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2024.10.01

「類似点」にこそ鍵がある

こんにちは、mctの増田です。
ZMETを提唱するOZAのジェラルド・ザルトマン教授は、著書『心脳マーケティング』の中で次のように述べています。

“マーケット・セグメンテーションの高度化が進み、マネジャーは消費者間の深層レベルにおける類似点ではなく、表層レベルに見られる相違点に焦点をあてるようになってしまった。
もちろん、消費者はそれぞれ似通う点と異なる点を両方併せ持つが、類似点にこそ、消費者の思考を理解し、購買行動に影響を与える鍵がある。”(『心脳マーケティング』P169より引用)

「類似点にこそ鍵がある」という言葉は、シンプルながら非常に示唆に富むものですね。
しかし一方で、こんな疑問も湧いてきます。
「類似点を追うと、万人受けに陥り、結局、誰の心も揺さぶらないのではないか…?」
上記のリスクを避けるためには、表面的な類似点の先にあるもの、ザルトマン教授の言葉を借りるならば「深層レベルにおける類似点」に目を向ける必要があります。

一例を挙げましょう。
唐突ですが、以下の言葉の羅列をながめてみてください。

浮かぶ/気分が上がる/天国/上昇気流に乗る/起業
沈む/気分が落ち込む/地獄/下降線をたどる/倒産

仮にこの記事を読んだ方が100名いたとして、100名全員が上のグループの言葉からは「良いイメージ」を、下のグループからは「悪いイメージ」を読み取ったと断言します。
「そりゃそういう意味の言葉なんだから当たり前だろ」と突っ込まれてしまいそうですが、次の問いを考えてみてください。
「では、そもそも、“上”=“良”で、“下”=“悪”と感じる理由は何か?」
人はなぜ、例外なくこのように認識するのでしょうか。
我々は「上下」の概念を日々あまりにも無意識に用いているため、理由を即答できる人は少ないかもしれません。
この根本的な問いに対し、ザルトマン教授は実に鮮やかな解釈で答えます。

“重力の法則はすべてを支配する。上に行くということは下に行くことよりも難しい。よって、上に上がるという概念は、成果や卓越さを表す。上に上がるということから連想されるイメージ、たとえば飛んでいる鳥、放たれた矢、星、山、成長する木、塔などは、我々が到達したいと考えているもの、簡単に言えば、何かよいものを表している。下というのはその反対を表す。”(『心脳マーケティング』P253-254より引用)

言われてみるとなぜ気づかなかったのか、というぐらいシンプルなことですが、我々の世界には「重力」が存在します。
そして地球上で暮らす限り、この法則から逃れている人は存在しません。
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以前、あるサイエンスライターの方にインタビューをしたのですが、「この先、どれだけテクノロジーが進化しようと、人間が地上で感じる“G(重力)”の身体的感覚だけはなくならないだろう」というようなことを仰っていました。
理屈を越えた「身体的な認知」を通して得られる感覚は、私たちに共通して備わる強烈な「類似点」であり、これをビジネスに使わない手はないでしょう。

ただし、その取り扱いには注意が必要です。
普遍的な類似点は、意識の表面ではなく、無意識下で感じている性質のものです。そのためストレートに「“上”は素晴らしい」というメッセージを伝えても、心にまでは届きません。むしろ「当たり前でしょ?」と反発すら招いてしまいます。
普遍性をうまく活用するには、左脳(ロジカル)よりも、右脳(エモーショナル)に訴えかけるほうが得策でしょう。

個人的に素晴らしいなと感じている事例は、サッポロビールの『大人エレベーター』の広告です。CMでは、俳優の妻夫木聡が「階上」に向かう「エレベーター」に乗って「年上」の人に会いに行きます。(まれに年下のケースもありますが)
出会った大人たちは皆活き活きとしていて、「年齢が上がる」ことへの憧憬を感じずにはいられません。

さらに『丸くなるな、星になれ』というコピーも秀逸です。
「星」は「ブランドロゴ」と「個性」を象徴しているようですが、同時に「“上”=“良”」という普遍性を巧みに表現したメタファーでもあるように私には思えます。

ちなみに、こちらの広告が始まったのは、2010年の1月。表現の入れ替わりの激しいCMの世界において、実に7年以上も同じスタイルを持続させ、かつマンネリにもなっていないというのは驚異的なことではないでしょうか。
これだけ長く愛される理由の一つは、時代が移っても変化しない、絶対的な普遍性に焦点を当てているからこそであると言えるでしょう。「普遍的な類似点」をビジネスに取り入れる最大のメリットは、まさにこの「長く愛される」点にあります。

ザルトマン教授はこうした深層レベルの類似点を『ディープメタファー』と呼んでおり、本記事で取り上げた「上下」の概念に関するものは、『方向性(Orientation』という名前で定義されています。
ディープメタファーは、人間が世界を認識する際の最も根本にある共通の思考の枠組みであり、全部で26個存在します。残りの25個に興味がある方は、ぜひお問い合わせください。

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