2022.11.02
Blog|mctの機会探索(5) 機会探索ユーザーリサーチとしてのインクルーシブデザイン活用
mctでは新規事業開発部門や研究開発部門に向けて、デザイン思考を用いて事業テーマの探索からビジネス機会・課題の発見、ビジネスアイデア検証まで、ビジネスデザインを支援しています。(詳しくはこちら)
今回はビジネスデザインにおける「機会探索」というテーマで、基本的な考え方からmctの具体的なアプローチ方法までご紹介していきます。
第5回は「機会探索ユーザーリサーチとしてのインクルーシブデザイン活用」です。前回のブログでは、新製品開発や新市場開拓の手がかりを得るために、アノマリーに着目した3つのタイプの機会探索ユーザーリサーチがあることを紹介しました。今回はその中でエクストリームユーザーリサーチとしても活用できるインクルーシブデザインについて紹介します。
排除しないプロセスで進めるインクルーシブデザイン
インクルーシブデザインとは、高齢者や障害者など、大多数ではない人々を排除しないプロセスでデザインするアプローチです。デザインは、人々が社会参加できる「インクルージョン」のツールであり、社会参加できない「エクスクルージョン」であってはならないという基本的な目標にもとづいています。
高齢者や障害者の“ために”、ではなく“共に”デザインを推進することを重視し、ユーザーのニーズや能力、ライフスタイルを深く理解し、ユーザーと共にデザインに取り組む、参加型のデザインプロセスを推奨しています。アプローチの基本は、デザインによる排除とその影響を、デザイナー自身が理解することです。
インクルーシブデザインの成り立ち
インクルーシブデザインという用語は、1994年にロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のロジャー・コールマン教授が発表しました。当時、コールマン教授は「未来の私たちのためのデザイン」というコンセプトで、高齢者・デザイナー・企業の三者が共同で議論を進めていく、デザインエイジプログラムを実施していました。
このプログラムが成功し、1999年にRCAにヘレンハムリンセンター・フォー・デザイン(HHCD)が設立され、そこでジュリア・カセム氏が「チャレンジワークショップ」を開催し、インクルーシブデザインの方法論が確立されました。
極端な例の理解から主流となるイノベーションを生み出す
デザイナーは様々な障害を持つ人々とともにチームを組み、ユーザーフォーラムや、個別インタビュー、観察セッションを通じたブレインストーミングを行いながら、一緒に日常生活を経験します。
そして障害を持つ人々が、身のまわりのプロダクトやサービスの不都合に対して対処する柔軟な思考から、インスピレーションを得ます。これは極端な、エクストリームな例を理解することで主流となるイノベーションが生まれる、という考えかたに基づいたアプローチです。
インクルーシブデザインの原則
インクルーシブデザインは、デザインプロセスの「発見、定義、開発、実現」の各段階を必ず通ってプロセスを進めるとともに、以下の4つの原則に従います。
1.人々と共に、効果的に進めること
参加する障害者を単にユーザーとしてではなく、様々な特徴あるシナリオをもたらす「デザインパートナー」とみなします。多様で深い洞察力をもとに、プロジェクトの質を高めます。
2.解決策を導くこと
一つの障害グループからだけではなく、いろいろな能力を備えた人々に参加してもらい、さまざまな人々を考慮したインクルーシブな解決策を導きます。
3.使用状況とパターンを理解すること
実際にどのように使用し、どんな困難が生じるのか、様々なパターンを観察や考察により理解します。エスノグラフィーや参加型アプローチの方法論が重要です。
4.複合的なシナリオをつくること
一つのデザインコンセプトに複数のシナリオをつくります。個性や年齢やライフスタイルだけではなく、活動や状況の中で一致するものを見つける方法が有効です。
事例:MicrosoftのSoundscapeとSONYのLinkBuds
Microsoftは2018年に、視覚障害者の街歩きを支援するアプリSoundscapeを開発・リリースしました。ヘッドホンと連携させて利用する音声ガイドアプリで、起動した状態で街を歩くと、リアルタイムで周辺にある建物や施設をアナウンスしてくれます。
長らく日本でこのアプリは提供されませんでしたが、2022年に日本語版がリリースされました。ここでは視覚障害者を主な対象と絞ることなく「移動を支援し街歩きを楽しむアプリ」として紹介されています。このリリースと同時にSONYは、耳をふさがないワイヤレスイヤホンLinkBudsを発売しました。これはSoundscapeと連携することができ、周囲の音を自然に聞きながら街歩きをサポートします。
発売と同時にSONYは、ポケモンGOなどを手がけるNianticと協業契約を締結しました。今後、LinkBudsを使って“音のAR”を楽しむ開発を進めるということです。
これらの事例は、視覚障害者を支援するアプリとして開発した技術が、晴眼者の街歩きを楽しくするアプリとして展開され、さらに音声ARによるゲーム体験への期待や、新しいAR世界への想像に発展していったとも捉えられるのではないでしょうか。
以上、インクルーシブデザインについて紹介しました。新製品開発や新市場開拓の手がかりを得る方法のひとつとして、参考になりましたら幸いです。具体的な実施方法やプロセス設計など、mctでご支援できることもありますので、ご不明点がありましたらお気軽にお問い合わせください。
参考文献
『社会の課題を解決するインクルーシブデザイン』(学芸出版社)
連載コンテンツ
第1回:イノベーションの兆しを捉えるアプローチとマインドセット
第2回:アノマリードリブンで兆しを発掘する
第3回:アノマリーに潜む機会に気づくための「多様なメガネ」
第4回:アノマリーに着目した3つのタイプの機会探索ユーザーリサーチ
第5回:機会探索ユーザーリサーチとしてのインクルーシブデザイン活用
第6回:ポジティブな外れ値に学ぶ問題解決アプローチ「ポジティブデビアンス」
mctについて
mctでは、機会探索から、市場や顧客の理解、コンセプトの創出、ビジネスデザインまで、インサイトを共有しながら事業開発/デジタル変革を支援しています。
具体的には、伴走型でビジネスアイデアを磨いたり、企業の事業創出プロセスを整備したり、事業創出を担う人材の育成も支援したり、社会課題解決を目指す共創エコシステムの運営を支援したり、ビジネスデザインについて幅広く支援していますので、少しでも興味があればウェブサイトを覗いてみてください。https://mctinc.jp/service-bddx
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Yohei Ushijima
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