一方、イケアにとって課題として認識せざるを得なかった中国文化がもうひとつあります。「ニセモノ」文化です。2011年、初の「ニセモノ」イケアはオープンしました。この偽イケアを名乗る家具店「11 Furniture」は、店内のほぼすべてがイケアに似せてデザインされており、必要な商品を書き込むための小さな鉛筆さえも模倣され、店内はイケアの典型的な色(青と黄色)で装飾されています。「11 Furniture」という名前も、中国語ではイケアによく似ていると言われています。(Johnson, 2011) (Rossau, 2011)

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2011年に現れた、偽イケアの11 Furniture

 

すごい!この長い記事を最後まで読んでくれて本当にありがとうございます。楽しんでいただけたら、そして何かを学んでいただけたら幸いです。

 


 

イケアが中国進出を成功させた要因のひとつは、それまでの勝ちパターンを保留にし、現地のお客さんの反応を見て、自信を持っていた自分たちのやり方を変えたことでした。結果が明らかになっている現在から振り返れば、よく理解できる方法ですが、成功が確約されていなかった当時は、とても勇気のいる決断だっただろうと想像しながら翻訳しました。

 

では、どうすればお客さんの反応をしっかりと見ることができるか。例えば、フィールドワークは、現地に足を運び、観察やインタビューを通じて、定性的に深い情報を収集・分析する手法です。フィールドワークでは、現地の人々や関係者と直接対話をすることで、人々の本質的なニーズを明らかにすることができます。また、現地の文化や風習、価値観を理解することで、文化的な違いによる誤解や問題を事前に予測し、回避することができます。

 

今回の記事を通じて、現地への適合においては、エスノグラフィー(行動観察)を含むフィールドワークが有効であることを改めて感じました。

 

記事の後半では、イケアの出身地であるスウェーデンのナショナリティがブランドに影響していることを紹介しています。思えば私も、日本でイケアを訪れるときは、北欧の感覚を味わう期待感を持って行っていました。そしてそこで味わう感覚は、中国やスウェーデンともまた違うのだなと思うと、これは各国で店舗を訪れる機会があったらぜひ行ってみたいと思いました。

(mct 牛嶋)

 

 

英語版参照元:

https://uxdesign.cc/how-ikea-adapted-its-design-to-china-aea0c7c90a61

 


 

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