ほぐれるCX

CXにまつわる様々なテーマをほぐしながら、実践につながる考察をお届けします。


【第1回補足】CXの3750年史:design BY people「皆で夢をみる」デザイン

Written by Hideaki Shirane

スクリーンショット 2025-09-27 14.27.47

「CXの3750年史:一枚の粘土板から人間性中心デザインまで」は、もともとは『いちばんやさしいCX経営の教科書』の冒頭に「CXの歴史」という項目で載せるつもりだったコンテンツです。本書を実践的な内容に絞り込むためにカットし、こちらで公開することにしました。このコンテンツは、本書のイントロでもあり、「おわりに」の続きでもあります。ポイントは最後に人間性中心デザインに辿り着くことですが、本編ではさらりとしか触れることができなかった、リズ・サンダース准教授からの学びについて、こちらで詳しくご紹介したいと思います。

サンダース准教授との出会い

私は、2013年に現在大伸社の社外取締役のカール・ケイ氏とともにシンシナティのオハイオ州立大学を訪問し、サンダース准教授からコ・デザインの考え方についてレクチャーを受けました。その後、2014年にはサンダース氏を日本にお招きして、mctのメンバー全員が参加するワークショップを開催していただきました。サンダース氏自身がファシリテーションを行い、コ・デザインの具体的な手法を実際に体験しながら学ぶという、非常に貴重な機会となりました。

ケイ氏にパペットの使い方を実演するサンダース准教授

ケイ氏にパペットの使い方を実演するサンダース准教授

「作る」→「伝える」→「演じる」のサイクル

サンダース氏が考案したセッションの最大の特徴は、「作る」→「伝える」→「演じる」という3つの行為を循環させながら、参加者全員で共通のビジョン、つまり「夢」に辿り着いていくという設計にあります。また、「作る」プロセスでは様々な素材を用意するのですが、サンダース氏によると、レゴなどの精巧なツールを使ってしまうと、参加者の意識がきれいな作品を作ることに向いてしまい、本来の目的から逸れてしまうのだそうです。そのため、できるだけ素朴で飾り気のない素材を意図的に選んでいるとのことでした。

セッションで使用するマテリアル

セッションで使用するマテリアル

最も大切なのは「マインドセット」

初めてサンダース氏のもとを訪れた際、私たちはテクニックやメソッドを学ぶことが目的だと考えていました。しかし彼女は、人間中心デザインのテクニックを習得することも、メソッドを理解することも確かに必要だが、何よりも大切なのはマインドセットを学ぶことだと、繰り返し強調していました。このマインドセットが、「design BY people」です。

2014年にDMN(デザインマネジメントネットワーク)が主催したセミナーで、サンダース氏は次のように語っています。

「デザインする行為は、過去から脈々と今日まで続いていますが、これまでは人のために、消費者のためにデザインするという行為でした。しかし今日では、コ・デザインするという新たな選択肢が生まれています。ユーザーとともに、その他のステークホルダーとともにデザインするというやり方です。コ・デザインの先の未来には、コレクティブ・ドリーミング――皆で一緒に夢をみるということが待っているのではないでしょうか。そのとき、デザイナーの仕事は、ツールやマテリアルを作り、人々がデザインをするお手伝いをするファシリテーター役になっているのではないでしょうか。」
この言葉は、デザインの未来像を鮮やかに描いた、極めて示唆に富んだメッセージです。

2014年にDMN(デザインマネジメントネットワーク)が主催したセミナーで、サンダース氏

 

セミナーの全編は以下でお読みいただけます。

DMNレポート16・17「コ・デザイン:未来デザインのマインドセット・メソッド・テクニック」
https://mctinc.jp/dmn_subscription/organization016
https://mctinc.jp/dmn_subscription/method017
サンダース氏の著書『CONVIVIAL TOOLBOX』は残念ながら英語版のみですが、コ・デザインについて学ぶなら、上平崇仁氏による『コ・デザイン —デザインすることをみんなの手に』(NTT出版)という素晴らしい書籍があります。この本を通じて、コ・デザインへの理解を深めてください。

次回は、この人間性中心デザインが実際にどのような具体的な体験として現れるのかを、詳しく見ていきたいと思います。どうぞお楽しみに。

Written by Hideaki Shirane