2023.05.25
日本の医療ICTは周回遅れ「ヘルスケアビジネスをリフレームする」vol.3
昨年の暮れに塩崎厚生労働大臣の記者会見で、大臣がICTという言葉を使われた時に、非常に違和感を感じました。これは、第2回未来投資会議で「医療・介護分野に置けるICT活用」の発表を受けてのことだと思うのですが、それ以上にこの資料の中を見ると、「ICT・AI等を活用した医療・介護のパラダイムシフト」という項目があり、さらに目眩がしそうになったことは言うまでもありません。その後、医療関連ではICTという言葉が頻繁に出てくることに気がつきました。先月ある大手電機メーカーの医療関連の催しに出向いた際も、ICTという言葉が頻繁に出てきましたし、講演でもICTという言葉が出てきました。
この違和感は、ICTという言葉、概念が1990年代に使われてきたものであり、それはまさに第3次産業革命の後半に出てきたものです。今更説明する必要もありませんが、定義としておさらいしてみるとITは情報技術そのものを指すものであるのに対して、ICTはその利活用を指していると言われています。日本では「e-Japan戦略」が策定されたのが2001年です。その後、2005年には総務省の「IT政策大綱」が「ICT政策大綱」に改称されて一般的ICTが広まった経緯があります。その本質はITを利活用することによる、人と人、人とモノを結ぶコミュニケーションです。では、第4次産業革命はいつから始まったか?というとドイツが2011年に「Industry 4.0」を産業改革プロジェクトとしてスタートしたことによると一般的に認識されています。この第4次産業革命の本質はAIやIoTを活用した産業構造の変革です。特に製造現場におけるAIを使っての製造工程の管理などがその典型例でしょう。
話を戻して、私が抱く違和感というのは、医療産業を含めた医療業界では、第3次産業革命から第4次産業革命までの長い期間を跨いで変革が起こっているということです。実際のところ、未だ、電子カルテも導入していない医療機関は非常に多く、紙のカルテを使っている現場と、次回詳しくご紹介しますが、英国のNHS(National Health Service)がテスト導入しているAIを使った看護サービスとその差は歴然としています。一般の業種であれば、同じタイミングで技術革新が進んでいき、技術革新に乗り遅れた企業は市場から消えていくしかありません。ところが、医療業界では、どれほど技術革新に乗り遅れても困ることがありません。
よく医療業界はIT化が遅れていると言われますが、乗り遅れても問題はなかったということに起因するものと思われます。具体的な例をご紹介しましょう。皆さんも気づいておられることと思いますが、大抵の医療機関、特に診療所では、未だ現金のみの支払いです。しかも支払いの段階になるまで幾らかかるか分からないので、患者の立場に立てば、クレジットカードが利用できたらいいのにと思っている人は多いと思います。また、私の知っている医師は、過去に遡ってカルテを見ても手書きなら、その時の状況が思い出される、だから電子カルテは不要であると仰っておられます。さらに、職員の給与が現金払いという所も未だあります。
ただし、この傾向が続くことはないでしょう。その一つに、医療機関間のネットワーク化が進むことがあります。2014年から日本医師会が電子認証局をスタートさせており、また、先日(4月17日)に政府の未来投資会議にて安倍首相自ら来年4月の診療報酬改定において遠隔医療に対して評価をする(診療点数をつける)と明言しました。ネットワークに入れない場合、患者数が減ることになります。例えば、がん拠点病院で乳がんの手術をした後、自宅近くの乳がん専門クリニックで経過を診てもらう場合、拠点病院は患者データをやりとりできるクリニックを推薦することは想像に難くないでしょう。二つ目は前回お話ししたように、健康、医療、介護に垣根がなくなってきてシームレスなサービスが提供できなければ患者が来なくなる可能性があります。例えば、スポーツクラブでの運動量をクリニックでの参考資料にしたりすることも今後起こってきます。三つ目は、おっとこれはここに書くには微妙な問題があるので機会があればお話しすることにしましょう。
では、現在の医療業界でのテクノロジーのトレンドキーワードは何か?この2月にフロリダ州オーランドで行われたHIMSS2017(Healthcare Information and Management Systems Society)で話題になったキーワードを最後にあげておきましょう。それは、IoT , telemedicine , AI , interoperability , value-based care , population health , Machine learning , blockchain , patient experience , cybersecurity , AR , VR などなどです。次回は実際の事例をご紹介しながらこれらのテクノロジーを見てみましょう。
政策の影響を大きく受ける医療業界では、経営判断をする上で政治動向を捉えることが重要でした。しかし、山崎さんが語っておられるように、政治動向さえ押さえておけば適切な経営判断ができる時代ではありません。これからは、政治、技術、経済、社会が複雑に絡み合って市場が大きく変わっていくことが想定されます。不確実性の高い状況での経営判断を助けてくれるツールがシナリオプランニングです。この手法では、市場にインパクトを与えるトレンドを、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Tecnology)の4つの側面から洗い出し、それぞれが持つインパクトの大きさと不確実性をベースに起こり得る複数の未来を描き出していきます。いま医療業界では、深い外部環境分析を踏まえて機会や脅威を適切に捉えることが不可欠になっているように思います。(mct/白根)
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Hiroshi Yamazaki
山崎 博史 株式会社ゲネサレト(gennesaret)代表 国内製薬メーカーでMR、営業企画部、情報システム統括部、マーケテイング部を経験し、アベンチャー企業に転職。企業のインターネットマーケティングのコンサルティング、セミナーや、大学病院、クリニック、医師会などへのコンサルティング、海外の投資企業への国内の医療産業に関するコンサルティングを行っている。 twitter @gennesaretcare
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