2022.11.02
Blog|mctの機会探索(2) アノマリードリブンで兆しを発掘する
mctでは新規事業開発部門や研究開発部門に向けて、デザイン思考を用いて事業テーマの探索からビジネス機会・課題の発見、ビジネスアイデア検証まで、ビジネスデザインを支援しています。(詳しくはこちら)
今回はビジネスデザインにおける「機会探索」というテーマで、基本的な考え方からmctの具体的なアプローチ方法までご紹介していきます。
第2回は「アノマリードリブンで兆しを発掘する」というテーマで、その方法論やマインドセットについてご紹介できればと思います。
“兆し” や “トレンド” と一言に言っても、トレンドが確立されてる時点で、そのトレンドがもたらすビジネス機会はすでに競合他社に奪われてしまいます。
また、第1回の記事でもご紹介したピーター・ドラッカーは、そのようなトレンドや兆しが外部に現れてる時点で優位性は低くなってしまうので、社内や業界内部に現れている兆しを捉えることがイノベーションにつながると主張しています。
圧倒的な競争優位に立つためには、社内外に点在する「まだトレンドとも言えない微かな兆し」を、顕在化する前に見つけ出し、そこを起点として事業を展開・適応させる必要があるのではないでしょうか。
では、このような「トレンドともいえない微かな兆し」(=アノマリー)を見つけるためにはどうすればいいのか、また、その兆しをビジネス機会として捉えるために何をすべきなのか、本記事では、ハーバードビジネスレビューから出版された、『The Power of Anomaly』で取り上げられていた具体的な方法論をマインドセットとともにお伝えいたします。
アノマリードリブンのマインドセット
”アノマリー”の意味そのものである、「異常」や「外れ値」「想定外」といったものに出会うためには、第1回の記事でご紹介したようなマインドセットである、先入観の排除や没頭などが基本になりますが、具体的には以下の3つの視点が重要になります。
❶外部の視点から観察する
アノマリーは基本的に未知と既知の境界で発生します。そのため、平均的な顧客の行動を理解するだけでなく、非典型的な顧客や離脱した顧客、顧客になったことのない人など、多種多様な顧客の行動を理解する必要があります。
❷思い込みやメンタルモデルを疑う
アノマリーを見極めるためには、良質な新しいシグナルがもたらす潜在的な意味を想像する能力が必要となりますが、私たち人間は、現実世界で起こるさまざまな現象を知覚・認知し、行動するためのメンタルモデルを内部に構築しています。しかし、そのメンタルモデルは主観的であり、現実世界を理解するための型に過ぎません。アノマリー発掘のためには、そのモデルを柔軟に更新しなければなりません。簡単に言うと「現実って本当にそうなの?」と疑うことが大事なのです。
❸曖昧さを受け入れる
上記の通り、アノマリーは現在のモデルでは説明できない「境界」にあり、そのアノマリーを裏付けるデータも常にはっきりしているとは限らないため、物凄く曖昧かつ受け入れ難いものです。しかし、その曖昧さを受け入れ、アノマリーがビッグチャンスに変わるような説得力のあるストーリーを描けるか?を問うことが大事です。
アノマリードリブンの各ステップ
さて、これまでは「トレンドともいえない微かな兆し」を見つけるためのマインドセットをご紹介しましたが、ここからは具体的な方法論をご紹介します。
Step1 加工前のデータを分析して可視化する
データを平滑化すると例外が取り除かれ、アノマリーが浮かび上がってこず、それに気づくこともできません。データを構造化するなどして、統計値に頼らずにデータを解読することが大切です。例えば、高頻度で収集されるデータや、各個人の取引履歴、SNSに書き込まれたテキストデータなどは無数に存在しますが、その意味を分類し分析を行えば(=セマンティック・クラスタリング)、その背後にある心情や行動のパターンが明らかになります。
Step2 意味のあるアノマリーを見つける
Step1で見えてきたパターン。これから外れたアノマリーすべてに意味があるわけではありません。将来に関する示唆として有効なアノマリーにあたりをつける必要があります。それは、そのアノマリーに勢いがあるか?(モメンタム)、複数のデータに共通して見られるか?(ロバストネス)そのアノマリーが暗示する将来像は自社にとってのチャンスになるか?(インパクト)という3つの点で評価し、アノマリーの潜在力を測ります。これこそが「まだトレンドともいえない微かな兆し」となります。
また、あたりをつけたアノマリーに対して、デプスインタビューや、フィールドワーク、エスノグラフィーのような調査を行い、その定性的インプットを分析してみるのも良いかもしれません。分析の手法は様々ありますが、他者の文脈を社会的、身体的、文化的に分析する5 model anlysis などは他人のメンタルモデルを自分にインストールする(=自分のメンタルモデルを疑う)点で有効です。
Step3 アノマリーでストーリーを作ってみる
Step2で暗示された将来像や可能性を、ユーザーの未来にその可能性がどのように現れ、どのような価値を持つのか、というストーリーに仕立て上げます。 (=ストーリーテリング)
つまり、「まだトレンドとも言えない微かな兆し」がトレンドになったときに生まれるであろうストーリーを作り出し、その意味を理解します。
ストーリーテリングと聞くと、難解で避けてしまいがちですが、ストーリーを創ることで、新しいアクションを生み出し、その新しい世界のプレイヤーになろうとする人たちを描くことができます。
Step4 検証し、形を与える
この時点でのアノマリーは、新たなチャンスが生まれる前兆に過ぎないため、些細なことで変化しやすいです。そのため、スピーディな反応が求められます。具体的には、顧客やパートナーと連携し、小さな実験を繰り返してアイデアの検証を行うことで、そのアノマリーを中心に形成される新たなパターンや、新たなチャンスがどのように発展していくのかを、先行して形作ることができます。
さいごに
技術の発展により大量のデータにアクセスできるようになった最大の利点は、未知のパターンを見つけ出せることです。未知と既知の境界に発生するアノマリーを起点にしてみると、これまで全く検討できなかった事業アイデアにたどり着くことができるかもしれません。
参考文献
『The Power of Anomaly』ハーバードビジネスレビュー
『The Innovator's Way: Essential Practices for Successful Innovation』ピーター・J・デニング
『ビジネス・エスノグラフィ 機会発見のための質的リサーチ』田村 大
『Contextual Design: Defining Customer-Centered Systems』ヒュー・ベイヤー
連載コンテンツ
第1回:イノベーションの兆しを捉えるアプローチとマインドセット
第2回:アノマリードリブンで兆しを発掘する
第3回:アノマリーに潜む機会に気づくための「多様なメガネ」
第4回:アノマリーに着目した3つのタイプの機会探索ユーザーリサーチ
第5回:機会探索ユーザーリサーチとしてのインクルーシブデザイン活用
第6回:ポジティブな外れ値に学ぶ問題解決アプローチ「ポジティブデビアンス」
mctについて
mctでは、機会探索から、市場や顧客の理解、コンセプトの創出、ビジネスデザインまで、インサイトを共有しながら事業開発/デジタル変革を支援しています。
具体的には、伴走型でビジネスアイデアを磨いたり、企業の事業創出プロセスを整備したり、事業創出を担う人材の育成も支援したり、社会課題解決を目指す共創エコシステムの運営を支援したり、ビジネスデザインについて幅広く支援していますので、少しでも興味があればウェブサイトを覗いてみてください。https://mctinc.jp/service-bddx
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Keisuke Minowa
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