ほぐれるCX

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【第9回補足】プレイフル・シリアスネスの実践法

〜なぜビジネスにユーモアが必要なのか【補足編】〜

Written by Hideaki Shirane

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本編では、ユーモアがビジネスにもたらす効果をご紹介しました。「プレイフル・シリアスネス」という概念を提示しましたが、実践方法については十分に触れませんでした。
補足編では、その実践について考えてみます。特に、実現可能性が低く見える高いパーパスに挑戦する時、プレイフル・シリアスネスがどんな真価を発揮するのか見ていきます。

高いパーパスには、ユーモア・OODAループ・エフェクチュエーション

「地球温暖化を止めたい」「貧困をなくしたい」「誰もが創造性を発揮できる社会を作りたい」——こうした壮大なパーパスを掲げる時、多くの組織が直面するのは「でも、現実的にどうやって?」という壁です。ここで力を発揮するのが、OODAループ(Observe-Orient-Decide-Act)とエフェクチュエーションです。このプロセスは、不確実性の高い状況で「完璧でなくても前進する」ことを可能にします。そして、ユーモアがその各段階を潤滑にし、加速させます。
 

 

SpaceXの「火星移住」への軽やかなアプローチ

イーロン・マスクのSpaceXは「人類を火星に移住させる」という、一見非現実的なパーパスを掲げています。しかし、その実現プロセスは実に軽やかです。
 

失敗を祝う文化 

ロケット爆発の映像を自らYouTubeに投稿し、「How NOT to Land an Orbital Rocket Booster(軌道ロケットブースターの着陸失敗集)」として公開。失敗を隠すのではなく、学習プロセスの一部として楽しんでいます。

  

小さな成功の積み重ね

「火星移住」という壮大な目標を、「再利用可能ロケット」「民間宇宙飛行」「衛星インターネット」など、具体的で測定可能な小さなステップに分解し、それぞれで成功体験を重ねています。
 
 
 

ユーモア・OODAループ・エフェクチュエーションの実践

 

Observe(観察):「手中の鳥」で今できることから始める

観察段階でのユーモアの役割  
壮大なパーパスを前にすると、「自分たちには無理だ」という諦めモードに陥りがちです。ユーモアによる軽やかさで、等身大の現状を受け入れながらも、可能性を見出す姿勢を保ちます。エフェクチュエーション理論の「手中の鳥(Bird-in-Hand)」の原則で、「今、私たちが実際に持っているリソースは何か?」を楽しみながら棚卸しします。

具体例:「教育格差をなくしたい」NPOの場合
×「予算もコネもない。こんなことで教育格差がなくなるわけがない」
○「今のところ、情熱的なメンバー3人とノートPC、それに近所の公民館の使用許可がありますね。まずは近隣の小学生10人に無料の宿題サポートから始めてみませんか?名付けて「無謀・貧乏大作戦!」。
 
 
 

Orient(情勢判断):「レモネード」で制約を創造の源に

情勢判断段階でのユーモアの役割
リソースの制約や予期しない問題を、新しい機会として再解釈する創造的思考を促進します。「レモネード(Lemonade)」の原則で、制約や問題を「面白い挑戦」として捉え直します。

具体例:持続可能な農業を目指すスタートアップが資金調達に失敗した時
×「投資家に理解されなかった。江戸時代じゃないんだからと言われた」
○「投資家に頼らない方法を考える機会をもらいましたね。農家さんと直接パートナーシップを組む方が、実は理念に合っているかも。いっそ「200年遅れの未来テック」として訴求しましょう!
 
 
 

Decide(決心):「許容可能な損失」で大胆な実験を

決心段階でのユーモアの役割
完璧な計画を求める完璧主義を排除し、「とりあえずやってみよう」という軽やかな決断力を育みます。
 
「許容可能な損失(Affordable Loss)」の原則を、ユーモアと組み合わせます。「失敗しても笑い話になる程度の挑戦」という判断基準です。

具体例:AIで医療格差を解決したいチームの診断アルゴリズムのプロトタイプ
×「まだ精度が70%しかない。95%になるまで頑張ろう」
○「70%でも十分面白い結果ですね。診断の補助ツールとして限定公開しませんか?最悪でも『無謀な奴らだ』と笑われるだけでしょうし」
 
 

Act(行動):「クレイジーキルト」で仲間を増やしながら進む

行動段階でのユーモアの役割
 一人で完璧にやろうとせず、様々な人を巻き込みながら、楽しく進める雰囲気を作ります。「クレイジーキルト(Crazy Quilt)」の原則で、パッチワークのように、予期しない協力者や支援者を次々と巻き込んでいきます。
 
具体例:「地域の孤独を解決したい」コミュニティプロジェクト
 ×「システムを完成させてから、テスト導入を始めよう」
○「商店街の八百屋さんに話したら『面白そうだね』と言ってくれました。八百屋さんをコミュニティのハブにして、宣伝イベントをしませんか。彼は”野菜の着ぐるみ”を持っているそうです」

このような軽やかなアプローチが、想定外の協力者(地元の高校生、退職したエンジニア、主婦グループなど)を巻き込むことにつながります。

 
 

OODAループによる「理想への現実的な道筋」

高いパーパスを持つ組織が陥りがちな罠は、「大きな一歩」を踏もうとして動けなくなることです。ユーモア・OODAループ・エフェクチュエーションは、この問題を「小さく、早く、楽しく」の循環で解決します。

従来の重厚な理想追求
理念設定→詳細計画→完璧な準備→壮大な実行→結果評価...
 
ユーモア活用ユーモア・OODA・エフェクチュエーションの軽やかな理想追求

観察(今できること)→判断(面白そうなこと)→決心(やってみよう)→行動(巻き込みながら)→新たな観察...
この軽やかさが、「不可能に見える理想」を「現実的な積み重ね」に変換します。

実践のための3つのマインドセット

マインドセット1:「完璧主義」から「実験主義」へ

高いパーパスだからこそ、完璧を求めず、小さな実験の積み重ねで近づいていく姿勢が重要です。「失敗も学習のうち」という軽やかさを保ちましょう。
 

マインドセット2:「独力主義」から「協働主義」へ

一人や一つの組織だけで大きなパーパスを実現しようとせず、様々な人・組織を巻き込んでいく楽しさを味わいましょう。
 

マインドセット3:「深刻主義」から「プレイフル・シリアスネス」へ

真剣さと遊び心を両立させ、重要なことを軽やかに追求する文化を育みましょう。
 
 
 

高いパーパスを実現するプレイフル・シリアスな組織へ

プレイフル・シリアスネスは、「不可能を可能にする」魔法ではありません。しかし、不可能に見える理想を、現実的で楽しい挑戦の連続に変換することができるようにします。
パーパス経営が「何を目指すか」を示したとすれば、プレイフル・シリアスネスは「その壮大な理想にどうやって一歩ずつ近づくか」の現実的なアプローチです。
最も高い理想を追求する時こそ、足元を軽やかに、心に笑いを宿すことが大切です。真剣さと遊び心を両立させ、小さく始めて大きく育て、仲間を増やしながら理想に向かう——それこそが持続可能なアプローチではないでしょうか。

高いパーパスを実現するためには、プレイフル・シリアスなマインドセットで創造性を発揮することが重要になります。残念ながら、多くの企業が自社の創造性を高めることに苦労しています。次回は、組織の中で創造性が身につかない本当の理由について考えてみたいと思います。

どうぞお楽しみに。

 

Written by Hideaki Shirane