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2024.10.01

観光における人間中心のデザインの重要性

こんにちは、CXデザインユニットの冨田です。
世の中には古くから「資本論」「形態論」「懐疑論」など、様々な分野において”論”というものが存在します。
最近私が興味を惹かれたのは、観光における”論”です。
そのきっかけとなったのは、『新・観光立国論』(東洋経済,2015)という本でした。

この本は、イギリス人アナリストのデービッド・アトキンソン氏によって書かれたもので、氏の前職であるアナリストとしての分析的な視点と、伝統文化を嗜みながら日本で暮らす、いち在住者としての視点が織り交ぜてあり、大変ユニークな切り口の本となっています。

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ではさっそくですが、タイトルにもなっている”観光立国”とは何でしょうか?
本書では、”その国が持つ特色ある自然環境、都市景観、美術/博物館などを整備することで、国内外の観光客を誘い込み、観光ビジネスやそこから波及する雇用など、人々が落とすお金を、国を支える基盤の1つとして確立すること。”(『新・観光立国論』p. 46より引用 )とされています。これ以上に明快な定義はないようですが、少なくとも”観光立国”と呼ぶにふさわしい最低限の基準は存在しており、それについては下記のように言及されていました。

最低限の基準、それは国連世界観光機関(UNWTO)による、世界の観光における指数です。
本書では、いくつかあげられている指数の中でも、観光が国の経済を支える基盤になっていることを示すものとして、”全世界のGDPに対して観光産業が占める数値=9%”を明快な指数としてあげています。これを世界平均と捉えるならば、少なくともこの指数を上回っていることが、その国が”観光立国”と言える最低条件です。さて、日本はどうかと言うと…”0.4%”と、残念ながら世界平均を大きく下回っているのです。漠然と、京都周辺が海外からの観光客で賑わっている光景をイメージしながら、国内には多くの観光収入がもたらされていると思っていた私には、これは意外な事実でした。

ではどうしたら、日本は”観光立国”になれるのでしょうか?
本書では、4つの要素、”気候”、”自然”、”文化”、”食事”をできるだけ多く揃え、複数の観光を提供するほど、様々なタイプの観光客を受け入れることができ、観光収入が上がって観光立国に近づくとしています。こちらは、日本は、過ごしやすい温帯の気候、地方に残る手付かずの雄大な自然、歌舞伎や能などの伝統文化とアニメなどの現代文化、古くからある和食や日本国内で進化を遂げた洋食など、4つの要素が兼ね備えられているのです。「なんだ、やっぱり日本は観光のポテンシャルはあるんじゃないか。」と一安心してしまいそうですが、これだけで終わりではないのです。ただ要素を揃えているだけでは”観光立国”とは言えず、観光はお客さんが来て初めて成り立つものである以上、これらの資源をお客さんに響く形でアピールしていかなければなりません。

本書ではそのために必要な3つの姿勢が書かれていますが、それらは私が普段取り組んでいる、人間中心デザインのプロセスと非常に親和性の高いものだと感じました。

1.観光客の多様性を知る
何を目的に日本へやってくるかは、観光客によって様々です。ひと口に日本にやってくる中国人観光客といっても、デパートで高級ブランドを爆買する層もいれば、ドラッグストアで化粧品を爆買する層や、100円ショップを楽しむ層もいます。ひと口に外国人観光客とくくるのではなく、その多様性を探り、それぞれがどのような立場で何を求めているのかを知ることが、よりターゲットに響く観光コンテンツを作ることにもつながります。

2.サービスを差別化する
花見のシーズンになると、有名なスポットでは、入場規制がかかることもあります。そのような状況の中で、1泊500万円のホテルに泊まる富裕層の観光客に「これがルールですから最後尾に並んでください」と説明して、どれだけの人が素直に従うでしょうか?サービスを選ぶ主導権は観光客にあります。そこで、観光客を一律に扱うのではなく、相手の求めるサービスに応じて価格設定を変えることで、あらゆるニーズに細かくターゲティングして応えることが可能になります。

3.お客さんに伝わる表現をする
文化財などの観光資源を綺麗に整えておくだけでなく、展示パネルの表記に英語を入れたり、音声ガイドをつけてより詳しい解説をするなど、まずは多くの人に見知ってもらうための工夫が必要です。そうすることで、さらに文化的な背景や歴史など、見る人の興味の幅を広げ、そこから別な観光への興味を持ってもらうきっかけにもなります。近年では、伊勢神宮の『せんぐう館』で、外国人観光客に無料でペン型の多言語端末を渡しており、これが好評を博しているようです。

顧客と同じ目線から相手が何を求めているか理解することで、より相手に響くサービスを提供し、さらにはその先にあるニーズを引き出す。観光という分野についてもこのことが当てはまると知り、改めて人間中心デザインのプロセスの重要性と可能性を感じた1冊となりました。

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