ほぐれるCX
CXにまつわる様々なテーマをほぐしながら、実践につながる考察をお届けします。
第4回の「クリエイターが答えを手放す」この一見逆説的な提案の真意は、リズ・サンダース氏が 提唱する「design BY people」の実現にあります。
第1回の補足編で紹介したサンダース氏の言葉を、もう一度紹介しておきましょう。
「デザインする行為は、過去から脈々と今日まで続いていますが、これまでは人のために、消費者の ためにデザインするという行為でした。しかし今日では、コ・デザインするという新たな選択肢が生ま れています。ユーザーとともに、その他のステークホルダーとともにデザインするというやり方です。
コ・デザインの先の未来には、コレクティブ・ドリーミング――皆で一緒に夢をみるということが待って いるのではないでしょうか。そのとき、デザイナーの仕事は、ツールやマテリアルを作り、人々がデザ インをするお手伝いをするファシリテーター役になっているのではないでしょうか。」
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主体性がなければ何も起こらない
しかし、ここで重要な問いが浮かび上がります。design BY peopleもエフェクチュエーションも、環境を整えるだけでは何も始まりません。デザイナーが場を用意し、企業がエフェクチュエーションの制度 を導入しても、それを実行する人々が主体的でなければ、すべては絵に描いた餅です。 重要なのは、designならpeople、エフェクチュエーションならそれを実行する従業員が、真に主体的 かどうかです。 では、主体的であるための原動力とは何でしょうか?
好奇心という魔法の力
私が最も影響を受けた人物の一人で、しかも家が近所(歩いて五分)の、同志社女子大学の上田信行名誉教授は、その答えを一言で表現しました。「好奇心」です。 では、その好奇心をどのように育てることができるのでしょうか。
2025年5月、DMNが主催した「Learning Curiosity」ワークショップで、上田氏は参加者全員を魔法にかけるような、飛び上がるほど面白いセッションを披露してくださいました。
「絵を描くマシンを作ろう」という冒険
テーマは「絵を描くマシンを作ろう」。設計図も作成手順も一切ありません。参加者に渡されるのは、 小さなモーター、電池、ペン、そして様々な素材のみ。二人組になった参加者たちは、試行錯誤を重ねながら「絵を描くマシン」について自分たちで考え、実験し、いじくり回し、マシンを作り上げていきます。
上田先生は、この活動を「Tinkerable」という表現で紹介しました。Tinkerableとは、学ぶ人が「自分で 触って試せること」を通じて学びを深めていける状態のことです。まさに、体験を通じて好奇心を育 み、学びへと昇華させていく活動です。

真の学びとは何か
ワークが終わった後、参加者たちは深く内省しました。なぜこのワークでは「好奇心を持って学ぶこと を楽しむ」ことができたのか?そして、なぜ日常の仕事では「好奇心を持って学ぶことを楽しむ」ことができていないのか?この体験を通じて得られた気づきを、それぞれが自分の言葉で言語化してい く過程 ——実は、この「自分の言葉で言語化すること」こそが真の「学び」であると上田氏は明かしま した。
「学び」というものは、決して他人から与えられるものではありません。体験を通じて本人が感じ取り、 自分の言葉で紡ぎ出したもの ——それこそが真の「学び」なのです。

新たな視点を築くプロセス
上田氏は続けて、学びの本質について語りました。「学びというものは、知識を得ることだけではな く、体験を通じて自分の中に新たな視点や考え方を築いていくプロセス全体を指す」と。 そして、これからの不確実な時代において最も大切なのは、「答えを知っていること」ではなく、「問い を持ち続け、好奇心によって学び続ける姿勢」であると。
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好奇心が紡ぐ未来

最寄り駅近くでバッタリ出会った上田先生と記念撮影

