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2020.10.11

Blog|建て直されたマズローの欲求ピラミッド

1012_建て直されたマズローの欲求ピラミッド

こんにちは。mctの鶴森です。
皆さんはマズローの欲求5段階説をご存知だと思いますが、
進化論や生物学の観点から建て直されたピラミッドがあるというのをご存知ですか?

提唱しているのは、心理学者のダグラス・ケンリック教授で、マズローのピラミッド(欲求5段階説)との大きな違いは、「自己実現の欲求」が「繁殖(家族)の動機」に変わっているというところにあります。

ケンリック教授はマズローのピラミッドにどのような問題を見出したのでしょうか。
著書(邦訳「野蛮な進化心理学」白揚社、ダグラス・ケンリック著)の中で「マズローは、人間の一生において繁殖が持つ中心的な重要性を語っていない。さらに、ピラミッドの上位にある自己実現の欲求を非生物学的な欲求として上位に位置付けているが、人間に特有の行為と思われるからといって非生物学的と決め付けることは間違っている」というようなことを述べています。

そして そのような問題に対して、ケンリック教授は次の図のようにピラミッドを建て直しました。

画像1

出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3161123/ 画像を引用し日本語訳を追記

マズローのピラミッドとの違いは大きく3つのあります。

1.「頂点から自己実現の動機をなくした」
マズローは「自己実現」は生物学的な機能を持たないと考えましたが、ケンリックは人間の行動はすべて包括適応度(自分の遺伝子を未来に旅立たせるための成功度)を高める産物だという進化論の観点から自己実現にも生物学的な機能があると考えました。自己実現を極めた人は、歴史的にみればたいてい高い地位を得て、繁殖成功の確率を高めているといったことを例えに出し、自己実現を承認欲求の延長上の一部として位置付け、「自己実現の追求→他人からの高い評価が得られる→集団内での地位の確立につながる→より多くの異性とお近づきになれ、子供にごちそうを与えられる」といった機能的なメリットがあるとしています。

2.「頂点に繁殖に関する3つの新しい動機を加えた」
ピラミッドの上部は「自己実現」に変わって、「配偶者の獲得」「配偶者の維持」「子育て」の3つが置かれています。
理論的な背景には、生活史理論と言われる概念があります。
生活史とは、「生物学的経済」に関する理論であり、そこには動物の成長過程において限られた資源をいつどのように割り振るかについて常にトレードオフが存在するという前提があります。また生活史は大きく二つの局面に分けられ、ひとつは身体的努力(得た資源を自らの身体という銀行口座に入金する)、もうひとつは繁殖努力(入金した資源を固体の遺伝子複製に使う)で、さらに繁殖努力は交配と子育ての2つに分けられます。人間の場合は性的成熟期に達するのに時間がかかり、パートナー探しに数年を費やし、さらに自分のエネルギーを子育てに注ぐという特徴があります。
その考え方をピラミッドに適用し、生存や社会的つながりに関する動機が、配偶者を獲得するための下支えになっていて、それが今度は配偶者との関係維持の基盤となり、次にそれが子作りや子育てといった動機を支えているといった形にしています。

3.「動機を重ね合わせた表現にした」
マズローは高次の欲求を持つ芸術家などは低次の欲求を超然しているという考え方をしていましたが、ケンリックは「マズロー以降の研究からは、遅れて発達する動機は先行する動機に置き換わるのではなく、その上に形成されるという考え方が支持されている」という理由から、ピラミッドを重ね合わせることで、その時々の状況によって同時に存在する別の動機が選択されるということを表現しています。


ここまで、ケンリックのピラミッドをマズローとの違いという視点からご紹介してきました。
私自身の経験では、mctが実施したプロジェクト「Making New Things 〜アフターコロナ・ビジョニング」の中で新型コロナを通して人生が大きく変化した人たちに話を伺った際に「家族」に関する変化やニーズを強く意識している人がいて、テーマによってはケンリックのピラミッドを意識すると対象の理解が深まる場合があると実感しました。
一方、ケンリック教授の仮説では自己実現の欲求が承認欲求の一部として位置付けられていますが、フロー理論があるように純粋に創作活動に没頭している芸術家は承認欲求を意識しているわけではないと思います。またそのような意識/無意識のレベルの違いに加え、人間は生物学的な欲求だけではなく生まれてからの社会的な影響を受けて欲求が形成されるということも考えられます。そのように考えると、どちらか一方だけではなく両方のピラミッドが建てられた背景を理解した上で、あくまでも仮説として目的や状況に応じて参照することでよりうまく活用できると考えています。

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