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2023.08.24

Blog|mctのグローバルデザイン×フューチャーデザイン:Clue Scan の実践

グローバルとフューチャデザインClueScan の実践

前回のブログでは、人々がサービスを利用する中で五感を介して様々なことを無意識に感じ取っていることに着目した、Clue Scanというメソッドを紹介いたしました。
今回は、Clue Scanのフィールドワークを実施するときに使用する具体的なフレームワークやツールの話、また、実際に実施してみてメンバーが感じたことについて紹介させていただきます。

Clue を体系立てて集めるための枠組み
Clue Scanの本質は、(店舗)体験において「なんとなく」良いと感じた点や悪いと感じた点を可視化できる点にあります。なぜその店舗にリピートしたいと感じるのか/どちらでもいいと感じるのか/二度と行きたくないと感じるのか、といった重要な分岐につながる手がかりを意識レベル無意識レベルで特定できれば、「行き当たりばったりの顧客体験」を、「意図的にマネジメントされた顧客体験」へと変換するための大きなヒントとなります。
このような手がかりをやみくもではなく、体系立てて集めるには、適切な枠組みを設定することが重要です。
具体的には、各手がかりについて

①エクスペリエンス・プリファレンス(ネガティブ・ポジティブの度合い)
②手がかりのタイプ
③手がかりを捉えた感覚(五感)
④手がかりより引き起こされる感情

と紐づけて評価することで、店舗での経験をより深く理解することが可能となります。エクスペリエンス・プリファレンスモデル(下図)は、顧客が特定の経験(または経験の手がかり)に対して、それをどの程度好んでいたかを評価するための指標です。これによって、その手がかりが、「予想以上」のポジティブな経験を生んでいたのか、「予想通り」だったのか、「予想以下」のネガティブな経験をもたらしていたかを理解するのに役立ちます。特に、「予想以上」のポジティブな経験は、他社との差別化につながり、顧客のロイヤリティを高めます。

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エクスペリエンス・プリファレンスモデル

また「手がかりのタイプは、以下の3つに分類されます。

物理的手がかり:見えるもの、匂い、音、素材感といった、ものに関係のある刺激(例:軽くてカラフルな買い物かごがある)
人間的手がかり:言葉遣い、声のトーン、熱の入れ方、表情、ボディランゲージといった、人に関係のある刺激(例:店員が歓迎してくれる、笑顔で対応してくれる)
機能的手がかり:製品やサービスの機能性(例:無料宅配サービスがある)

現場で効率良くClue を集めるためのツール
現場でClue Scanを実施する際は、たくさんの手がかりを効率良く記録できることも重要です。Clue Scanの典型的な実施方法では、紙に印刷した専用のフォーマットへ記入しながらフィールドワークを実施しますが、例えばスマートフォンを使用しながら、デジタルデータとして記録をすることも可能です。デジタル媒体を使用することのメリットとしては、

・紙やペン等の道具が減るため、現場での入力がスムーズになる
・テキストとともに、画像や映像データも保存できる
・データがすぐにクラウドへ自動保存されるので、分析・振り返りの効率性が高い。リモートでの情報共有も簡単にできる。

などが挙げられます。Clue Scanでは現場で観察・記録を行なうだけでなく、その後の振り返りの中でメンバー間で意見交換をすることで、新しい気づきを得ることがあります。そのような観点も考慮しつつ、リサーチをより円滑に実施するために最適なツールを選択し、活用することが重要となります。

Google Formを使用したフィールドワーク用のツール

フィールドワークの場所と流れ

Clue Scanを実施する店舗の選択は重要なステップであり、実プロジェクトではスコープや目的に応じて、自社の店舗だけでなく競合ベンチマーク先や他業界の店舗なども対象に実施します。
今回のフィールドワークでは、実施場所として東京と京都にある2つの商業施設を選びました。
この2つの施設は、
・共に日本文化の発信をコンセプトとし、外国人観光客を意識している

・複数の店舗が集約した商業施設で、比較的短時間でたくさんの店が回れる
・経験を比較できる同じジャンルの店が同施設内に2つ以上ある(例:個性的な雑貨屋など)

といった共通点があることを理由に選択しました。

訪問する施設を決定した後、比較対象となる店舗を選び、フィールドワークのフローを設計します。フィールドワークを実施する際は、実際に店舗を訪問する前に、その店舗でできそうな経験・なれそうな感情についてあらかじめ各自で期待を設定しておくことも重要です。これにより、事前に期待していた経験と実際の経験との間にギャップがないかを探ることが可能になります。また、フィールドワークの最後にはデブリーフィングの時間を設け、メンバー同士で、訪問した店舗での経験について意見交換を行ないます。

 フィールドワークの流れの例

 

実際に実施してみて感じたこと

複数人で実施することで、異なる視点からのクルーを得られる
私たちがフィールドワークを終えて得た大きな気づきの一つは、同じ店舗を訪問していても、人によって経験の感じ方が違うので、集める手がかりも異なるということでした。具体的には、人によって見ている場所や手がかりを捉える感度、ポジティブ・ネガティブの判断基準が異なっていました。例えば、私たちは木をモチーフにしたある雑貨屋を訪問しましたが、店舗へ足を踏み入れた瞬間に木の香りに気づいたメンバーと、気付かなかったメンバーがいました。また、店員から同じ接客を受けたとしても、人によって、それを快く感じるかどうかが異なる場合があります。このように、観測者によってクルーの感じ方が違う場合があるので、特定のペルソナ視点でClue Scanを実施する際には、前もってメンバー内で意識合わせしておくことが重要になります。また、プロジェクトの中で実施する際は、経験の捉えられ方に差がないかを調べる目的で、クライアント企業様のメンバーや弊社メンバーによる実施だけでなく、実際の顧客にClue Scanを実施してもらうこともあります。

同じ店舗にいても、見ている場所や手がかりを集める視点は人によって異なる

人は、多くの経験の手がかりを「視覚」を通して捉えている
私たちがフィールドワークにおいて収集した約70個の手がかりについて、それらを捉えるのに使われた感覚の内訳を調べたところ、興味深い結果を得ることができました。

店舗は、利用者が商品や展示を実際に見ながら比較検討・購入をする場所であるという前提から、これはある意味当然の結果とも言えますが、私たちは、ほとんどの経験の手がかりを「視覚」を通じて捉えていたのです。これが意味することは、視覚」に関する手がかりは、目に見える改善点としてサービス提供者視点からも気づきやすいものが多いので、店舗での顧客経験を改善したい場合、まず優先的に意識して取り組むべき部分だと言えます。一方で、多くの人にとってまだあまり意識的に使われていない感覚(嗅覚、触覚、味覚など)にも積極的に訴えかけるような経験を仕掛けることで、他社にはない差別化されたサービスを生み出せる可能性があるとも考えられます。

同じ店舗での経験であっても、店に入るタイミングによって感じ方が異なる
顧客が店舗を訪れる際、ある瞬間における経験や感じることは時間の流れとともに変わることがあります。例えば、ある日の午前中に訪れた店舗が、その日の夕方や別の日には違う印象を持つことも考えられます。これは店舗を訪問する顧客の経験は、店内の混雑具合や顧客のその日の気分や状況など、さまざまな要因によって左右されるからです。  このように時間の経過による変化を考慮せず、瞬間的な経験のみからその店舗での経験を評価してしまうことは、不十分な評価結果を生み出してしまう可能性もあります。対応策として、店舗においてある程度時間をかけてClue Scan を行うことで、時間の経過とともに変わる店舗の雰囲気や状況を考慮した上で経験の評価をすることができます。また、可能であれば、時間を置いて再度店舗を訪れてみることで、その店舗における経験の一貫性や変動性を把握することができるのです。

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顧客の経験は、店内の状況と連動して刻一刻と変化する

ある顧客にとっての良い経験が他の顧客へ連鎖して、店舗全体の印象へ影響することがある
私たちが訪れたある店舗では、日本人の店員さんが、韓国人の観光客へ英語で丁寧に対応している様子を目の当たりにしました。その店員さんが自分の店舗やサービスのことをきちんと理解した上で活き活きと説明している様子をみて、周りにいた他のお客さんも楽しそうな気分になり、店全体の雰囲気が良くなっていくのを感じました。その結果、直接接客を受けていない私たちにとってもお店に対する好感度が上がり、今度来たときに、その店員さんから接客を受けてみたいという気持ちになりました。このように、ある顧客にとっての良い経験が他の顧客、そして店舗全体へと波及することもあるため、サービス提供者は、一部の顧客の経験だけでなく、店舗全体の包括的なマネジメントを意識する必要があります
。また、顧客へ良い経験を提供する上で、従業員も良い経験をしながら業務を遂行できるようにすることも同等に重要であることを示唆しています。

「あるべき姿」の定義とセットで実施することが重要
Clue Scanを実施することでサービスの現状を把握することができますが、改善のための良いアイデアを得るには、それだけでは不十分な場合があります。サービス利用者になってもらいたい感情(エモーショナルモチーフ)を定義することや、サービス利用者のゴールを特定することで「あるべき姿」を描き、より意図を持った顧客経験マネジメントができるようになります。この「あるべき姿」を描くためには、Clue Scanの実施に加え、顧客経験マネジメントに関与するメンバーによるワークショップや顧客へのインタビューなどが有効です。

まとめ
Clue Scanを通じて、私たちはリサーチャーとして自分の感情のきっかけとなっている手がかりを特定し、店舗においてより良い顧客経験を生み出すためのヒントを得ることができました。これは、企業が顧客へより良いサービスを提供し、意図をもって顧客経験をマネージするための仕組みづくりをする上での重要なステップと言えます。

mctには日本はもちろん、アジア圏の中国、ベトナム、欧米圏のアメリカ、イギリス、スペインのメンバーがおり、文化的にも多様な視点でのClue Scanを実施可能です。
また、Clue Scanを既存のサービスの評価や改善のために使うだけでなく、企業全体として顧客により良い経験(CX)を提供するためのビジョンや仕組みづくりについても様々なご支援が可能です。ご興味がございましたら、ぜひお声がけください。

<執筆者>
メイン:荒井 健吾、サブ:セツ・コウ

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参考文献
Lewis P. Carbone (2004). Clued in: How to Keep Customers Coming Back Again and Again. Financial Times Prentice Hall.

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