2024.10.01
トマソンとリフレーム
こんにちは、デザインインサイトチームの景山です。
上の写真に写っているものについて、ご存知の方もいらっしゃるでしょうか。新宿ミロード・モザイク通りの一角に設置されている、階段のような建造物なのですが、数段上った後、すぐ下りる段がやってきます。上って、ただ下りるだけ。何なんでしょうこれは。
「階段」という語を辞書で引くと、「高さの異なる所への上り下りのために作った段々の通路」(三省堂『大辞林』)とあります。今いる場所よりも上または下に移動する目的のために作られ、設置されるもの、それが階段だと言えるでしょう。
その視点でみると、上の写真の構造物は、移動の結果として上にも下にもたどり着けるわけではありません。ただ上り、ただ下りて、すぐもとの高さに戻ります。先に述べたような階段の目的を果たさない、いわば無用の長物です。あらためて何なんでしょうこれは。
画家で作家の赤瀬川原平は、このような、ただ昇降運動のみを強制し、それ以外の何の見返りも期待できない階段を、「純粋階段」と名付けました。他にも出入り口だけが丁寧に塞がれてくぐることができなくなった門、「無用門」などの物件をまとめ、“社会上の何の役にも立たないのに、まるで芸術作品のように大事に保存され、独特の佇まいを持っている”存在、すなわち「超芸術トマソン」(※)という概念で呼びました。本来の目的を持たない・持たなくなった事物を、“芸術作品”という別の視点で捉え直したのです。
この「超芸術」の実践は、私たちが気づかないうちに前提としてしまっているものの見方に気づかせてくれるという意味において、非常に示唆的です。モノや道具というものには、通常それが使われる目的があります(ドリルは穴を開けるためのもの、といったように)が、何らかの原因で(例えば壊れるなどして)目的を果たせなくなってしまうと、それが有している別の側面が突如露わになってきます。このとき私たちは、対象に対する「支配的な認識のフレーム」を外れて、別のフレームで事象を捉えるチャンスを得ている、と言えるでしょう。冒頭の階段の例で言えば、それが“階段はふつう上か下に移動するためのものだ”というフレームで見るとうまく理解できないが故に、別のフレームで見直しているうち、なんだか芸術作品っぽく見えてきてしまう、というわけです。
イノベーティブなアイデアを発想するためには、上のような“認識のリフレーム”を行うこと、すなわち、暗黙の前提や支配的なものの見方に気づき、別の見方で問題や対象を捉え直すことが重要です。モノや道具から、それらが持つ主要な“目的”を取り払ってみる、という遊びは、リフレームの良い訓練になるのではないでしょうか。
(※)「トマソン」の意味や語源については以下の書籍をご参照ください。
赤瀬川原平『超芸術トマソン』筑摩書房、1987年
赤瀬川原平、南伸坊、藤森照信編『路上観察学入門』筑摩書房、1993年
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Satoshi Kageyama
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