人々の能力を高めることに重点を置くサービス・デザイナー
What service design can do to mitigate our impact on the planet?
Raj Mohan — Ashes of a Wetland | From Wildlife Photographer Of The Year competition
昨年私は、地球の危機に対応するためにサービスデザインをどう活用するかについて記事を発表しました。しかし、私たちが対応しなければならない地球の危機とは、私たち自身が地球に与えた影響の結果なのです。
現在、地球に与えた影響を緩和するために、新しいテクノロジーによる解決策を開発するアプローチがとられていますが、それでは資源の需要を減らすという総合的な方法によってこの問題に取り組むことができません。その結果、私たちは根本的な原因に取り組むことなく症状をすり替え、対処すべき新たな問題を生み出しています。
サービスという切り口で地球の危機にアプローチすることは、私たちが地球に与える影響を効果的に緩和するための、より総合的な範囲と手段を提供することになります。長くなるので2回に分けて取り上げます。今回の前編では、地球への影響を緩和するために、サービスデザインを活用する範囲と機会に焦点を当てます。次回の後編では、戦略とツールに焦点を当てます。まずは、テクノロジーの視点だけでは不十分である理由から説明します。
テクノロジーによる解決策だけではうまくいかない理由
2023年の声明で、ルフトハンザのCEOは以下のように宣言しました:「(バイオエタノールや合成燃料のような)持続可能な航空燃料(SAF)で航空会社(ルフトハンザ)を動かすには、ドイツの電力の半分が必要だ」。ドイツのエネルギー生産施設の規模を拡大することは可能ですが、それにはより多くの資源とスペース、土地の封鎖が必要になり、2007年の米国のバイオ燃料促進法を受けてインドネシアで起こったように、地域の人々や動物の移動、サプライチェーン全体にわたる汚染を引き起こすことになります。加えて、SAFが燃やされたときに発生し続け汚染し続ける排出物も考慮する必要があります。それは温室効果ガス(GHG)の排出量の話であり、いわゆるスコープ1(自社が直接排出するGHG※訳注)についての話でしかありません。
従って、テクノロジーによる解決策に焦点を当てることは、以下の3つの理由から危険なアプローチです:
- 第一に、このようなアプローチは将来の削減の可能性に賭けているのであり、ギャンブルをする余裕はありません。今すぐ削減が必要なのです。また、テストされていないため、地球への影響を削減する効果もわかりません。さらに、賭ける余裕がないこと以上に悪いのは、これが行動を遅らせることです。IPCCは、地球の危機に対処するために必要な技術はすでに持っていると結論づけています。
- 第二に、問題の根本的な原因である二酸化炭素の過剰排出を解決するのではなく、大気中に炭素が多すぎるという症状のみを対象としていることです。最悪の場合、このような解決策では、事態を改善することすらできません。炭素回収やオフセットによる解決策は約束が守られず、状況を悪化させ、悪い波及効果をもたらすことが示されています。
- 最後に、ジェボンズが19世紀の石炭消費で指摘したように、テクノロジーの進歩による効率向上は、消費の増加をもたらします。今日では「電化は効率的である」として、目にすることができるかもしれません。国連は、成長とグリーンエネルギーへの移行を支えるために、2060年までに原材料の採掘量がさらに60%増加すると予測しています。
テクノロジーによる解決策だけに焦点を当てるのではなく、別の角度から問題にアプローチする必要があります。地球への影響を緩和することは、テクノロジーによる解決策に限定されるべきではありません。テクノロジーによる解決策は、よく言えば非効率的であり、悪く言えば誤解を招き、どちらの場合も問題をすり替えてしまいます。代わりに、私たちは社会を構成するテクノロジーの使い方を見直す必要があります。サービスデザインのアプローチは、問題をフロントエンドの行動とバックエンドのプロセスという2つの部分に分けることで、まさにそれを実践しています。
行動とプロセスに光を当てる
私たちは常に革新を続け効率を高めていますが、それでも地球への影響は増え続けています。より多くの資源を消費し、廃棄物を排出し、世界中で温室効果ガスを発生させ、自然界を上回る量の二酸化炭素を排出しています。自然界のシステムだけでなく、私たち自身のシステムも飽和させ、地球の安全な境界を破り、ティッピングポイントに近づきつつあります。
私たちが社会を通じて使用しているテクノロジーによる解決策から、それを使用する方法に向けて焦点を移す必要があります。サービスを通して社会を見てみると、解決策にはフロントエンドの行動とバックエンドのプロセスという2つの方法が定義できます。これを説明するために飛行機の例を取り上げます。
飛行機は人を運ぶために使われることが多く、その割合は計算によって71%から85%です。しかし、誰もが同じように飛行機を使うわけではありません。これは、一人が飛行機を利用することによって与えるインパクトに影響を与えます。フランスでは、乗客の2%が、販売された航空券の50%を占めています。同様にアメリカでは、乗客の12%が、販売された航空券の66%を占めています。世界の商業フライトの排出量の半分は、わずか1%の旅行者によるものです。ヨーロッパのビジネス旅行者は、利用者の12%ですが、旅客輸送による温室効果ガス排出量の30%を占めています。こうした不均衡の理由は、様々な行動様式にあります。実際、ビジネス旅行者は出張回数が多く移動距離も短いため、1kmあたりの燃料消費量が多く、時にはプライベートジェット機で移動するため、1人あたりの汚染量が多くなります。
また、飛行機は人を運ぶだけではありません。物資すら運ばず、時には空っぽで飛びます。イギリスだけ見ても、毎月500機近くの飛行機が空っぽ、あるいは使用定員の10%未満で飛んでいます。これは空港の発着枠が、割り当てられた時間の80%以上の使用がなければ、航空会社は発着枠を失うリスクがあるという「使わなければ失う」ルールがあるためです。航空会社は発着枠を失わないように、空っぽの飛行機を飛ばすことになります。このような排出は、人々が飛行機を使用する方法、フロントエンドの使用方法によって引き起こされるのではなく、サービスの業務をサポートするためのバックエンドプロセスの結果です。
使用される燃料の種類に関わらず、航空機産業が地球に与える影響を減らしたいのであれば、サービスを運営する能力、フロントエンドの行動とバックエンドのプロセスに目を向ける必要があります。ルフトハンザのCEOが強調したように、持続可能な航空燃料だけに目を向けることは拡張性がなく、ジェボンズのパラドックスが示すように、飛行機と燃料の使用量の増加を招きます。航空への影響を減らすためには、より効率的な飛行機や燃料が必要なのではなく、飛行機を使用する方法を変えることです。
飛行機だけでなく地球への影響を緩和するには、製品を使用し、資源を利用する際の行動やプロセスを変える必要があります。製品には新しい使い方をサポートする役割がありますが、意味のある変化をサポートできるのは、関連するサービスだけです。そのためには、直線型サービスから離れ、循環型サービスへと向かう必要があります。
地球への影響を軽減する循環型サービスのデザイン
デザインするものが、より広い文脈の中でどのように絡み合っているのかを説明する際に、私はよくデザインの4つの順序について話します。インタラクションは製品の文脈でのみ関連があり、製品はサービスの文脈でのみ、サービスはシステムの文脈でのみ関連します。つまり、あるシステムのためにデザインしたい場合、関連するサービス、製品、インタラクションが必要なのです。問題は、どのようなシステムをデザインしたいのかということです。
循環型経済とは、エレン・マッカーサー財団のバタフライ図に示されるように、社会と経済全体を通じて、物質の循環的な使用を促進し、採掘と廃棄の量を削減するシステムです。目標は、今ある資源からできるだけ多くの価値を長く維持することです。そのために、財団のページで説明されているように、技術的サイクルと生物学的サイクルの2つの重要なサイクルが特定されています。
技術的サイクル(右側)は、製品、部品、材料を経済の中で循環させ続けることであり、共有、再利用、再生、リサイクルの実現により実践されます。
生物学的サイクル(左側)は、食品のような再生可能資源の廃棄物を減らしながら、自然を再構築し、栄養を生物圏に回復し、いわゆる再生を目指します。これを実現するために、異なる産業間で副産物を利用して相乗効果を生み出し、一つのプロセスの副産物を別のプロセスの重要な成分として活用します。例えば、食品廃棄物を堆肥化することで肥料が作られ、それをバイオエネルギーとして使用することが可能となります。
循環型経済の概念は、地球への影響を削減するための基盤として、共有、維持、再利用、リサイクル、カスケード利用、再生という強力な原則を提供します。これらの原則は、循環型経済の概念を、サービスを通じて具体的な解決策として実践する機会を与える枠組みです。適切なサービスをデザインし、そして最も重要なことは、正しくデザインすることです。
正しいサービスをデザインする
サービスは、私たちが暮らす経済を支える糸のようなものです。経済が直線的であるのは、経済を織り成すサービス自体が直線的であるためです。循環型経済への転換には正しいサービスが必要です。これは、循環型のライフスタイルとライフサイクルをサポートするサービスをデザインすることを意味します。
A. ジョブを遂行する行動をサポートすることで循環型のライフスタイルを可能にする
旅行、食事、服装、買物、通勤などの方法は、地球に影響を与えます。人々が循環型経済の原則を受け入れるためには、それをサポートする正しいサービスが必要です。例えば、車の適切な相乗りサービスがなければ、不可能ではないにせよ、そうした習慣を大規模にもたらすことは難しくなります。
循環型経済に根ざしたライフスタイルをサポートする正しいサービスをデザインすることは、なすべきジョブを遂行する上で、循環の原則を体現する行動や使い方をサポートするサービスをデザインすることを意味します。それは、単体の万能な解決策をデザインすることではなく、異なる様々なジョブやその結果として生じる様々な行動を理解し、循環型デザインの原則を採用しながら、それらをサポートする解決策をデザインすることです。
例えば、人々は車で相乗りをしたり、レンタカーを借りたり、公共交通機関を利用することができます。これらのサービスはすべて、人々が乗り物を共有するものです。しかし、これらはすべて同じジョブを果たしているわけではありません。人々が成し遂げる必要のある様々なジョブの様々な行動をサポートするようにデザインされています。それでも、どれも循環の原則に根ざしたライフスタイルをサポートしています。
これはユーザージャーニーのアプローチです。つまり、循環型の行動をサポートし、人々がジャーニー全体を通じてやりたいことを達成できるようにするために、循環型のライフスタイルを大規模にサポートするための正しいサービスをデザインします。循環の原則を体現するジャーニーをサポートすることで、買い物の仕方から、買い物をして食料品を持ち帰り、料理をするなど、循環型の行動を支援し、それがひいては、旅行、食事、服装、買物、通勤などの循環型のライフスタイルを大規模にサポートすることになります。
しかし、循環型経済のためのサービスデザインは、循環型の行動やライフスタイルをサポートするだけではありません。製品、素材、資源のライフサイクルのループを確実に閉じるための正しいサービスをデザインすることも必要です。
B. ライフサイクルを通じてサスティナブルな製品管理をサポートする
埋立地に行く廃棄物の28%は堆肥化できます。廃棄物は、短期的には最も強力な温室効果ガスのひとつであるメタンを大量に放出します。すべての人が自宅で堆肥を作るスペースや時間、願望を持っているわけではありませんが、プロセスの各段階をサポートする正しいサービスがあれば、廃棄物を転用し、堆肥化することができるはずです。
先ほどは、資源や資材の使用量を削減するような方法で、人々がジョブを成し遂げるまでのジャーニーをサポートする正しいサービスを開発することについて述べました。ここでは、製品、素材、資源のジャーニー、つまりライフサイクルに焦点を当てます。
なぜ多くの堆肥化可能な廃棄物が埋立地に送られてしまうのかという問題に話を戻すと、サービスデザインの視点を採用することは、廃棄物処理全体のプロセスにおける原因を特定することです。例えば、人々が家庭で廃棄物を分別していない、地域の廃棄物処理業者が堆肥化可能な廃棄物の処理プロセスを持っていない、堆肥化可能な廃棄物の処理プロセスは存在していてもオーバーフローしている、あるいは効率が悪い、堆肥化可能な廃棄物がコスト削減のために埋立地に回されている、など。
症状ではなく、原因を解決するために問題をフレームワーク化するためには、最初から最後まで、全体の理解が不可欠です。最も重要なのは、製品ライフサイクル全体の各ステップが期待される成果と一致するように、解決策を調整することです。各ステップの具体的な要件を満たしながら進めます。目標は、問題を全体的に見て、製品ライフサイクル全体にわたり一貫性があり関連性のあるアプローチをデザインすることで、ループを閉じることです。
ユーザージャーニーと製品ライフサイクルは、循環の原則に根ざした行動とプロセスをサポートする出発点です。正しいサービスをデザインすることは、経済を構成するライフスタイルとライフサイクルを通じて、循環型経済を作り上げることです。製品がリサイクル可能で、修理可能で、一回で5人まで使いまわしできるように設計されている一方で、実際にリサイクルし、修理し、その可能性を最大限に活用するためには、サービスが必要です。正しいサービスをデザインすることは、サービスデザインを活用して地球への影響を緩和するための1つの機会に過ぎません。2つ目の機会として、さらに細かく見て、サービスを正しくデザインする必要があります。
サービスを正しくデザインする
エコノミーのようなシステミックな視点を採用すると、サービスは全体の一部であり、廃棄物管理や輸送などのシステムの中で、ライフスタイルや行動、ライフサイクルやプロセスをサポートするようにデザインされています。しかし、詳細に見ていくと、サービスはそれ自体が全体となり、独自の行動やプロセス、要件や影響を持つようになります。
もう一度、飛行機を例に上げます。フォーブスは、マイレージランと呼ばれる習慣について報じています。このアイデアは、ポイントに基づくロイヤリティプログラムの仕組みと、ポイントが期限切れになるという事実が、人々に特典を使うためだけに飛行機に乗るよう促している、というものです。
同様に、私が以前eコマースの影響に関する投稿で取り上げたように、eコマースサービスの仕組みは、例えば速達便を可能にすることで、その日のうちに届けるという目的のためだけに、配送トラックがほとんど空っぽの状態で走る状況を作り出しています。
このようなサービスデザインの決定は、サービスが果たす機能を歪め、持続不可能な行動やプロセスを生み出し、地球や、サービスを運営する人々を犠牲にしています。これは、プロジェクトがビジネス要件を中心に組み立てられているという事実に起因しており、それ自体が答えようとするデザイン上の質問を歪めています。「人々がジョブを成し遂げるために何が必要か」を問うべきところを、ビジネス上の必要性から出発し、「人々が”私の製品/サービス”を使うために何が必要か」を問うているのです。これは私の過去の記事、デザインリサーチのフレームワークや、広義のイノベーションのフレームワークでも言及したことです。
サービスを正しくデザインするということは、サービス全体にわたる決定の意味を理解し、バックエンドのプロセスへの影響からフロントエンドの行動への影響に至るまでを考慮し、意思決定するということです。これは、行動レベルとプロセスレベルの両方において、循環の原則を取り入れたサービスをデザインすることであり、デザインの決定を下す前に、様々な質問を自らに投げかけることを意味します。
例えば、プロセスレベルでは、食料品の配達にビニール袋を使う必要があるのか?それとも木箱に入れて渡すことができるのか?もしビニール袋を使わなければならない場合、次の配達時に回収して再利用する方法はないのか?など。
同様に、持続不可能な行動に関しても問う必要があります。例えば、人々がオンラインで買い物をする際に、ブラケティング(商品を複数のサイズ・色で購入し、気に入ったものを選び、残りを小売店に返品すること※訳注)が起こらないようにするにはどうすればいいのか?利便性を追求し24時間365日配送できるようにするのか?妥協して中間のサービスにするのか?ユーザーにとって完全に便利ではないが、バックエンドのプロセスにストレスを与えないようにするのか?など。
最終的に、行動とプロセスは密接に結びついています。行動の要件に対応するための決定は、運用面にも影響を及ぼし、その逆もまた然りです。これは相互の会話です。サービスを適切にデザインすることは、サービス全体に渡って相互依存関係を考慮して、十分な情報に基づき、地球や人々に悪影響を与えることなく、運営者に現実的な利益をもたらす決定を下すことです。
循環型の行動とプロセスをサポートする
経済を循環型にするためには、製品を循環型にデザインする必要がありますが、最も重要なのは、正しいサービスを正しい方法でデザインすることです。
テクノロジーだけでは解決できない。私たちは、循環型サービスを通じて、製品、素材、資源の使用方法を変え、循環型の行動とプロセスをサポートし、循環型ライフスタイルとライフサイクルのサポートをする必要がある。
ユーザージャーニーや製品ライフサイクルに目を向け、フロントエンドの行動やバックエンドのプロセスを包括することで、サービスデザインは、直線的な経済から循環型経済へと転換するための総合的な視点を提供します。総合的な視点でデザインすることによってのみ、地球危機の根本原因である製品、材料、資源の使用に取り組むことができるのです。サービスデザイナーとして、私たちの役割は、ファシリテーターとして、ライフスタイルとライフサイクル、行動とプロセスの間の会話を促進し、一方の要求が他方に与える影響の妥協点を見つけ、会議に出席している人たちだけでなく、すべてのステークホルダーに価値を届けることです。
しかし、システムにおける3つ目の重要な要素、つまり、社会やビジネスが営んでいる経済モデルやビジネスモデルも考慮する必要があります。実際、サービスが直線的だとすれば、それはそもそも経済モデルとビジネスモデルが直線的だからです。ライフスタイルもライフサイクルも、ビジネスの要求に応えるものなのです。
この記事では、地球への影響を軽減するためにサービスデザインを活用する機会を定義しました。経済モデルやビジネスモデルから生じる要件を考慮しながら、循環型サービスをデザインし実践していくことは、また別の、サービスデザイン戦略の話になります。今後、取り組んでいくつもりです。
英語版参照元:
https://uxdesign.cc/mitigating-our-impact-on-the-planet-through-services-474859a5b6be
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