ほぐれるCX
CXにまつわる様々なテーマをほぐしながら、実践につながる考察をお届けします。
本編では、人的資本経営を真の成長ドライバーに進化させるため、CX(顧客体験)の視点を組み込む重要性についてお伝えしました。人材育成の重点領域として「CXスキル」を挙げましたが、もう一つ重要なスキルがあります。それが「チームワークスキル」です。
なぜチームワークスキルが重要なのか
一人だけの力で顧客価値を創造することは困難です。優れたCXには、営業、マーケティング、製品開発、カスタマーサポートなど、様々な部門が連携して取り組む必要があります。つまり、個人のCXスキルが高くても、チーム全体として機能しなければ、顧客に届ける価値は限定的なものになってしまいます。
従来の人材育成では、個人スキルの向上に重点が置かれがちでした。しかし、CXという観点から考えると、「個人の能力×チームの連携力」が最終的な顧客価値を決定します。そのため、人的資本経営にCXの視点を組み込む上では、チームワークスキルへの投資も欠かせません。
理想的なチームの姿:チームワーキング
チームづくりの具体的な進め方を教えてくれるのが、中原淳・田中聡著『チームワーキング ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター)です。「チームワーキング(Team + Working)」とは、チームメンバーが全員参加し、チーム全体の動きを俯瞰し合いながら、目標に向かってダイナミックに変化し続ける状態を指します。
このチームワーキングの概念は、CX向上を目指すチームにとって理想的なフレームワークです。なぜなら、顧客体験の向上には、固定的な役割分担ではなく、状況に応じてメンバーが柔軟に連携し、全体最適を図ることが求められるからです。
1. チーム視点
チーム全体の見通しを持ち、全体像を意識する CXの文脈では、個々のメンバーが自分の担当業務だけでなく、顧客の一連の体験全体を意識することを意味します。例えば、マーケティング担当者が広告施策を考える際に、その後の営業プロセスやカスタマーサポートでの対応まで含めて検討するような姿勢です。
2. 全員リーダー視点
それぞれがリーダーとしての当事者意識を持ち、主体的に行動する CX向上においては、「誰かがやってくれる」という受動的な姿勢では成果は生まれません。各メンバーが顧客価値創造のリーダーとしての意識を持ち、自分の専門領域から積極的に貢献することが重要です。
3. 動的視点
チームを「常に動き続け、変化し続けるもの」として捉える 顧客のニーズや期待値は常に変化しており、市場環境も流動的です。そのため、CXを向上させるチームも、固定的な構造ではなく、状況に応じて柔軟に変化できる動的な組織である必要があります。
チームワーキングの3つの行動原理
1. Goal Holding(ゴール・ホールディング)
目標を継続的に保持し続けること。 CXチームにおいては、CXビジョンを、日々の業務の中で常に意識し続けることです。短期的な業務に追われる中でも、本来の目的を見失わない仕組みが必要です。
2. Task Working(タスク・ワーキング)
動きながら「解くべき課題」を常に探し続けて活動すること。顧客体験の改善には終わりがありません。現在の施策を実行しながらも、次に改善すべき課題を常に探し、継続的な改善を図る姿勢が求められます。
3. Feedbacking(フィードバッキング)
メンバー同士が互いにフィードバックし合い、チームとしての調整を続けること。CX向上には、部門を超えた連携が不可欠です。営業からマーケティングへ、カスタマーサポートから製品開発へなど、各部門の知見を共有し、互いに学び合う文化が重要です。
チームワークスキルを人材育成に組み込む具体的方法
従来のアプローチの課題
従来のチームビルディング研修では、一時的なイベントやアクティビティに重点が置かれがちでした。しかし、これらの取り組みは短期的な効果に留まることが多く、実際の業務におけるチーム連携の向上には直結しにくいという課題がありました。
CX/EXの視点を組み込んだアプローチ
チームワークスキルの育成では、CX向上を明確な目的として設定します。研修の目標を「チーム内の関係性向上」ではなく、「顧客価値創造のためのチーム連携力向上」とします。
具体的な実施内容として、実際の顧客事例や課題を題材とした演習を行います。架空のケースではなく、実際に自社が直面している顧客課題を解決するための連携方法を学びます。また、部門を超えたプロジェクトチームを編成し、実際のCX改善施策を企画・実行する機会を提供します。
研修効果の測定においては、チーム内の満足度だけでなく、そのチームが関わった顧客の満足度や成果指標の変化を追跡します。これにより、チームワークスキルの向上が実際に顧客価値に貢献したかを検証できます。
チームワークは習得可能なスキル
重要なのは、チームワークは生まれ持った才能ではなく、習得可能なスキルだということです。しかし、多くの企業では、体系的にチームワークスキルを学ぶ機会は限られているのが現状です。
個人のスキルアップには多くの投資をしても、チーム力向上のための投資は後回しにされがちです。しかし、CX向上という観点から考えると、チームワークスキルへの投資が、人的資本投資の効果を最大化する鍵となります。例えば、mctとMiro社が共同で提供している「Beyond Collaboration」のようなプログラムは、デジタルツールを活用しながら、実際の課題に取り組む中でチームワークスキルを身につけることができます。

このようなプログラムでは、理論の学習だけでなく、実際の協働体験を通じて、チームダイナミクスの理解と実践的なスキルの習得を同時に進めることができます。また、デジタルツールの活用により、リモートワーク環境でも効果的なチーム連携を実現する方法を学ぶことも可能です。
チームワークスキルは習得可能で、適切なプログラムと継続的な実践により、確実に向上させることができます。
あなたの会社では、チームワークスキル向上のための投資をどの程度行っていますか?人的資本投資の一環として、チームワークスキル向上に着手することをお勧めします。
次回は、創造性がどのようなメカニズムで機能しているのかについて詳しくみていきます。どうぞお楽しみに。
Written by Hideaki Shirane
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