2023.01.20
Blog|イーロン・マスクの行動をエフェクチュエーションから考える
こんにちは。mctの荒井です。
今回のブログでは、イーロン・マスクに関する最近のインタビュー動画とともに、エフェクチュエーションの考え方のポイントとなる「予測」と「制御」の概念についてご紹介させていただきます。
※エフェクチュエーションとは、バージニア大学ダーデン経営大学院のSaras Sarasvathy教授が提唱している理論で、成功した企業の創業者を研究して導き出した、優れた起業家の意思決定の理論です。5つの原則などの概要はこちらをご覧ください。
イーロン・マスクはTwitter社でエフェクチュエーションを行なっているのか?
Sarasvathy教授は、最近のインタビューの中で、Twitter社のCEOに就任したイーロン・マスクの一連の「振る舞い」と、エフェクチュエーションについてこのように述べています。
(以下、動画より抜粋)
インタビュアー:『あなたは以前に、Elon Musk はエフェクチュエーションを行なっている人物である可能性があると述べましたが、最近の彼は (従業員に対して)人間の尊厳をほとんど気にせずに振る舞っているようです。「エフェクチュエーション」と、したいことを好き放題することの線引きは何ですか?』
Sarasvathy教授:『質問に対する単純で少しアカデミックな答えは、人は一度エフェクチュエーションを行なったからといって、その後行なうこと全てにおいてエフェクチュエーションを行なうわけではないということです。』(中略)『イーロン・マスクの歴史と彼が参加したベンチャーの歴史の中から、彼がエフェクチュエーションをしていると挙げることができる例はたくさんあります。 彼は(初めは)「予測」が低く、「制御」が高い象限にいました。彼は自分で選択したステークホルダーと仕事をしており、彼の最初の会社も兄と一緒立ち上げ、一人でやっていたことはありません。しかし、違う場所へ移れば、彼が今やっているように見える、「先見の明のある独裁者」のようになる可能性もあります。彼は今、高い「予測」と高い「制御」の象限に移行しました。Twitter社は(マスク氏が自分で選んだ)ステークホルダーがいるような、業績の良い会社ではありません。Twitter社は、この「マーベリック(=型破りな一匹狼)」がやってきて、何とか魔法を使って収益を上げてくれることを期待しているだけなので、マスク氏にとって今の状況は以前とは非常に異なる状況であり、この時点では過去とは違う象限で活動してるだけなのです。』
ここで、インタビュー動画の中に出てきた「予測」と「制御」についてもう少し詳しく取り上げていきます。
企業の戦略アプローチを特徴づける「予測」と「制御」
Sarasvathy教授によれば、企業の戦略的意思決定は「予測 Prediction」と「制御 Control」 の2つによって特徴づけられます。これらは一般的に、将来を「予測」することで自社を「制御」できるという一次元的な関係にあると考えられがちですが、エフェクチュエーションの基本的な考え方では、優れた起業家たちがこの2つを分離し、それぞれ独立した次元と見なすことで、実際には異なる程度の「予測」と「制御」の組み合わせによる領域(象限)が存在していると説明されています。
<https://effectuation.org/storiesより図を抜粋>
「予測」は、自社のアプローチが将来の環境の予測にどの程度依存しているかを問います。強力な予測は、計画型アプローチ (行動を開始する前に将来の詳細な予測を作成する)またはビジョン型 (未来を想像し、このビジョンを実現するために努力する) のいずれかに対応します。低い予測は、より適応的なアプローチに対応します。将来の環境を予測しようとはしませんが、代わりに先に進み、途中の変化に適応します。
「制御」は、環境の進化を自社がどの程度制御できるかを問います。古典的な経営戦略アプローチでは、企業はそれ自身が置かれる環境に対してはほとんど影響を与えず、企業ができることは、その環境で最適な場所を見つけること (計画/ポジショニング)か、変化したときに適応することだけと仮定されてきました。
多くの企業は戦略を策定する際、将来の環境を予測し、その中で自社をどのようにフィットさせるかを考えます。しかし、将来予測に強く依存するアプローチは、それが外れた場合に対応できなくなってしまうという脆弱さを抱えています。また、予測をせずに変化に適応することのみ注力した受動的なアプローチも、常に世の中への適応に遅れるリスクを孕んでいます。
「エフェクチュエーション」のアプローチは、図の右下の象限(低い「予測」、高い「制御」)に位置すると言われています。このアプローチでは、将来の環境についての予測に依存しないが、その進化を自ら強力にコントロールしようとします。具体的には、選ばれたステークホルダーとのパートナーシップ・連合を通して環境を共創することで、世の中のスタンダードへ影響を与え、限られた範囲ではあるが、自分の置かれた環境を(少なくとも部分的に)変革させようとします。実際に、起業家が明らかに不利な状況から出発したが、結果的に環境を完全に変えてしまった例は数多くあります。すなわちエフェクチュエーションとは、起業家が強い不確実性の状況に直面したときにどのように新しい市場を創造するかを説明するものであり、このような非予測的なアプローチは、今日のVUCAの中では大企業にとっても参考になると言われています。
エフェクチュエーションを行なってきたイーロンが今Twitter社でしていること
さて、Sarasvathy教授のイーロン・マスクに対する考察に立ち戻ります。イーロン・マスクは、ある意味、今まで自らが立ち上げたPaypalやテスラ、SpaceXなどで「エフェクチュエーション」を行なってきたと言えるでしょう。彼は将来についての予測に依存することなく、彼に共感する選ばれたステークホルダーとともに、世の中に革新的な製品・サービスを送り出し、新しい市場を切り開いてきました。
しかし、彼が現在率いるTwitter社が置かれた市場には既に多くの競合が存在し、ステークホルダーからは強い「予測」に基づいて活動をすることが求められています。その中で、彼は強力な「制御」をもって、彼自身の周りの環境を一人で進化させようとしているため、外部からは「独裁者」のように見えてしまっている可能性があります。このように、エフェクチュエーションの枠組みを通して考えることで、世の中の企業や経営者の動きを、これまでに新たな視点から捉えることができます。
まとめ
今回はTwitter社でのイーロン・マスクを例に、エフェクチュエーションの考え方のポイントとなる「予測」と「制御」の概念を中心にご紹介させていただきました。「エフェクチュエーション」についてさらに学びたい方は、是非、下記のプログラムへの参加をご検討くださいませ。
DMNプログラム/Effectual Co-creationのご案内
mctが主催するデザインマネジメント・ネットワークでは、エフェクチュエーションを学び体験する3日間(2/10,13,24)のプログラムを予定しています。
詳しい内容は参加方法や費用などはこちらのリンクをご覧ください。
https://mctinc.hs-sites.com/dmn-effectual-cocreation2023-invitation
- 3日間のアジェンダ
Day 01(2/10 16:00-19:00):アイデアの発散 - ・エフェクチュエーション概論レクチャー
- ・Work1-1: Means & Aspirations (両者がスパイラルに上昇気流を生み出す)
- ・Work1-2: クレージーキルト
- Day 02(2/17 16:00-19:00):アイデアの収束とリフレーム
- ・Work2-1: 出来る及びコントロールできることの絞り込み
- ・Work2-2: レモネード(不測の事態に乗っかる、reframing)
- Day 03(2/24 16:00-19:00):不確実性を乗り越えるための組織変容
- ・Work3-1: Upsideを生み出す行動様式-Small winsの蓄積(Experiments)、
リアルオプションの応用 - ・Work3-2: Downsideに対処する意思決定-Burn rate 及びAffordable Lossレベルの設定
- ・総括講義及び質疑応答
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参考文献
Is Elon Musk acting Effectually at Twitter?
Society for Effectual Action, Dec 6th 2022
https://effectuation.org/stories/is-elon-musk-acting-effectually-at-twitter
Making strategic decisions under uncertainty: The case for non-predictive strategy
Philippe Silberzahn, January 4th 2012
https://silberzahnjones.com/2012/01/04/making-strategic-decisions-under-uncertainty-case-for-non-predictive-strategy/
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Kengo Arai
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