ほぐれるCX
CXにまつわる様々なテーマをほぐしながら、実践につながる考察をお届けします。
サスティナビリティによって変化するブランドとCX

課題1:信頼破綻体験の回避
顧客が体験する問題
顧客は購入後に、その商品・サービスが期待していた社会価値に反することを知ると、深い裏切り感を体験します。この体験は以下のような瞬間に発生します。
・SNSで購入したブランドの労働問題を知る瞬間
・環境配慮を謳う企業の大量廃棄ニュースを見る瞬間
・サステナブルだと思って選んだ商品の製造過程の実態を知る瞬間
・企業の公式発表と第三者報道の内容に大きな乖離を発見する瞬間
これらの体験は、顧客にとって単なる「情報の更新」ではありません。自分の価値観と行動の一貫性が崩れる、極めて感情的な体験です。
なぜここから始めるべきか
この信頼破綻体験が一度でも発生すると、どれだけ優れた社会価値体験を後から設計しても効果がありません。顧客の中で「この企業は信用できない」という感情的な判断が固定化されてしまうからです。
着手方法
顧客がこうした裏切り体験をしないよう、事前の透明性確保から始めてください。完璧である必要はありません。重要なのは「隠さない」ことと「改善している」ことです。
・プロダクトライフサイクル全体の把握
・サプライヤー監査の実施と結果の公開
・改善計画の策定と進捗の定期報告
・顧客からの質問に対する回答体制の構築
・問題発覚時の迅速な対応と改善策の共有
mctでは、課題1に対応するために、製品・サービスのライフサイクル全体を可視化して改善に繋げる手法を学ぶ「プロダクトジャーニーワークショップ」というサービスを提供しています。
期待できる成果
顧客が「この企業は正直だ」と感じることで、次のステップでより積極的な社会価値提案を行う際の信頼基盤が確立されます。
課題2:社会価値の空虚感解消
顧客が体験する問題
なぜ2番目か
信頼の土台ができて初めて、顧客は企業の社会価値創造活動に関心を持ち、「社会貢献をしている企業を選ぶ」ようになります。順序を間違えると、「グリーンウォッシュ」として受け取られるリスクがあります。
着手方法
・顧客が実感できる社会課題解決商品・サービスの開発
・購入による社会貢献の見える化(寄付額、CO2削減量など具体的数値で)
・顧客参加型の社会課題解決プロジェクト
・社会価値創造の成果を顧客と共有するコミュニティ形成
・商品・サービス利用が社会に与えた影響のフィードバック
期待できる成果
顧客が「この企業は社会に貢献している」という実感を得ることで、ブランドとの感情的なつながりが格段に強化されます。
課題3:行動変容の挫折体験回避
顧客が体験する問題
・サステナブル商品を選びたいが、価格が高すぎて断念する瞬間
・環境に配慮した選択肢を探すが、そもそも選択肢が見つからない体験
・エコな行動を始めたが、面倒すぎて継続できずに罪悪感を感じる
・持続可能な生活を目指すが、既存の習慣を変えられない自分への失望
・一人でやっても意味がないのではという孤独感
これらの挫折体験が繰り返されると、顧客は「自分には社会貢献は無理だ」と諦めてしまい、企業の社会価値提案そのものに関心を失ってしまいます。
なぜ最後なのか
着手方法
・サステナブルな選択肢の価格・利便性改善(価格差の縮小、アクセスの向上)
・持続可能な行動を継続するためのツールやガイド提供
・顧客コミュニティでの知識・経験・励ましの共有促進
・段階的な行動変容プログラム(小さな成功体験の積み重ね)
・一人ひとりの状況に合わせたカスタマイズされた支援
mctでは、課題3の解決策として、COM-Bというフレームワークを用いて人々の行動変容をデザインするサービスを提供しています。
COM-Bの詳細はこちら
期待できる成果
企業主導から顧客との共創へ
すべての課題を同時に、完璧に解決しようとすると動けなくなります。むしろ、小さな改善を積み重ね、顧客と一緒に学習しながら進化していくべきです。
重要なのは、各段階で「企業主導」から「顧客参加」、さらに「共創」へと関係性を発展させていくことです。これにより、本編で懸念された「善意による支配」のリスクを最小化しながら、実践的な成果を積み上げることが可能になります。
この3段階のアプローチを実践した企業は、顧客との関係において質的な変化を経験するでしょう。顧客は単なる「購買者」から「社会変革のパートナー」へと位置付けが変わり、企業も「利益追求主体」から「社会システムの一部」として機能するようになります。
これが、本編で展望したソーシャルマーケティング3.0の、私なりの現実的な道筋です。
次回は、学生の時代からの関心事である「わかる」「理解する」ということについて掘り下げてみたいと思います。大学の頃に繰り返し読んだマイケル・ポランニーの『暗黙知の次元』や、会社に入って仕事の参考にしたリチャード・ワーマンの『理解の秘密』などがどう反映されるのか、自分でも楽しみです。では、次回もお楽しみに。
Written by Hideaki Shirane
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