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2023.05.25

大企業も「デザイン思考」に注目:IBMの例

大企業も「デザイン思考」に注目IBMの例

最近、テクノロジー関係者の間で注目のことばは「デザイン思考」である。
そんなことを読むと、デザイナーにとっては古い話題に聞こえるかもしれない。デザイン業界では、デザイン思考の考え方がかなり以前から知られていたからだ。

だが、現在のデザイン思考は当時デザイナーらが顧客のためにやっていたものとは少々異なったものになっている。それを象徴するのが、IBMが全社規模でデザイン思考を取り入れ始めたという事実だろう。
IBMはデザイン中心的な企業になるために、社内に大規模なデザイン組織を作ることを決定し、それに1億ドルの予算を割り当てている。2013年末にはデザイン・スタジオをテキサス州に作り、全社で1000人ものデザイナーを新たに採用することにした。
もちろんIBMはこれまでもハードウェア製品のデザインでは有名だ。また、すっきりしたサイトをデザインするということでも、デザインに意識的な企業というイメージはすでにあった。
だが、今回の転換は古いエンタープライズ・ビジネスをクラウド、モバイル、ソーシャル・メディア、AI(人工知能)、セキュリティーといった今日的なものに移行させ、こうした分野での成長を加速化するためにどうしてもデザイン思考が必要だとみなした結果だという。

これら分野での技術の発展や市場の変化は非常に速い。的確な製品やサービスを提供するために、顧客が必要とするものを身を寄せて感じ取り、プロトタイプを何度も作り直してテストするという、デザイン思考の方法論がその核になるというわけだ。同社では、デザイン思考のアプローチを行き渡らせるために、上はCEOから始まって上級レベルの重役、製品部門のマネージャーらまで訓練を受けたという。

IBMのデザイン思考は、顧客企業向けと同社のサービス開発の両方で使われている。
顧客向けでは、たとえばビデオゲームやエレクトロニクス製品の小売チェーンの店員のために、タブレット用の接客ソフトを開発した。その中では、客がこれまでどんなゲームをダウンロードしたか、どんな製品を買ったかといったことから、顧客データに基づいて、クーポンを提供したり下取りを提案したりができるようになっている。同社のサービスでは、クラウド・アプリケーション用の開発プラットフォームのブルーミックスを、この手法で1年という短期間で作り上げた。
IBMが採用するデザイン思考は、基本的にはユーザーへの共鳴、課題の特定、思索、そしてプロトタイプによるテストを繰り返すループであるという点は変わらないが、多くの拠点に散らばった大人数のチームのためのものとして独自の改良も加えられている。たとえば、多領域、多分野の専門家からなるチームを構成して複雑な問題に取り組む際に役に立つ3つの「キー」も考案している。

キーのひとつは「ヒル(丘)」で、これはデザインに留まらず、顧客やユーザーに感じられる具体的な結果に対して共通意識を持つことを意味する。2つめのキーは「プレイバック」で、これはデザイン思考の作業を共にしていない関係者も含めて、プロジェクトの進行を確認し合う機会のこと。3つめのキーは「ユーザーをスポンサーすること」で、これは実際のユーザーを招いてデザイン思考に参加してもらい、彼らにも観察する、思索する、プロトタイプを作るといったことをやってもらうことだ。そうして、彼らの目からデザイン思考を検証するためである。

IBMは、このデザイン思考のコンセプトをウェブサイトでも公開しており、そこで同社のきめ細かなアプローチも感じられる。たとえば、上記のユーザーをスポンサーして招いた場合、その人を所属の会社名で捉えるのではなく、あくまでもその会社で特定の仕事を行う個人として捉えることが重要だという注意書きまで加えている。デザイン思考では、抽象的な企業ではなく、生きた人間の生の経験こそが目を向けるべき対象だからだ。

そもそも、こうした方法論を公開していること自体に、IBMの変貌ぶりを感じないだろうか。「もはやビジネス戦略とユーザー・エクスペリエンスのデザインの間には、はっきりし区別がない」と、あるIBMの重役が語っているが、まさにデザイン思考はこちらと相手を同調させる方法でもあるのだ。

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