ほぐれるCX
CXにまつわる様々なテーマをほぐしながら、実践につながる考察をお届けします。
第3回では、『いちばんやさしいCX経営の教科書』の第4部「自社ならではのCXをデザインする」に関連して、ブランディングにまつわるよくある誤解について掘り下げました。
この記事にはZMET(Zaltman Metaphor Elicitation Technique)の考え方が色濃く反映されています。
ZMETとの出会い、そしてザルトマン氏から学んだこと
私は2009年に、ZMETのモデレーター認定を取得しました。この認定を得るためには、OZA(Olson Zaltman Associates)でのレクチャー受講とインタビューのトレーニングを経て、実際のお客様にZMETインタビューを実施し、その品質がOZAの基準を満たしているかの審査に合格する必要があります。
2010年、OZAの本拠地であるピッツバーグで開催された、世界各国のZMETパートナーが一堂に会するリトリートに参加する機会を得ました。そこで、ZMET開発者のジェラルド・ザルトマン氏ご本人にお会いすることができました。彼のレクチャーで最も印象深かったのは、「ブランドはコ・クリエーション(共創)である」そして「ZMETもまたコ・クリエーションなのだ」という言葉でした。
ザルトマン氏から学んだ教えをもとに、もう少し補足を加えたいと思います。ブランディングでしばしば見られる失敗は、ウィルバーの統合理論における「内面の軽視」にあります。この点について、『心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす』(ダイヤモンド社)では、以下の図を使って詳しく説明されています。少し長い引用になりますが、ご紹介します。

出所:『心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす』(ダイヤモンド社)
市場の心(the mind of the market)
「スポーツカーを運転する人にとって、車を購入する動機は、機能だけではなく、感情と深く結びついている。彼は、他人の目から見て、自分が若くて魅力的であったり、セクシーで積極的であると見られたいと思っているかもしれない。また、広告を見たり、他人が車を買っているのを目にするなどの文化的な影響によって、こうした内的欲求が呼び起こされたのかもしれない。おとなしそうなおじさんが、真っ赤なスポーツカーに魅力的な異性を載せている場合などは、そのおじさんの内的欲求は、もしかすると幼少のころの出来事に深く根ざしているかもしれない。
同時に、これらの内的欲求や幼少の頃に受けた影響があるからこそ、広告を始め様々な社会的影響は非常に効果的なものとなる。このような欲求があるために、スポーツカーを運転する人は、広告で見た情報や試乗体験、購買行動や実際の走行経験に基づいて、意味のある体験を形成する。したがって、消費者に対する”外的”なマーケティング活動は、彼らの”内的世界”を喚起するのに不可欠である。つまり、消費者が特定の製品を購入するという意思決定は、単にどちらか一方の世界から生まれるわけではなく、内的世界と外的世界の相互作用により発生するのである。外的世界から働きかけるマーケターのメッセージ効果は、消費者の内的世界の影響を軽視してしまっているがゆえに、ほとんどの製品開発は失敗に終わってしまう。」
この説明が示すように、ブランドとは消費者とマーケター双方の意識と無意識が織り成す相互作用から生まれるということです。この本質的な理解をせずに取り組むブランディングは、どうしても表層的なものに留まってしまいます。
物語とアーキタイプ
『心脳マーケティング』では、アーキタイプの重要性についても言及されています。
「アーキタイプは、人生における困難を受け止め、うまく振る舞い、自己を理解する助けとなる(中略)。消費者がつくり出す物語に対して何らかの形で働きかけようとするならば、アーキタイプに基づいて物語をつくるべきで、ステレオタイプに基づいてつくるべきではない。アーキタイプに基づいてつくられる物語は、普遍的なテーマ、すなわち、個別の設定の背景にあるコア・メタファーやディープメタファーを備えている。ステレオタイプに基づいた物語は、設定自体に重きが置かれてしまい、より深遠で普遍的な価値は希薄になってしまう。広告やブランドに込められたメッセージが、明快なアーキタイプやコア・メタファーを備えたものであれば、消費者の置かれた状況が個々に異なっていても、彼らはそこに一貫した意味を見出すことができる。商品に関する物語がアーキタイプに基づくものであれば、異なる文化やサブカルチャーを超えて、その意味は伝わるだろう。」
アーキタイプは個人の深い内面(I)であると同時に、文化や状況を超越した普遍的なもの(WE)でもあります。つまり、ZMETが理解しようとしているのは、単なる個人それぞれの深い内面ではなく、個人を超えて普遍的に存在する内面なのです。
これら2つの引用を通じて、真に効果的なブランディングを実現するために、ZMETをはじめとする深層的なインタビュー手法がなぜ重要なのか、その理解を深めていただけたなら嬉しいです。

リトリートの一環でみんなで観戦したピッツバーグのPNCパーク
ZMETの紹介
【連載】 Series| ZMET
ZMETを使ったサービスブランディングの考え方・進め方
【連載】 Series|サービスブランディング
次回は、コ・クリエーション(共創)におけるクリエイターの役割について考えてみたいと思います。どうぞお楽しみに。

