CX経営は「企業変革のOS」ー 5つの力で企業は進化し続ける
顧客体験としてのCX、企業変革としてのCX
目次
なぜ今、CX経営が「企業変革のOS」なのか
顧客価値が企業価値を規定する時代の到来
インターネット革命を契機とする顧客へのパワーシフトにより、顧客価値が企業価値を規定する時代が到来しました。企業のすべての活動が可視化される状況の中で、企業価値は、製品やサービスを超えて「顧客がどのような体験を得るか」によって決定されるようになりました。製品やサービスの機能的な優位性だけでは競争優位を保てず、顧客との関係性の質、体験の深さ、感情的なつながりが企業の存続と成長を左右しています。
この変化により、先進的な企業は、CXを部門限定の「マーケティング施策」から「経営の中核」に移動させています。顧客体験は、商品開発から販売、アフターサービスまで、全ての事業活動の結果として生まれるものだからです。
戦略でも個別施策でも越えられない「組織の壁」
「CX戦略」や「CXマネジメント」を導入している企業は少なくありませんが、多くの企業が直面している現実は以下のような構造的な問題です。
部門ごとにKPIが設定され、それぞれが自部門のKPIを追求する結果、顧客にとってよい体験が提供されない、という部分最適が起きています。組織がサイロ化された状態で一貫した顧客体験を提供することは不可能です。
経営層・ミドルマネジメント・現場の壁も深刻です。経営層が顧客中心主義の戦略を掲げても、ミドルマネージャーはそれを自分の目標達成の足枷と感じ、現場は、自分が日々経験している現実とのギャップや経営層とミドルマネジメントの矛盾に直面し、やる気を失ってしまいます。
こういった縦・横の「組織の壁」が価値提供を阻んでいます。これらは個別の施策で解決できる問題ではありません。顧客価値を中心に企業を再構築するために、経営のOSそのものを入れ替える必要があります。

OSとしてCX経営を導入することで何が変わるのか
CX経営を「企業変革のOS」として導入すると、企業には根本的な変化が起こります。
まず、「どんな顧客価値を目指すのか」というCXビジョンを軸に、戦略から業務、カルチャーまですべてが連動するようになります。これは単なる理念の共有ではなく、具体的な仕組みとプロセスによって実現されます。CXビジョンという共通言語が、組織のあらゆる階層で意思決定の基準となります。
全社の意思決定が同期することで、部門間の矛盾や対立が減少します。マーケティング、営業、開発、カスタマーサービスなど、すべての部門が同じ顧客価値指標を見ながら、それぞれの役割を果たすようになります。
CXの改善が再現性を持つことも重要な変化です。属人的な改善活動ではなく、組織的な学習と進化のメカニズムが確立されます。CX経営は、方向性・判断基準・仕組みを統合する「企業変革=CX(コーポレート・トランスフォーメーション)のOS」として機能します。
CX経営OSを構成する「5つの力」──企業変革が動き出すメカニズム

1.組織行動の力:全社がひとつの方向に進む推進力
組織行動の力は、CX経営OSの基盤となる要素です。これは単に組織図を変更したり、役職を新設することではありません。
CXビジョンの策定と浸透は、全社員が共通の目標を目指すための出発点となります。CXビジョンは社会にとっての役割や価値観といった抽象的な理想論ではなく、具体的に目指すべき自社ならではの顧客価値と、それを実現するための行動指針を含んでいる必要があります。
CXビジョンに基づき、CXOの設置、経営会議での定期的なCX指標のレビュー、部門横断の意思決定プロセスなど、CX推進を確実なものにするためのルール・仕組みを制定します。これがCXガバナンスです。CXガバナンスにより、CXに関する意思決定が迅速かつ一貫性を持って行われるようになります。
CXガバナンスが顧客中心の行動を促し、その行動が習慣化することで、顧客中心のカルチャーが醸成されます。カルチャー変革には時間がかかりますが、最も差別化が困難な要素です。顧客中心の価値観が日常の行動に反映され、失敗から学ぶ文化、部門を越えた協力を称賛する文化が根付くことで、組織は真の意味で顧客志向になります。目指すべきCXカルチャーは、顧客の変化によって自社のCXビジョンやCXガバナンス、あるいは自社の事業モデルが変わった時に、その変化に柔軟に適応できるマインドセットを築くことです。
サイロを越えて動ける組織横断の運営モデル(OM)の構築により、部門の壁を越えた協働が日常化します。CXチャンピオン(草の根リーダー)や、CXを推進する社内コミュニティ、定期的な部門横断ワークショップなどがこれを支えます。
CXビジョン、CXガバナンス、CXカルチャーの3つ要素が統合されることで、全社がひとつの方向に進む「チームとしての推進力」が生まれます。

2.デザインの力:顧客インサイトに根ざした価値創造
デザインの力は、顧客の真のニーズを理解し、それを体験として具現化する能力です。
ここでは、人間中心デザインのプロセスを組織に実装します。深い顧客理解を実現するエスノグラフィックリサーチやZMETなどを通じて、表面的なニーズではなく、顧客の潜在的な欲求や意味・価値観を理解します。多くの企業は顧客インサイトを軽視しがちですが、競合に模倣されない体験デザインは、顧客の深い理解から生まれます。人間中心デザインを通じて、機能の追加や改善ではなく、顧客の文脈に寄り添い、感情的な価値を生み出す体験を設計できるようにします。ここで目指すのは、製品やサービスの枠を越えて、顧客との全接点で一貫した価値を提供する体験のデザインです。
ブランド体験のコンセプトをデザイン言語で視覚化し、デザインシステムを構築することで、デザインを属人的なセンスに依存せず、組織能力として定着させることができます。デザインシステム、デザイン原則、プロトタイピング、ユーザーテストなど、自社独自のデザインプロセスの標準化が、継続的な価値創造を支えます。
顧客のインサイトに根ざした価値創造を実現する能力を手に入れ、その実行プロセスを確立することで、企業は真の差別化を実現できます。

3. オペレーションの力:価値を届け続ける改善サイクル
オペレーションはCXの要です。ここでは、データに基づく「実行→測定→改善」のサイクルを高速で回せるようになることを目指します。それは表面的なデータに基づく改善サイクルではありません。データから導き出した顧客インサイトに基づく改善サイクルです。単純な数値指標だけを見るのではなく、顧客の認識や感情を測定し、そこから顧客インサイトを得ることで、優れた仮説を導き出すことが重要になります。 顧客の認識や感情の変化に基づいてより優れた仮説を生み出し、実行プロセスを仕組み化することで、改善サイクルが高速に回り始めます。
オペレーションの最大の壁になっているのは、先ほど述べた組織のサイロ化です。「小さく始める戦略」でそれを克服します。はじめから全ての顧客接点を改善しようとするのではなく、顧客にとって意味のある単位=個別ジャーニーを一つ選んで、部門を超えた改善サイクルを回せるようにします。まずは小さな範囲でデータに基づく部門横断の改善サイクルを確立し、それを段階的にカスタマージャーニー全体に広げることで、顧客体験を点ではなく線で管理するジャーニーマネジメントが可能になります。
ジャーニーマネジメントでは、顧客体験をジャーニー全体、個別ジャーニー、個々の接点の3つの層で捉えます。個々の接点の品質が、個別ジャーニーでの顧客のゴールの達成にどのように貢献し、それがジャーニー全体での顧客との関係性にどう貢献したのかをKPIで繋ぎ、可視化します。これにより、組織全体でエンドツーエンドの体験全体を俯瞰しながら、全体最適の視点からボトルネックや改善機会を特定できるようになります。
オペレーションの力は、現場でブレずに顧客価値を届け続ける実行基盤です。そのために、オペレーショナルエクセレンスの追求、標準化とカスタマイズのバランス、自動化と人的対応の最適な組み合わせ、継続的なトレーニングとスキル向上を通じて、継続的にCX改善サイクルを強化していきます。

4. デジタルの力:CXのオペレーションをスケール化するOS
デジタルの力の本質は、最新テクノロジーを導入することではありません。オペレーションをデータとAIによってスケール化し、再現性ある組織能力へと変えることにあります。単体で優れたツールを導入するのではなく、それらが連携し、組織横断のプロセスと結びつくことで、価値提供の仕組みそのものが強靭になります。これが、CX経営を支えるOSとしてのデジタル基盤の意味です。
しかし現実には、多くの企業で各部門が独自にツールを導入し、その存在すら他部門が把握していない状況があります。データは分断され、プロセスはつながらず、結果として顧客体験は一貫性を失います。デジタルが価値を生むどころか、新たなサイロ化を生んでしまっているのです。
CX経営では、コンポーザブル(組み合わせ可能)なデジタル基盤を重視します。顧客体験と業務フローに合わせて、必要な機能を柔軟に組み替えられ、全社のオペレーションとシームレスに連動する構造です。その第一歩は、オペレーションの流れに沿って「どんなデジタルが導入され、どこが未整備なのか」を全社視点で棚卸しし、分断と連携のボトルネックを可視化することです。基盤の全体像が見えることで、初めて改善と再設計が可能になります。

デジタル基盤は、(1)データの統合と品質、(2)AI・分析による予測と最適化、(3)業務プロセスの自動化・標準化、という三層構造で機能します。これによって、顧客体験は勘や属人的な判断ではなく、エビデンスに基づいて最適化されます。顧客行動やフィードバック、オペレーションデータを横断的に扱い、パーソナライズされた体験、リアルタイムの調整、先回り型の課題解決が可能になります。属人的だった価値提供が、組織能力として安定的にスケールし始めるのです。AIはさらに、このオペレーションを拡張します。チャットボットによる24時間対応、予測分析によるサービス自動化、顧客の声の高速解析など、人手では難しかった体験提供をほぼ無限に拡大します。人間は「価値判断・意味づけ・関係構築」に集中し、AIは反復作業を担うことで、CXオペレーション全体が強化されます。
ただし、デジタル基盤が真に価値を生むためには、デザインの力が不可欠です。データやAIだけでは、顧客が求める意味や感情は読み取れません。「どんな体験を意図するのか」というデザインの判断が上位にあり、その意図に沿ってデジタルを構成することで、初めてテクノロジーはCX価値を生み出します。AIエージェントが普及する時代においては、デジタルとデザインの統合が、より重要な競争力の源泉になります。
5. 脱学習の力:進化し続ける組織への変革
かつて成功をもたらした製品、効率的な販売チャネル、勝利の方程式とされた収益モデルも、顧客の価値観の変化とともに、「資産」から「負債」へと転じる瞬間が訪れます。この転換点で、過去にしがみつくか、痛みを伴う自己否定を受け入れて新たな価値創造へと舵を切れるか。この分岐点を乗り越える力こそが脱学習の本質です。
重要なのは、脱学習は頭で理解するだけでは実現しないということです。CXの実践を通じたダブルループ学習、つまり既存の前提や価値観そのものを問い直す深い学習プロセスが不可欠です。この実践的な脱学習の方法論として、エフェクチュエーションが有効です。手持ちのリソースで今すぐ始める「手中の鳥の原則」、顧客への影響を基準に判断する「許容可能な損失の原則」、想定外の声を変革のヒントとする「レモネードの原則」、顧客を共創パートナーとする「クレージーキルトの原則」、実験と学習を重視する「パイロットの原則」。これらは単なる起業の手法ではなく、CX実践の中で組織の深層にある価値観を書き換えていく行動変容のフレームワークです。
真のCXカルチャーとは、顧客の変化によってCXビジョンやガバナンス、事業モデルが変わっても適応し続けられるマインドセットです。CXの現場での実験と学習が積み重なり、ダブルループ学習を通じて組織の前提が問い直され、最終的にプライオリティそのものが顧客価値創造重視へと書き換わる。この継続的な進化こそが、持続的な競争優位の源泉となります。

EXとCXの循環が生むROX(Return on Experience)
・現場の判断がどう揃ったか
・組織の動きがどうスムーズになったか
といった、“体験を起点とした変化”を捉えます。
CX経営では、数字だけでなく「関係性の質」も成果として扱います。
ROXは、そのための共通言語です。
そして重要なのは、ROXが単なる評価指標ではなく、組織の動き方そのものを揃えていくための軸になるという点です。
5つの力が相互に働き合うことで、企業は継続的なCX向上へと向かう「変革の軌道」に乗ることができます。そして、この企業変革(CX = Corporate Transformation)を進めるうえで欠かせない視点が、EX(従業員体験)です。
顧客との関係性を深め、信頼や共創を生み出すためには、まず組織内部の働き方が変わり、部門を超えた協働が日常化していく必要があります。CX経営とは、単に顧客接点を改善する取り組みではなく、「働く人の体験を変え、その変化が顧客体験へと連動していく一つのシステム」をつくる営みです。
CXとEXは本来切り離されて存在するものではなく、一つの循環するシステムです。顧客の喜びや感謝の声が従業員のモチベーションとやりがいを高め、従業員は自らの仕事の意味と成長を実感します。その実感がさらなる学習意欲を生み、より良い価値提供への探求につながります。
従業員が誇りと喜びを持って働くとき、その姿勢は必ず顧客体験の質に反映されます。社内での意思決定や協働が滑らかで創造的であればあるほど、顧客への価値提供も一貫性と革新性を持つようになります。
つまり、CX経営の本質は、顧客と従業員の体験を同時に変えていく「企業全体の変革プログラム」にほかなりません。EXとCXが循環することで、企業は短期の成果にとどまらない、持続的な価値創造の力を手に入れます。

CX経営OSが企業変革を牽引する3つの理由
全社横断の「変革の同期」が生まれる
5つの力が連動すると、企業に「変革の同期」という現象が起こります。これは、組織のあらゆる部分が同じリズムで、同じ方向に向かって動き始める状態です。
戦略レベルでは、経営層が掲げる方針と、各部門の戦略が整合性を持ちます。CXビジョンという共通の北極星に向かって、マーケティング、営業、開発、カスタマーサービスなど、すべての部門が自律的に、また協調的に動きます。
業務レベルでは、日々のオペレーションが顧客価値創造に直結します。KPIが顧客成果と連動し、プロセスがカスタマージャーニーに沿って設計され、意思決定が顧客影響を考慮して行われます。
組織カルチャーレベルでは、顧客中心の価値観が浸透し、行動に反映されます。部門の壁を越えた協力が自然に起こり、顧客のフィードバックが改善の源泉となり、イノベーションが顧客課題から生まれます。
この同期により、変革が止まることなく、継続的に進化する組織となります。
戦略・業務・カルチャーが「顧客価値」でつながる
CX経営OSの最大の特徴は、企業活動のすべてを「顧客価値」という一本の線でつなげることです。
戦略策定において、顧客価値は意思決定の基準となります。新規事業の評価、投資判断、リソース配分など、すべての戦略的決定が「顧客にどのような価値を提供するか」という観点から行われます。
業務遂行において、顧客価値は行動の指針となります。商品開発では顧客の課題解決が最優先され、営業活動では顧客の成功が目標となり、サービス提供では顧客満足が成果指標となります。
カルチャー醸成において、顧客価値は組織の存在意義となります。「なぜ我々は存在するのか」「何のために働くのか」という根源的な問いに対して、「顧客価値の創造」という明確な答えを持つことで、組織は強い求心力を得ます。
顧客価値という一貫した物差しが、判断をブレさせない「経営の基準点」になることで、企業は迷いなく前進できるようになります。
再現性ある改善サイクルが組織に定着する
CX経営OSは、改善を属人的な活動から組織的な仕組みへと進化させます。
データドリブンな改善プロセスの確立により、感覚や経験則ではなく、事実とエビデンスに基づいた改善が可能になります。顧客フィードバック、行動データ、ビジネス成果を統合的に分析し、改善の優先順位を決定し、施策の効果を測定します。
組織学習のメカニズムにより、個人の気づきや部門の成功事例が、組織全体の知識として蓄積されます。ベストプラクティスの共有、失敗からの学習、実験結果の横展開などを通じて、組織の改善能力が継続的に向上します。
イノベーションのプロセス化により、新しい価値創造が偶然ではなく必然となります。デザイン思考の活用、顧客との共創、アジャイル開発の導入などにより、イノベーションが日常的に生まれる環境が整います。新しいCXの創出やCXの改善が属人化せず、仕組みとして回り続けることで、企業は持続的な成長を実現できるようになります。
短期成果と中長期成果を同期させる「関係価値マネジメント」
多くの企業でCXが持続的な競争優位に結びつかない最大の理由は、「短期施策としてのCX」に偏ってしまうことです。広告、改善施策、UI改善といったマーケティング主導のCXは、効果が可視化しやすい一方で、企業価値の源泉となる「関係の質」には踏み込めません。顧客との信頼、共感、共創といった関係価値は、中長期にわたって企業に収益と持続性をもたらす重要な無形資産です。しかし、それらは短期の数値指標だけでは測定しきれず、マーケ部門の裁量だけで管理するには限界があります。
だからこそ、CXはマーケティングの範囲に留めるべきではありません。経営レベルで「短期成果」と「中長期の関係価値」をどうバランスさせ、同期させるかが問われています。日本企業が長く大切にしてきた「信頼にもとづく関係」は、グローバルでも再評価されている競争優位の源泉です。短期成果と中長期成果は「対立するもの」ではなく、「同期すべきもの」です。CX経営は、CXの取り組みを経営アジェンダに引き上げることで、短期的成果と中長期の関係価値をリンクさせ、関係価値を企業活動全体で育て、財務成果へと変換するためのOSとして機能します。

CX経営OSを企業に実装するステップ
1. 現状のCX実践能力診断──5つの力を可視化する
CX経営OSの実装は、CX実践能力の現状の正確な把握から始まります。
そこでは、私たちが提供しているCX経営自己診断ツールを活用することもできます。このツールを活用して、組織の現状をスキャンします。5つの力それぞれについて、成熟度レベルを評価し、強みと改善機会を特定します。この診断は、経営層だけでなく、各部門のリーダーやキーパーソンも参加することが重要です。多様な視点から組織を評価することで、認識のギャップや隠れた課題が明らかになります。
診断結果の分析では、単に点数を見るのではなく、5つの力のバランスと相互作用を理解します。例えば、デジタルの力が高くても組織行動の力が低い場合、テクノロジー投資が十分な成果を生まない可能性があります。逆に、組織行動の力が高くてもオペレーションの力が低い場合、良い意図が実行に結びつかない可能性があります。
現状認識の共有は、変革の第一歩となります。診断結果を全社で共有し、現在地と目指すべき姿のギャップを明確にすることで、変革の必要性と方向性についてコンセンサスを形成します。
2. CXの現状把握とコンセンサス形成ーカスタマージャーニーワークショップ
変革を成功させるためには、関係者の理解と協力が不可欠です。
部門横断ワークショップの実施により、各部門のリーダーが一堂に会し、自社が提供しているCXの現状を共有し、変革の方向性と優先順位について議論します。このワークショップでは、顧客ジャーニーマップの作成、ペインポイントの特定、改善機会の発見などを通じて、部門を越えた共通認識を形成します。
合意形成プロセスでは、トップダウンの決定ではなく、関係者の対話と協議を通じて合意を形成します。各部門の懸念事項や制約条件を共有し、相互理解を深めることで、実行段階での抵抗や混乱を最小限に抑えます。
部門間の合意をつくり、変革の初速を上げることで、CX経営OSの実装がスムーズに進みます。
3. CX経営OS実装のロードマップ──CX経営プログラム
現状診断と部門間の合意に基づいて、具体的な変革プログラムを設計します。
すべての施策を同時に実行するのではなく、変革ポートフォリオを設計し、優先順位と実行順序を決定します。組織の現状、利用可能なリソース、期待される成果、実行の難易度などを考慮して、最適な組み合わせと順序を決定します。
クイックウィンとロングタームの両立も重要です。短期的に成果が見える施策と、長期的な組織能力構築のための施策をバランスよく組み合わせることで、変革のモメンタムを維持しながら、持続的な成長基盤を構築します。
CX経営OSを導入した企業はどう変わるのか
事業成長への影響:顧客価値が収益に直結する
CX経営OSの導入は、事業成長に直接的かつ持続的な影響を与えます。
継続利用率と売上の安定化は、最も顕著な成果の一つです。顧客体験の質が向上することで、顧客ロイヤルティが高まり、解約率が低下します。サブスクリプションモデルの企業では、月次解約率が1%改善するだけで、顧客生涯価値が大幅に向上します。また、満足した顧客からのアップセル・クロスセルの機会も増加し、顧客単価の向上につながります。
差別化された体験による新規獲得の加速も重要な成果です。優れた顧客体験は、最も強力なマーケティングツールとなります。満足した顧客からの口コミや推奨により、新規顧客獲得コストが低下し、獲得効率が向上します。マッキンゼーの調査によると、NPS(Net Promoter Score)が業界平均を上回る企業は、平均して2倍以上の成長率を実現しています。
価格競争からの脱却も可能になります。顧客が体験に価値を感じると、価格だけで競合と比較されることが減少します。プレミアム価格でも選ばれるブランドとなることで、利益率の改善と持続的な成長が実現します。
組織能力の向上:実行力・改善力・連携力の底上げ
CX経営OSは、組織の基礎的な能力を大幅に向上させます。
実行力の向上により、戦略と実行のギャップが縮小します。明確なビジョン、整合性のとれたKPI、標準化されたプロセスにより、組織全体が一貫性を持って動くようになります。プロジェクトの成功率が向上し、施策の効果が予測可能になります。
改善力の向上により、継続的な進化が可能になります。データに基づいた意思決定、組織的な学習メカニズム、実験文化の定着により、改善のスピードと質が向上します。小さな改善の積み重ねが、大きな競争優位につながります。
連携力の向上により、組織のサイロが解消されます。共通の目標、部門横断のプロセス、協力を促進する文化により、部門間の協働が日常化します。顧客価値創造という共通目的のもと、組織全体が一つのチームとして機能するようになります。
属人性から仕組み化への移行により、組織の持続性が高まります。個人の能力や努力に依存するのではなく、組織的な仕組みとして価値創造が行われるようになることで、人材の入れ替わりがあっても、組織の能力は維持・向上し続けます。
「変化に強い組織」としての進化:市場変化への適応力
CX経営OSを実装した組織は、変化への適応力が飛躍的に向上します。
市場変化への素早い対応が可能になります。顧客との継続的な対話、データによる変化の早期発見、アジャイルな実行体制により、市場の変化を素早く察知し、迅速に対応できるようになります。COVID-19のような予期せぬ変化に対しても、顧客ニーズの変化を理解し、サービスを柔軟に適応させることができます。
新しい価値創造が続けられる組織への進化も重要な成果です。イノベーションは特別なイベントではなく、日常的なプロセスとなります。顧客との共創、実験と学習の文化、失敗を許容する環境により、継続的に新しい価値を生み出す組織となります。
レジリエンスの向上により、危機に強い組織となります。顧客との強い関係性、柔軟な組織構造、学習する文化により、外部環境の変化や競合の攻勢に対しても、しなやかに対応できるようになります。
エコシステムの中心となる企業への進化も可能です。優れた顧客体験を提供する企業は、パートナー企業からも選ばれる存在となります。プラットフォームとしての役割を担い、エコシステム全体の価値創造を主導する立場になることができます。
CX経営は「企業変革を加速するOS」
5つの力は相互連動する「経営の基盤」
CX経営OSを構成する5つの力は、独立した要素ではなく、相互に連動し強化し合う関係にあります。
組織行動の力が土台となり、全社の方向性を定めます。この土台の上に、デザインの力による価値創造、オペレーションの力による価値実現、デジタルの力による価値増幅が積み重なります。そして、脱学習の力が、これらすべてを常に更新し、進化させ続けます。
この5つの力が統合されることで、部分最適ではなく全体最適が実現します。一つの力だけを強化しても、期待する成果は得られません。5つの力の相互作用を意識しながら強化することで、企業は真の変革を実現できます。
経営の基盤としてCX経営OSが機能することで、あらゆる経営判断に一貫性が生まれ、組織のエネルギーが一つの方向に集約されます。
顧客価値を軸に企業が進化し続ける仕組み
CX経営OSの本質は、顧客価値を中心に据えた自己進化システムです。
CXビジョンという北極星が、企業のあらゆる活動を導きます。戦略策定から日々のオペレーション、イノベーションから組織文化まで、すべてが顧客価値創造という一点に収斂します。これにより、複雑化する経営環境の中でも、企業は迷うことなく前進できます。
継続的な学習と適応のメカニズムにより、企業は常に進化し続けます。顧客からのフィードバック、市場からのシグナル、内部からの気づきが、組織の知識として蓄積され、次の行動に反映されます。このサイクルが高速で回ることで、企業は競合を凌駕する速度で進化します。
持続可能な成長の実現も、CX経営OSがもたらす重要な成果です。短期的な利益追求ではなく、顧客との長期的な関係構築を重視することで、企業は持続的な成長を実現します。顧客、従業員、株主、社会といったすべてのステークホルダーにとって価値ある存在となることができるのです。
まずは現状を把握し、小さく始める
CX経営への変革は、壮大な旅のように感じられるかもしれません。しかし、千里の道も一歩から始まります。
最初のステップは、現状を把握することです。5つの力の観点から自社を評価し、強みと改善機会を明らかにします。この診断は、変革の起点となるだけでなく、組織内での認識共有と対話のきっかけになります。
小さな成功体験を積み重ねることも重要です。すべてを一度に変えようとするのではなく、実現可能な施策から始め、成功体験を積み重ねます。これにより、組織の自信とモメンタムが生まれ、より大きな変革への準備が整います。
経営層のコミットメントは、変革の成否を左右します。CX経営は、部門の取り組みではなく、全社変革です。経営層が本気でコミットし、リーダーシップを発揮することで、組織全体が動き始めます。
CX経営OSがもたらす競争優位の持続性
CX経営をOSとして実装することで得られる競争優位は、一時的なものではありません。それは、模倣困難性、ネットワーク効果、累積的な学習効果という3つの特性により、持続的かつ拡大的な優位性となります。
模倣困難性は、CX経営OSが単なる施策の集合ではなく、相互に連動する複雑なシステムであることから生まれます。競合他社が表面的な施策を真似ることは可能でも、5つの力が生み出す相乗効果や、組織文化に根ざした実行力を模倣することは極めて困難です。
ネットワーク効果は、顧客、従業員、パートナーとの関係性が深まるほど、価値が指数関数的に増大することを意味します。満足した顧客が新たな顧客を呼び、優秀な人材が集まり、有力なパートナーとの協業が生まれる。この好循環が、競争優位をさらに強固なものにします。
累積的な学習効果により、時間の経過とともに組織の能力が向上し続けます。データの蓄積、ナレッジの体系化、実践知の共有により、組織は賢くなり続けます。後発企業との能力差は、時間とともに拡大していきます。
CX経営OSは企業に持続的な競争優位をもたらし、変化の激しい時代においても、確固たる地位を築くことを可能にします。企業変革は終わりのない旅ですが、CX経営というOSを実装することで、その旅は明確な方向性を持ち、着実な前進を続けることができるようになります。
今こそ、CX経営を「企業変革のOS」として導入し、顧客価値を中心に据えた持続的成長への道を歩み始める時です。5つの力を統合的に強化し、全社一丸となって変革を推進することで、会社を新たな次元へと進化させていきましょう。
さらに深く学びたい方へ
本ポータルでは、CX経営を「企業変革のOS」と捉え、現場の実践から組織変革へとつなげる基本構造を整理しています。
さらに理解を深め、実践につなげたい方に、以下をおすすめします。
▶︎STEP1|CXを「組織能力」に変える設計思想を学ぶ
本ポータルの考え方を、より掘り下げた実践編として、以下の連載で詳しく解説しています。
【連載】 Series|CX経営の「5つの力」を解説するシリーズ
―第2回:デザインの力 - 顧客インサイトに根ざした価値創造プロセスの実装
―第3回:オペレーションの力 - 測定を起点とするCX改善サイクルの確立
―第4回:デジタルの力 - デジタルによるオペレーションのスケール化・最適化
―第5回:脱学習の力 - 変化に適応し続ける組織能力の獲得
▶︎STEP2|CX経営を体系的に実装する
市場も顧客も、そしてAIも進化している。
しかし多くの企業では、CXを支える組織のOSがアップデートされていない。
・サイロ化をどう突破するのか
・なぜCXを経営アジェンダに引き上げるのか
・実装を支える「5つの力」
出版記念イベント『いちばんやさしいCX経営の教科書』著者トーク
CX経営の5つの力と実装のポイント
イベントの目的
CX(顧客体験)を単なる「接点改善」という矮小化した捉え方から解放し、組織全体を動かす「企業変革(CX)のOS」として再定義すること。日本企業が陥っている「サイロ化」を打破するための具体的な実践フレームワーク(5つの力)を提示します。
話のポイント
- 歴史に学ぶ本質: 古代バビロニアの「Amazonレビュー」から見える、普遍的な信頼関係。
- 日本企業の弱点: なぜ海外企業に比べ、日本のCXビジョンは「誰のものか分からない」のか?
- 5つの力の連動: 組織行動、デザイン、オペレーション、デジタル、そして「脱学習(アンラーニング)」。
- 脱・部分最適: 組織の壁(サイロ)を壊し、ジャーニーマネジメントで全体最適を実現する手法。
見どころ(タイムスタンプ)
- [01:47] 3750年前のCX: 古代バビロニアの遺跡に残された「苦情」が教える、CXの本質。
- [05:29] 組織を動かすCXビジョン: ディズニーの清掃員が「掃除」以上の価値を提供できる理由。
- [14:39] サイロ化打破の処方箋: いきなり全体を狙わない。「1つのジャーニー」から始める突破口。
- [16:53] DXの致命的なミス: デジタルを導入する前に「デザイン」が不可欠なワケ。
- [24:00] 200年続いた呪縛からの脱却: 「需要と供給」のマインドセットを捨て、共創の時代へ。
こんな人におすすめ
- CX/マーケティング担当者: 「現場の改善が全社的な成果につながらない」と悩んでいる方。
- 経営企画・DX推進リーダー: デジタルツールを入れたものの、組織が変わる手応えがない方。
- マネジメント層: 部署間の壁(サイロ化)を壊し、顧客中心の組織文化を作りたい方。
著者トーク「CX経営の実践を支える5つの力」(動画30分)
CX実践を支える5つの力
こんにちは。白根と申します。
私が大伸社でCXの仕事を始めたのは2002年からです。フォレスターリサーチでCXデザインのトレーニングを受けてスタートしました。その後、CXのイノベーション、定性リサーチ、CX経営などを学びながらサービスを少しずつ広げていきながら今日に至っています。
本日は、この本に沿って、CXで今何が問題になっているか、どう取り組むべきか、というお話をしようと思います。問題の本質を捉える時に、イリノイ工科大学デザイン大学院のヴィジェイ・クーマー教授から教わったのは、問題の本質を捉えたかったら歴史を振り返って俯瞰的に見なさい、ということです。そこで、3750年前に戻って、ちょっとそこからCXを見てみたいなという風に思います。
交換の時代:3750年前の苦情が教えるCXの本質
古代バビロニアの遺跡なんですね。これ楔字でなんか書いてあるんです。苦情ですよね。CXですよね。Amazonレビューみたいだと思います。書いてあるのって、基本的に品質が悪いこと、約束を守らないということ、人として尊重しないこと。結局CXって人の営みなので、大事なことはあまり変わってないですよね。本質は3750年前とあんまり変わってないなっていうことが見て取れると思います。
この時代は、素朴な商取引だったんだろうと思うんです。物と貨幣の交換をするみたいな事なんですけれども、でもここでもやっていたのは1対1のやり取りで、しかも「信頼」がベースになっているんですね。「信頼」とか「関係性」がベースになった取引が行われてることは、意外に今企業が目指してるCXに近いものがこの時にあったのかもしれないなという風にも見えたりするわけです。
それから3750年後の現代ですね。CXがすごく良くなったかというと、そうでもないんです。いろんな問題がいっぱいあるんですけれども、実はその個々の問題ではなくて、まず捉え方ですね。CXの実践というのはいろんな活動が連動して成り立っているんです。けれども、ちょっと矮小化して顧客接点の改善っていう風に見ちゃいがちなんです。でも、そうじゃないんです。先ほど見ていただいた問題も、実は活動が連動していなくて、全社的に活動が同期してないことによって生まれていると思います。
この本ですけれども、この5つの力というのをバッと出して、それを連動させることによって、組織のCXの実践力を高めていきませんか?というのがコンセプトです。言い換えれば、この5つの力というのは企業変革(CX)のOSみたいなオペレーションシステムみたいなものです。EX(Enterprise Transformation)のOSとしてこの5つの力を使いませんかっていうことです。
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CX経営を実装する「5つの力」• 組織行動の力:CXビジョン・ガバナンス・カルチャーを連動させる
• デザインの力:顧客インサイト起点で部門横断の人間中心設計を行う • オペレーションの力:ジャーニー単位で改善サイクルを回す • デジタルの力:連携性を前提にCXをスケールさせる • 脱学習の力:需要と供給の思考から、価値共創の思考へ |
組織行動の力:CXビジョン・ガバナンス・カルチャーを連動させる
「組織行動の力」は、組織全体が同じ方向を向いて、連携してCXを向上していくという力ですけれども、ここでまず最初に必要になるのがCXビジョン。「どの方向に向かって」「何を目指して」CXをやっていくのかということです。これがない企業が日本の場合は非常に多いんですね。
4つ会社の経営理念をピックアップしたんですけど、なんか、どの会社なのか分からないですよね。「何のために」という表明はされているのですけどね。「地域社会のために」という表明はされているんだけれども、共鳴するような、そういうものはあまりないですよね。なおかつ「何のために」「顧客に対してどのように」ということが全然書かれてないんですよ。
海外のCXの先進企業って全然違うんです。顧客に自分たちならではの、「どういう価値を提供したいのか」ということを明確に定義しているんですね。それを全社的に共有しているということでスタートしています。ディズニーとか見ていただくと、ディズニーランドの清掃員ってこのビジョンに向かって頑張ってるわけですよね。単純にディズニーランド内を綺麗にしようっていうことで働いているわけじゃないということです。どこを目指してやっているのかというのがあるからなんです。
だから日本の多くの企業は「CXを向上しよう」って言っているんですけれども、それぞれどの方向に行くのか分からないので、非常にチグハグな状態になっているんですね。本当に当たり前のことなんですけれど、海外の先進企業のようにまずどの方向に向かっていくのかということを定めないとバラバラなままですよ、ということになります。
このCXビジョンがしっかり定まると、それに基づいてじゃあどういう権限を持って、どういうルール、仕組みを持ってそのビジョンに到達するためにやっていくのかっていうことを定めることができます。これをCXガバナンスと言います。CXガバナンスというのを定めると、それが行動を促すので、そこで行動が定着していくとCXカルチャーというのが醸成されてくるようになっていきます。
ただこのCXビジョンがなくて、ルールや仕組みだけあると、命令だけされてもやりたくない従業員はやらないですよね。だからそういう意味でも、すごい共鳴するCXビジョンがあると、従業員がやる気を出しますよね。そうするとCXガバナンスで決めている以上の行動をするので、CXビジョンに向かって加速していくという事が起こるわけですね。こういう形で3つは支え合うわけです。
もう1つの特徴は、CXビジョンは中長期的に固定するもので、ガバナンスはそのビジョンの到達具合によって調整するものですね。四半期やってみて違うので変えようってことはできます。カルチャーは時間をかけて醸成されていく、というような時間軸にも違いがあります。
もう1つの特徴は、ビジョン、ガバナンスは会社で決められることです。顧客が変化したらCXビジョンを変えないといけないかもしれない。あるいは事業モデル自体を変えないといけないかもしれない。そういう決め方ができないのがCXカルチャーです。CXカルチャーは、会社が決められないのです。
CXカルチャーの本質というのは、CXビジョンとか事業モデルが変わったとしても適応できる組織ということが本質ですし、もっと言うとこのCXカルチャーを持っている人たちが、CXビジョンを更新するような、そういう働きかけをしていけるというのが、本当にすごいCXカルチャーだと思います。
デザインの力:顧客インサイト起点で部門横断の人間中心設計を行う
革新的な体験を提供するとか、優れたブランド体験を提供するには「デザインの力」が必要なのですけれども、やはり日本の企業の多くはその顧客インサイトというのを捉えず、もうすぐに、作ることが決まってるモノを作るという風になっているのが、未だに多いのが現状です。
ここでやるのは、部門横断チームで人間中心デザインをできるようにするということです。部門横断チームというのはやっぱりすごく大事です。デザイン思考とか人間中心デザインというのは、デザイン部門とか商品部門ができたらいいだろうという風に考えがちなのですが、そうじゃないんです。事業をデザインしようとした時に、デザインとかマーケティングとか商品開発の人たちだけでは足りないですね。もっといろんな知恵が必要になってくるので、あらゆる部分の人たちがこのプロセスに参画するというのが必要になってきます。やることは接点をどう作るかという話じゃないんですね。
「顧客は本当はどういう体験をしたいのか」「顧客は本当は何を求めてるのか」というところからスタートしましょう。具体的には、我々が2002年から学んだようなペルソナとか、カスタマージャーニーマップとかをしっかり使いこなして、部門横断のプロジェクトチームでやっていきましょうということです。こういう共通言語、共通ツールがあることによって部門が違ってもプロジェクトが前に進みやすくなります。
オペレーションの力:ジャーニー単位で改善サイクルを回す
オペレーションはCXの要です。やることは実はシンプルで、実行したらデータを収集して、データを収集したら仮説を検証して、新たな仮説を作ってまた改善策をデザインして、を繰り返すわけですけれども、ここでより優れた仮説を立案できて、改善策を仕組み化することができると、これが高速で回るようになっていくんですね。この改善サイクルを高速で回すというのが競争力になるということです。
じゃあ仮説をどういう風に作っていくかと言うと、皆さん仮説検証はされていると思うんですけれども、よくあるのは、何か施策を実行したら、コンバージョン率がどうだったとか、数値的な結果を見て改善しようとすることです。重要なのは、お客様がどういう気持ちになったか、どんな態度になったかっていうことを捉える、それを測定するということなんですね。それを測定して、インサイトを得ることで、優れた仮説が出せるようになってきます。こんなCXに変えたらお客さんはこう感じてこんな行動するはずだというようなことを考えるためには、真ん中のお客様の認識という指標をしっかりと捉えて測定することが必要になるということです。
CXの改善の1番の障壁になっているのが部門のサイロ化、組織の縦割りなんですね。それが改善サイクルを回せなくしているということです。部門内の改善サイクルは回せているんですよ。でもCXって部門内じゃないですよね。部門と部門が繋がってお客さんは体験しているので、改善というのは部門を超えてやらないといけないのに、部門内の改善だけで終わってるんですね。例えばウェブサイトだけの改善をしても、配送がダメだったら意味がないですよね。そういうようなことになってしまっているということです。
顧客接点全体を一気に改善サイクルを回せるようにするのは無理な話なので、この本でご紹介しているのは、もうジャーニー1つだけに絞ってやりましょうということです。ジャーニー1つだけに絞って、部門を超えてデータに基づく改善サイクルを回せるようにすることが大事。それができたら、ちょっとずつ広げていってカスタマージャーニー全体の改善に持っていきましょう。
カスタマージャーニー全体まで持っていけると、「ジャーニーマネジメント」というのが可能になります。ジャーニーマネージメントは3つの層から成り立っているんですけれども、「インタラクション」というのは個々の接点ですよね。個々の接点の体験品質がその上のレイヤーにどう貢献したか。お客さんのゴールがあるので、「買う」というゴールをスムーズに達成できたかというのが「個別ジャーニー」。「ジャーニー全体」はお客さんとの関係ですよね。「個別のジャーニー」が、お客さんとの関係をどう深めることができたかというのをKPIで可視化するようにしましょうと。そうすると組織全体で今どういう状態になっているかというのが分かって、全体最適の考え方から優先順位をつけることができるんですね。それと可視化されているので、部門が違っても、どういう状況かが分かるようになるというのがジャーニーマネージメントです。
ここを目指していくんだけれども、まずは小さく始めて部門横断で改善サイクルを回せるようにする。それが要はサイロ化を打破するっていうことですね。
デジタルの力:連携性を前提にCXをスケールさせる
「デジタルの力」で3つ問題があるんですけども、1つよくある問題はこれなんですね。デジタルを入れれば解決してくれというように思ってしまうことで、DXがうまくいっていない、1つの典型例がこれだと思うんですね。要はデジタルを入れる時に「デザインの力」が必要なんです。ちゃんと業務を分析するとか、顧客が何を求めているかをしっかりと理解して顧客インサイトを得た上でちゃんとデジタル体験をデザインしないとだめなんですね。デジタル体験をデザインして、ようやくその技術を実装することができて、そうすると実行可能な改善サイクルになっていくっていうことです。
デザインを全くやってらっしゃらないわけじゃないとは思うんですけども、かなり薄めにささっとやってしまうが故に、肝心の投資のところで大きな投資のところで失敗しちゃうっていうことが起こっているんです。
2つ目、3つ目の問題がデジタル導入が分断化しているという問題なんですけれども、2つ目の問題は何かと言うと、要はデジタルってオペレーションをスケール化するためのものですね。で、そのためにオペレーションを繋ぐものなんですね。ですので、重要なのは連携性が非常に重要なんです。連携性が非常に重要なのに、国産のツールって連携性をあんまり考えてないものが多いんです。単体のツールとしては優れているんだけれども、連携しないと分断が起こっちゃうっていうことです。
だからデジタルツールを導入する時には、連携性っていうのをよく吟味して考えるっていうのが大事だと思います。そのコンポーザブルとか組み立て可能ってことですね。組み合わせ可能なツールかどうかっていうのはすごく大事なことです。
3つ目に、もっと深刻なことは何かって言うと、要はオペレーションでサイロ化が起こってるという話をしましたけども、デジタルの導入も同じなんですね。自分たちの部門にこれがいいっていうので、自分たちの部門に都合のいいツールをそれぞれが導入しちゃうんです。その後で連携するのは非常に難しいわけですね。
多くの企業で自社がどういうデジタルツールをどんな風に導入して、どういう状態になっているかが分からないっていうのは非常に多いわけです。ですので、やらないといけないのはまず、そんな状況になっているとしたら、オペレーションの流れに沿って、自分たちがどういうツールを整備できているか、整備できてないかというのを可視化しましょう、把握しましょう、ってことですね。それが1番最初にやるべきことです。
本の付録で、あのポータルサイトからダウンロードできるツールなんかもご用意していますので、まずは現状把握されるのがいいのではないかなと思います。
脱学習の力:需要と供給の思考から、価値共創の思考へ
最後、「脱学習の力」です。で、顧客も市場もテクノロジーも変化していきますので、その変化に合わせて自分たちを変化させていく。それでCXと進化させていくっていうことです。
実はCXがこんなに注目されるようになったのはインターネット革命ですね。インターネット革命が起こって顧客へのパワーシフトが起きたというのが背景にあって、それでCXが大事になって急に大事になってきたわけです。これをフォレスターは2010年から顧客の時代に突入したっていう風に言っています。
どういう時代かと言うと、顧客へのパワーシフトが起こっているということで、要はこれまでは企業が情報をコントロールして、自社の製品やサービスを押し込むって事がしやすかったんですね。でもそれができなくなって、顧客は自分たちで情報を集めて比較検討して自分で意思決定するということができるようになってきたというのがこの顧客の時代で起こった変化です。
多くの企業は、CXが大事だっていうことで、脱学習をするわけですよね。その脱学習っていうのはどういうことだったかと言うと、製品では差別化ができないな。だから体験で付加価値をつけよう。で、受け手である顧客に対して差別化戦略の要素としてこのCXをやっていこう。これが多くの企業が脱学習したことなんです。
これは間違ってはないとは思うんですけれども、でも実際には、自社都合のCXを展開してCXは良くなってないし、差別化にもなってないっていうのが、あちらこちらで散見されます。何かが足りないですね。
これ何が足りないかっていうのを考えると、1800年まで遡るんですね。産業革命が起こった時に、「交換の時代」から「需要と供給の時代」にシフトしたんですね。パラダイムシフトが起こったということです。これが実は企業が情報をコントロールして自分たちの製品を押し込むことができることの正体なわけです。
この「需要と供給の時代」って、藤川先生のグッドドミナントロジックの仲間のレンズですよね。1800年から「需要と供給の時代」になった。で、「交換の時代」から2025年にかけてあんまり良くなってないというのは何かと言うと、つい最近まで我々は「需要と供給の時代」をやってきたんですね。ここにおられる方は皆さん記憶にあるというか、今もそこにあるような感じですよね。
だから時代は「顧客の時代」になったと言うんだけれども、実は我々の無意識の中には、この「需要と供給の時代」のマインドセットがどっかに潜んでいるんですね。引きずっているっていうのがあるわけです。だからもしかすると、CXが大事だっていうのも、「需要と供給の時代」のレンズで見たものかもしれないです。
そうすると、じゃあ「顧客の時代」のレンズで見るとどうかって言うと、その製品では差別化できないっていう課題認識じゃなくて、要はもっと深刻で、企業の存在が360度見られていますよというのが今の世の中ですよっていう見え方です。解決の方向性も、体験で差別化するのもいいけれども、それ以上に信頼というのが年々重要になってきています。あるいは価値共創が非常に重要になってきてるということで、顧客は受け手じゃなくて、共創する主体ですよ。CXの意味も、競争の手段ではなくて、顧客と自分たち企業が一緒に成長していくための関係を作ることというのがCXの意味になるんじゃないですか。というような見え方をするわけです。
「顧客の時代」のレンズというのは、サービスドミナントロジックのレンズの仲間のレンズですね。で、こういう顧客の時代のレンズで見ると、やっぱりより中長期思考のCXというのを、もう少し重く大事に考える必要があるなということなんですけれども、それを短期と中長期で対立させるんじゃなくて、それを同時に考えていくっていうことが必要になります。
そうすると、今多くは短期的思考のCXというのは、マーケティング部門が主導でやっているんですけれども、これを経営アジェンダまで引き上げて繋ぎ直すということをしないといけないんじゃないかっていう風に思います。そんなこともあって、この本ではあえて「CX経営」という言葉を使わせてもらいました。
最後に
最後に1番最初にこの本を企画した時に思っていたことは、体系的で平易な本にしよう、これはもう絶対にそうしようって思ったんですね。それはなぜかと言うと、まず個別施策をいくらやってもさっきの5つの力のような組織全体を変えるっていうことはできないっていうことです。もう1つはCXの実践っていうのは全員でやるものなんですね。一部の人が戦略を立ててそれですむものではないということです。なので、この本を体系的で平易な本にしようと思いました。
問題は何かと言うと、壁の問題なんです。それは部門間の壁もありますし、階層の壁もあります。この壁がCXの推進を阻害しているわけです。
この壁を打破するために、共通のビジョンを持って、共通の目標を持って、共通言語を持って、共通の手法を持って、組織をもう1回繋ぎ直す。そのためのツールとして、この本を使っていただけたら大変嬉しく思います。是非そういうような組織をつなぎ直すツールとしてどう使えるかというような観点で見ていただけるとありがたいです。
どうもご清聴ありがとうございました。

