2022.11.07
Blog|mctの機会探索(3) アノマリーに潜む機会に気づくための「多様なメガネ」
mctでは新規事業開発部門や研究開発部門に向けて、デザイン思考を用いて事業テーマの探索からビジネス機会・課題の発見、ビジネスアイデア検証まで、ビジネスデザインを支援しています。(詳しくはこちら)
今回はビジネスデザインにおける「機会探索」というテーマで、基本的な考え方からmctの具体的なアプローチ方法までご紹介していきます。
第3回は「アノマリーに潜む機会に気づくための『多様なメガネ』」と題して、機会の候補・アイデアがいくつか集まり、解釈・評価を行う上での「多様なメガネ」を持つことの大切さについてお伝えできればと思います。
前回のブログ「アノマリードリブンで兆しを発掘する方法」では、まだトレンドとも言えない微かな兆し・アノマリーを見つけるための方法・マインドセットを紹介しました。この中で触れた4つのステップのうち「Step2 意味のあるアノマリーを見つける」では、いくつかの機会の候補について解釈・評価を行う必要があるのですが、どのような視点を通して解釈・評価を行うのがよいのでしょうか?
これに対する1つの手掛かりとして、イノベーションとのつながりが深いとされる「多様性」について考えていきたいと思います。
ブレイクスルーは多様性の高いチームから生まれる
多様性とイノベーションの価値の関係性について、Lee Flemingによる17,000件の特許を分析した有名な研究があります。この研究によると、メンバーの多様性が高まるほどアイデアの質の分散が広まり、平均値は下がる一方で、非常に大きな価値をもたらすイノベーションは多様性の高いチームから生み出されているということが示されています。
前回のブログで紹介したアノマリーの潜在力を測る観点の1つに「そのアノマリーが暗示する将来像は自社にとってのチャンスになるか(インパクト)」というものがありましたが、これには創造力を働かせる必要があるという意味では、機会を解釈・評価する上でも、ブレイクスルーを生み出すチームのように多様性を持つことは重要な要素になってくると考えられます。
ずっと同じ業界で仕事をしている人しかいない同質化されたチームが業界の常識に反するアイデアを却下してしまい、その後業界外のプレイヤーが同じアイデアを市場に出して成功した...といった話は多様性のないチームが意味のあるアノマリーに気づけなかった一例と捉えることができます。
チームとして「多様なメガネ」を持つ
ここで「多様性」について少し掘り下げたいと思います。
マシュー・サイドの著書『多様性の科学』では、多様性とは単に性別や人種・年代のことを指すのではなく「認知的多様性」が重要であると述べています。「認知的多様性」とはものの見方や考え方の違いを指しており、認知的多様性に富んでいるということは、チームとして多様な視点を持っている状態ということになります。
これに加えて、それぞれの人が見えている領域に深い理解・知識があることも必要だと述べられています。上述の論文でも多様性=様々な分野の専門家を想定しており、他にも、他業界で働いた経験や直線的でないキャリアパスといった知見の多様性に繋がるような要素がイノベーションに寄与することを示した調査もあります。
こういったことから、視点の多さ×しっかり見える状態=「多様なメガネ」をチームとして持つことが大切だと言えます。
『多様性の科学』の中ではメンバーの集め方についても語られています。下図のように問題空間(=特定の問題解決・ゴール達成に有効な概念・知識を示す領域)に対して幅広くカバーするようなエキスパートを集めることがよいとされています。当書の中では、サッカーのイングランド代表監督に助言を行う組織を設立するにあたり、大舞台に向けた選手選抜に詳しいラグビー代表ヘッドコーチや食事と運動の改善に詳しい自転車ロードレースチームのGMなどを集めた話が取り上げられています。
ただサッカーとは異なり、新規事業開発においてはそもそも解決すべき課題が変化していく/変化させる必要が生じることもしばしばで、問題空間の枠線を都度設定しなおさないといけないということが起こります。そのため、プロジェクトのフェーズ・状況に合わせて「多様なメガネ」をかけかえたりと、柔軟に対応することが必要になってきます。
新規事業開発プロジェクトに「多様なメガネ」を取り込むには
実際のプロジェクトを進める上では、どのように「多様なメガネ」を確保して活用するとよいのでしょうか? 大きくは「多様なメガネ」を内部に持つ方法と外部から借りる方法があります。正解はないですが、それぞれ次のような進め方・工夫が考えられます。
【メンバー内部に多様なメガネを持つ】
まず考えられるのは、プロジェクトメンバーを集める時点で、メンバーの多様性の高いチームを目指すということです。事業ドメインやビジョン・ミッションなどから取り扱いたい領域を設定して、それに対して広くカバーできるような多様な専門スキルを持ったメンバーを集めるということが考えられます。
またワークショップで機会アイデアを出し評価する際の工夫として、個人個人で熟考・情報収集を行い意見を尖らせる(メガネの幅と深さを作る)ことを行った上で互いの意見をぶつけ合い解釈を深めていくといった進め方を取り入れるのもよいと思います。
【外部のメガネを取り入れる】
前段で触れたように新規事業開発では必要なメガネが都度変化していくため、プロジェクトメンバーのみですべてをカバーするのは難しく、外部のメガネをうまく取り入れていくことが大切になってきます。
例えばエキスパートを活用して、インタビューで知見を増やしたり、一時的にプロジェクトに巻き込み伴走支援を受けるということがありえます。外部の人が機会の候補・アイデアに対して違った見方・解釈を与えてくれることが期待できます。
また、設定している問題空間の枠を見直すために、自分たちが今まで着目してこなかった領域で尖ったニーズ・考え方を持っているユーザーを新たな気づきを与えてくれるエキスパートと捉えて、リサーチを行ってみることも有効だと考えられます。(この点は今後のブログで触れていきたいと思います)
どのような方法を取り入れるかは、プロジェクトのフェーズや活用できるリソースによりますが、いずれの場合でも、同質化した視点で解釈・評価を行っていないか、を意識することで「意味のあるアノマリーを見つける」ことに近づけるのではないでしょうか。
*プロジェクトに応じた意識の持ち方については過去の以下のブログも参照ください。
「プロジェクトチームのクセを認識してイノベーションの可能性を高める」
次回以降は、兆しを発見するための方法として、メインターゲット以外のユーザーを対象にしたリサーチについて、いくつか手法・考え方を紹介していきます。
参考文献
『Perfecting Cross-Pollination』Lee Fleming
『多様性の科学』マシュー・サイド
『The Mix That Matters: Innovation Through Diversity』Rocío Lorenzo, Nicole Voigt, Karin Schetelig, Annika Zawadzki, Isabelle Welpe, and Prisca Brosi
連載コンテンツ
第1回:イノベーションの兆しを捉えるアプローチとマインドセット
第2回:アノマリードリブンで兆しを発掘する
第3回:アノマリーに潜む機会に気づくための「多様なメガネ」
第4回:アノマリーに着目した3つのタイプの機会探索ユーザーリサーチ
第5回:機会探索ユーザーリサーチとしてのインクルーシブデザイン活用
第6回:ポジティブな外れ値に学ぶ問題解決アプローチ「ポジティブデビアンス」
mctについて
mctでは、機会探索から、市場や顧客の理解、コンセプトの創出、ビジネスデザインまで、インサイトを共有しながら事業開発/デジタル変革を支援しています。
具体的には、伴走型でビジネスアイデアを磨いたり、企業の事業創出プロセスを整備したり、事業創出を担う人材の育成も支援したり、社会課題解決を目指す共創エコシステムの運営を支援したり、ビジネスデザインについて幅広く支援していますので、少しでも興味があればウェブサイトを覗いてみてください。https://mctinc.jp/service-bddx
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Yoichi Sugiki
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