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12 01, 2015 01:00 101デザインメソッドとヘルスケアビジネス

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こちらは、イリノイ工科大学デザインスクールのヴィジェイ・クーマー教授が著したデザイン思考の教科書、『101デザインメソッド』を紹介するコーナーです。今回は、患者・医師・薬剤師など、登場人物の多岐に渡るヘルスケアビジネスを題材に、複数の関与者を巻き込みながら新しい解決策、新しいビジネスを創出するためのメソッドについて考えたいと思います。


Convergence Map(コンバージェンスマップ)

コンバージェンスマップは、複数の業界が重なる部分でイノベーションの機会を見つける方法です。糖尿病を例にすると、近い業界の組み合わせでは糖尿病と食品産業、少し遠い業界の組み合わせでは糖尿病と旅行産業の重なりが考えられます。糖尿病の専門家と旅行産業に詳しいエキスパートを交えて二つの業界で起こっている重複点を見つけた上で、糖尿病患者・家族・医師・看護師・旅行のプランナー・添乗員などを交えたアイデエーションを行うと、医療関係者のみでは決して創出されないアイデアが生まれるだろうことは想像に難くないでしょう。

Innovation Landscape(イノベーションランドスケープ)

イノベーションランドスケープは、業界内のイノベーションの偏り具合を診断する手法です。例えば、リウマチは痛みと関節の変形が起こる病気ですが、痛みを取り除く方法や疾患が悪化しない方法について、研究(イノベーション)が進んでいます。ただ、その事実をイノベーションの偏りと認識することが出来たならば、他の方向に向けたイノベーションを考え始めることが可能になります。
関節が変形してしまってもオシャレが出来るよう、医療器具メーカーとシューズメーカーやアパレルメーカーが共同でオシャレなリハビリ靴を研究開発しても良いでしょう。そしてその先には、医師・理学療法士・ファッションコーディ―ネーターが共同して心理面からも患者をサポートする新しいエコシステムが生まれるかもしれません。

Analysis Workshop(分析ワークショップ)

リサーチを行った後に、精緻にインサイト発掘を狙うことも有益です。例えば、高齢者の運動。運動をしない方の、しない理由は何でしょうか。面倒だ、興味がない、新しいことはしたくない、ケガをするのが怖い、などはすぐにイメージが付きます。
ただ、もう一歩踏み込むと、異なるインサイトが見つかります。ゲートボール人口が減った理由の一つが、「チーム戦」だと言われています。戦略をめぐって意見がぶつかり合い、人間関係が煩わしくなってしまうということです。また、スポーツクラブでも会員の派閥化が進み、それがストレスになっているようです。すなわち、人間関係の煩わしさも、運動をしたくなくなる一因になっている可能性がある、ということです。

インサイトが異なると、解決策も異なります。煩わしい人間関係を発生させないための場・アプリケーション・コーディネーター(人材)が必要になってくるでしょう。そうした場合、スポーツトレーナーに加え、アプリ開発者、コーディネートする人材が共同で新しいサービスを開発すると良いかもしれません。

 

上記はあくまで一例ではありますが、これらを違う言葉で表現すると、「従来の解決策の枠から発想をズラし、新しい関与者と共にアイデアを創出すると、新しい解決策が生まれやすい」とまとめることができます。ヘルスケアビジネスの問題を解決する際も、医療関係者だけでなく、他分野の有益なエキスパートを見つけ、彼らの知見を活かす。そのプロセスが自社のイノベーションの文化レベルにまで昇華すると、イノベーションを生み出し続ける組織に変貌することになるでしょう。

この話はヘルスケア領域だけでなく、どのような業界のビジネスにも当てはまります。是非、101デザインメソッドのような思考ツールを活用しながら効率的に新しいエキスパートを見つけ、彼らを巻き込んでアイデア創出を行い、新しい解決策・新しいビジネスを見いだせるようにしていただければと思います。

Takeshi Sato株式会社mct ストラテジスト

【タグ】 101_design_methods,

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