
デザイン思考は新規事業創出に役立つのでしょうか?
41名の「デザイナーとして実務経験のある起業家」を対象に、彼らの「起業家的デザイン方法」や「デザイナー的起業方法」を調べ、デザイン思考とエフェクチュエーションの関係性、相違点、相乗効果を明らかにすることを目的に実施された研究をご紹介します。
※エフェクチュエーションとは、優れた企業家の思考/行動パターンを体系化した意思決定理論です。5つの原則などの概要はこちらをご覧ください。
デザイナー起業家は新規事業創出にデザイン思考を有効活用している
研究結果は「デザイナー起業家」は新規事業創出のための実践的なアプローチとしてデザイン思考を活用しており、デザイン思考が不確実性の高い文脈におけるイノベーションに有効であることや、新規事業創出に取り組む場合に特に有効である可能性を示唆しているというものでした。
では「デザイナー起業家」は新規事業にデザイン思考をどのように活用しているのでしょうか。エフェクチュエーションの原則とデザイン思考の実践の側面との関連が次のように示されています。
エフェクチュエーションの原則
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デザイン思考実践の側面
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活用のガイドライン |
手中の鳥
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人間中心デザイン
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人間中心デザインの考え方によって、起業家が持つ共感的な知識や社会的アイデンティティなどの暗黙のリソースを掘り起こして利用可能な手段の幅を広げる
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クレイジーキルト
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多様性の受容
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多様性を受け入れ、ユーザーや投資家など重要なステークホルダーを含む戦略的パートナーの相反する意見を統合してバランスをとる
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飛行中のパイロット |
ビジュアライゼーション
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ビジュアライゼーションの力を活用し、他者に望ましい未来を示すための成果物(地図、図面、モデルなど)を作成し、それによってイノベーションの軌道をコントロールする
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許容可能な損失
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実験
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素早く頻繁に実験を行い中間的な成果を得ることで、目標の継続的な修正を可能にし、イノベーションの軌道上にある潜在的な損失を抑制する
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レモネード |
リフレーミング
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リフレーミングを行い、困難な状況に新しい視点を取り入れ、重要な問題に対する新しい解決策を提示し、それによって効果的に不測の事態をチャンスに変える
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デザイン思考実践のマインドセットとしてエフェクチュエーションを取り入れる
ここまで「エフェクチュエーションの原則」に対して「デザイン思考」が有効活用できるという研究をご紹介してきましたが、逆に「デザイン思考をより上手に活用するには?」という観点からも「エフェクチュエーション」をマインドセットとして取り入れることが有効だと考えています。
例えば、慣れない人がデザイン思考を実践する際に起こりがちが問題として次のようなことが挙げられます。
デザイン思考実践の際の問題例 |
デザイン思考のプロセス「Empathize・Define・Ideate・Prototype・Test」をプロセス通り実践することが目的化してしまい成果につながらない |
プロトタイピングやテストに完璧を求めてコストをかけすぎてしまい成果に辿り着かない |
それに対して、エフェクチュエーションの原則をマインドセットとして以下のように活用できます。
デザイン思考実践の際の問題例 |
マインドセットとしてのエフェクチュエーション |
デザイン思考のプロセス「Empathize・Define・Ideate・Prototype・Test」をプロセス通り実践することが目的化してしまい成果につながらない |
「飛行中のパイロット」や「レモネード」の原則を取り入れ、状況に応じて柔軟に目標をリフレーミングしたりプロセスを修正するというマインドセットを養う |
プロトタイピングやテストに完璧を求めてコストをかけすぎてしまい成果に辿り着かない |
「手中の鳥」や「許容可能な損失」の原則を取り入れ、必要最低限を意識し手持ちのリソースの活用やいくらまで損をしてよいかというマインドセットを養う |
まとめ
エフェクチュエーションの原則に対するデザイン思考の有効活用、デザイン思考に対するマインドセットとしてのエフェクチュエーションの活用というそれぞれの側面についてみてきました。デザイン思考とエフェクチュエーション理論は互いを豊かにするものであり、デザイン思考とエフェクチュエーションの両方を学び活用することで相乗効果が期待できるとのではないでしょうか。
DMNプログラム/Effectual Co-creationのご案内
mctが主催するデザインマネジメント・ネットワークでは、エフェクチュエーションを学び体験する3日間(2/10,13,24)のプログラムを予定しています。
詳しい内容は参加方法や費用などはこちらのリンクをご覧ください。
https://mctinc.hs-sites.com/dmn-effectual-cocreation2023-invitation
- 3日間のアジェンダ
Day 01(2/10 16:00-19:00):アイデアの発散
- ・エフェクチュエーション概論レクチャー
- ・Work1-1: Means & Aspirations (両者がスパイラルに上昇気流を生み出す)
- ・Work1-2: クレージーキルト
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- Day 02(2/17 16:00-19:00):アイデアの収束とリフレーム
- ・Work2-1: 出来る及びコントロールできることの絞り込み
- ・Work2-2: レモネード(不測の事態に乗っかる、reframing)
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- Day 03(2/24 16:00-19:00):不確実性を乗り越えるための組織変容
- ・Work3-1: Upsaideを生み出す行動様式-Small winsの蓄積(Experiments)、リアルオプションの応用
- ・Work3-2: Downsideに対処する意思決定-Burn rate 及びAffordable Lossレベルの設定
- ・総括講義及び質疑応答
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参考文献
『Entrepreneurial ways of designing and designerly ways of entrepreneuring: Exploring the relationship between design thinking and effectuation theory』Nico Florian Klenner, Gerda Gemser, Ingo Oswald Karpen
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jpim.12587