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10 14, 2015 09:30 ヘルスケアとクリエイティブを考える「ケアクリ会議」開催レポート

ヘルスケアとクリエイティブを考える「ケアクリ会議」開催レポート

9月26日土曜日、一般社団法人グッドネイバーズカンパニーと弊社が共催したイベント「ケアクリ会議」が日本橋にて開催されました。ヘルスケアデザイン領域において、現場で活躍されている実践者が全国から集い、語り合い、大成功を収めた本イベントの熱い一日をご紹介します。

※今後、mctがお届けするヘルスケアデザイン関連イベントとして、米国で開催された「ヘルスケアデザイン国際カンファレンス」のご報告イベントを10月30日(金)に予定しております。この記事の最後で、詳細をご紹介しています。

ケアクリ会議とは?
医療・介護・福祉などケアの現場で活躍する人材と、デザイナーやクリエイター、企業内イノベーター、社会起業家などのクリエイティブ人材が「ケアとクリエイティブ」について共に学び、語り、考える、参加型のトークイベント。10年後の医療・介護・福祉の現場が、創造的な健康課題の解決、価値創造の場に変化することを目指し、スタートしました。

今年のテーマは「ケアの課題をクリエイティブにプロデュースする方法!?」。
当日は、「じゃあ、どうやって?」の部分を、3人のゲストスピーカーから話題提供していただき、参加者同士の経験や問題意識を共有。対話を通じてヘルスケアの現場課題を創造的に解決する方法を探索します。

《ゲストスピーカー》
1.障害者 X バラエティ
NHK障害者情報バラエティ「バリバラ」プロデューサー  日比野 和雅 さん
2.認知症介護 X 演劇
「老いと演劇」OiBokkeShi主催 俳優/介護福祉士   菅原 直樹さん
3.子どもの格差 X インクルーシブデザイン 
一般社団法人ピーシーズ代表 児童精神科医  小澤 いぶきさん

Story 1.
つっこむ、笑う、考える。
障害者のリアルを描くのに、バラエティの手法は相性がいい。

NHK障害者情報バラエティ「バリバラ」プロデューサー  日比野 和雅 さん

「バリバラ」は障害者の恋愛、仕事から、スポーツ、お笑いまで、日常生活のあらゆるジャンルに果敢に切り込む「バリアフリーバラエティ番組」。

◯街中のなんちゃってバリアフリーを検証する「バリバラ珍百景」
◯寝たきりコント職人が障害者あるあるネタで競う「SHOW-1グランプリ」
◯障害者モデルがランウェイを歩くファッションショー「バリコレ」

など、ユニークな企画を通じて、障害者のリアルな姿を発信しています。

かつて「きらっといきる」という障害者のドキュメンタリー番組を手がけていた日比野さん。
出てくるのは一部の頑張っているエリート障害者ばかり、という視聴者の指摘をうけ、番組改革に向けて新たな表現を模索します。ドキュメンタリーでは、どうしても課題と向き合い奮闘する主人公を追いかける感動モノになってしまう。一方で、制作スタッフの間では「障害者施設の運動会が面白いんですよ」「ヒッチハイクを始めた面白いヤツがいて」「番組では放送されない取材現場では、もっと面白いコトが起こっている」との声多数。この面白さを伝えるにはドキュメンタリーよりも、むしろそのままバラエティのほうがいいのでは?
"障害者を笑ってはいけない"というタブーを超え、"障害者と笑おう!"
こうした発想から「バリバラ」の挑戦がスタートしました。

やってみてわかったのは、障害者とバラエティ手法は相性がいい、ということ。面白く描くのではなく、単純に課題があったら、そこにつっこむ。そして笑う。笑った後で一緒に考える。この流れを作ってしまえば、誰もが巻き込まれ、障害者との距離感も縮まる。
境界のあちら・こちらを超える力は『笑い』にあり!
日比野さんの軽快なトークに、会場も終始笑いに包まれていました。

Story 2.
老い×ボケ×死を受け入れる。
認知症の方と、今この瞬間を楽しむために「役」を演じる。

「老いと演劇」OiBokkeShi主催  俳優/介護福祉士 菅原 直樹さん

OibokkeShi(オイボッケシ)は岡山県和気町で、菅原さんと地元住民たちが作った劇団。
演者は認知症の妻を介護するお年寄り、商店街の店主など街に暮らす人たちです。

認知症徘徊演劇「よみちにひはくれない」の舞台は和気町の街。お客さんは劇場に座って舞台を見るのではなく、まちを徘徊する認知症役の人の後をついてまわる。そうすることで、認知症の方の気持ちを追体験することができる。また、「老いと演劇」ワークショップでは、介護職員にむけて、認知症の方の世界観を読み解き、その中で役割を見つけて演じる、という手法を伝えています。

元々特別養護老人ホームで職員をしていた菅原さん。認知症の方が困っていることは「忘れる」ことではなく「ひととの関係性が壊れてしまう」ことなのだそうです。食事・入浴・排泄の介助は大切だけれど、やはり人間というのは役割がほしいのではないか。そこで、認知症の人や周囲の介護者の方が"今、この瞬間を楽しむ"ために、和気町という舞台の上でそれぞれの役割を見つけてあげる。菅原さんがやっていることは、どこか演出家の仕事と似ているそうです。

ケアクリ会議当日は、菅原さんによるミニ演劇ワークショップを開催。参加者に台本や役割が与えられ、演劇を通じた認知症の方との関わり方を体感しました。ボケを正すのではなく、その方のもつ可能性に寄り添う。"遊びリテーション"の極意に触れ、会場は大盛況でした。

 

Story 3.
貧困、虐待、育児放棄。
逃げ場のない子供たちに「ただいま」といえる安心基地を。

一般社団法人 PIECES(ピーシーズ)代表 児童精神科医  小澤 いぶきさん

病院で待っていても何も変わらない。児童精神科医の小澤さんは、医療現場を飛び出し、地域住民の方を巻き込みながら、貧困や虐待に苦しむ子供たちに「家庭以外で安心して過ごせる居場所」を創る活動をしています。

◯一般家庭の食卓を地域に開き、子供たちみんなで安心してごはんを食べられる家(足立区)
◯不登校の子供が集まるプログラミング教室(足立区)
◯地域の先輩ママが助けてくれる10代ママの子育て支援コミュニティ(豊島区)
◯多世代型本気のドッジビースポーツ大会+運動後のピアカウンセリング(豊島区)
◯高校生ユースワーカー育成事業:地元のお兄さんお姉さんによる子供向け企画づくり(都内高校と提携)

家庭環境に恵まれなかった子供たちが、"家族以外の地域の大人と関わりながら安心して育つことができる関係性"を一つの単位とし、PIECESの活動はアメーバ式に発展しています。

生まれる環境は選べない。過酷な状況でその日暮らしの生活を強いられ、生きる意味、働く意味を見出せなかった子供たち。「安心基地」で仲間と過ごし、その中で役割を与えられ、徐々に心を開いていく。地域の大人に見守られながら、プログラミング、アート、スポーツ、ファッションなど熱中できるものに出会い、自分で自分のことを決められるようになっていくそうです。

ケアクリ参加者の疑問は「いったいどうやって地域の一般家庭や大人を巻き込んでいるのか?」
小澤さんによると、"おせっかいおばちゃん"のような社会的資源が各地域に必ずいるそうです。
また、PIECESがコーディネーターとして、企画の作り方、子供たちとの関わり合い方を一般の方にアドバイスしていく。その中で、大人たちも自分に求められている役割を学び、自身の居場所を見出していきます。

「助けてあげたいけれど、どうしたらいいのかわからない」大人たちが、ケアの現場に参加できる仕組みを創る。診断、治療、カウンセリングといった医療の枠を飛び越えた小澤さんの本質的アプローチに学ぼうと、参加者から絶え間なく質問が投げかけられていました。

原石を見つけ、舞台に上げ、演出する
障害、老い、貧困・・・一見取り扱いにくい問題を抱える人々の中に原石を見つけ、ひとりひとりの物語を紐とき、舞台と役割を与える。「番組企画」、「演劇公演」、「教育プログラム」と単位も対象も異なりますが、3人のゲストスピーカーに共通していたのは『一つの舞台を演出する敏腕プロデューサー』であることでした。

医療現場における診断・治療という文脈を越え、生活環境の中で利用できる資源を有機的に結びつける。支援する側・される側の境界を越え、舞台の中でそれぞれが役割を担う。

当日の参加者は、看護師、理学療法士、栄養士、保健師、患者当事者の方から医療コンサルタント、医療機器・製薬メーカーの方、デザイナー、WEBクリエイターまで様々なバックグラウンドの方がいらっしゃいました。「自分になにができるか?」「どうしたら一歩を踏み出せるのか?」「誰にどうやって協力してもらえばよいか?」など、参加者もそれぞれの体験を共有しながら、熱い議論が交わされました。参加者のひとりである医師の方が、「今日はお話したひと全員から学びがあり、感動して涙が出そうです」とおっしゃっていたのが印象的でした。

本イベントの発案者であるグッドネイバーズカンパニー代表・清水愛子さんは、元々エスノグラフィやデザインリサーチのエキスパートとして企業で活躍されていました。現在は、ヘルスケア領域における専門性を高めるべく医学部に在籍中という異色の経歴の持ち主。弊社のヘルスケアデザイン事業における提携パートナーとして、昨年は「ヘルスケアデザインセミナー/北米健康・医療系イノベーション組織の視察報告」「ヘルスケアデザインワークショップ/高齢者の見守りとオープンサービスイノベーション」などでご協力いただいています。

弊社では引き続きヘルスケアデザイン関連イベントを企画しています。
直近では、米国で開催された「ヘルスケアデザイン国際カンファレンス」のご報告イベントを予定しており、グローバルトレンドと先進事例を日本のみなさまにお届けします。
「ヘルスケア課題の創造的解決」に関心があり、参加を希望される方は、弊社担当者までご連絡ください。

患者中心で考える「ヘルスケア・イノベーションセミナー」
§1.「HXR:HEALTH EXPERIENCE REFACTORED 2015」のご報告
§2. 患者ジャーニーマップ 実践ワークショプ

日時:2015年10 月 30 日(金)15:00 ~ 18:00
会場:株式会社大伸社 本社ビル B1 スタジオ (渋谷区千駄ケ谷 2-9-9)
定員: 20 名
参加費:5,000 円(税抜)

お申し込み:下記コンタクトフォームからご連絡をお願いいたします。
https://www.daishinsha.co.jp/mctinc/contact/index.html


関連リンク:
清水さんのグッドネイバーズカンパニー
http://gnc.or.jp/

日比野さんの公演
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ss/kouza/3_h24/3.html

バリバラHP
http://www.nhk.or.jp/baribara/

菅原さんの記事
http://www.theaterguide.co.jp/feature/artist/vol_11/

小澤さんのインタビュー記事
http://greenz.jp/2015/04/08/diversity_inclusion_children/

Wakako Kitamura株式会社mct サービスデザイナー

【タグ】 ヘルスケア,

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