2022.12.21
Blog|15の視点から”Good Service”について考える CANUXイベントレポート
こんにちは、CXデザインチームの渡邉です。
今回のブログはカナダのUXカンファレンスCANUXのイベントレポート第三弾です。
(過去の記事は下記よりご覧ください。)
第一回「カナダのUXカンファレンス「CANUX」に参加してきました!」
第二回「望ましい行動を促し、行動し続けてもらうための12の原則 CANUXイベントレポート」
今回のブログではプレナリーカンファレンスの1つであるLOU DOWNEさんの「DESIGNING GOOD SERVICES」の講演についてご紹介します。こちらの講演では「良いサービスとは何か?」「良いサービスをつくるために何が必要か?」について語られており、サービスをつくる側として意識するべきことや私たちの身の回りにあるサービスについて改めて考えるきっかけになりました。
LOUさんの講演の様子。
■そもそも「サービス」とは何か?
私たちの身の回りには様々なサービスで溢れています。その規模感や利用シーンは様々ですが、端的に言うと「誰かが何かをすることを助けるもの」です。近所のスーパーマーケットでお菓子を買うようなすぐにできることでも、家を購入するという大きなことでもそれを達成するために様々なサービスが存在します。その仕組みをデザインしていくことがサービスデザインになります。
サービスとはユーザーの「◯◯したい!」の実現を助けるもの
■良いサービスであるための15の原則
LOUさんは良いサービスとはどんなもの?というものを下記の15個の原則にまとめており、今回の講演ではGood serviceであるために必要な考え方が事例とともに紹介されていました。
1. 見つけやすいこと
2. 目的が明確に示されていること
3. 「ユーザーがサービスに期待すること」を定められていること
4. ユーザーが自分の目的を果たすことができること
5. 誰もが馴染みのある仕組みで機能すること
6. 予備知識がなくても利用できること
7. 組織構造にとらわれずデザインされていること
8. タスクが完了するまでに必要な手順が最小限で済むこと
9. 首尾一貫していること
10. 袋小路がないこと
11. 誰もが平等に利用できること
12. ユーザーとスタッフに正しい行動を促すこと
13. 変更に対して素早く対応すること
14. 決定理由を明確に説明していること
15. 対人サポートを受けやすいこと
(https://good.services/15-principles-of-good-service-design)
今回の講演の中では全ては触れられませんでしたが、興味深い事例についていくつかご紹介します。
例えば「1. 見つけやすいこと」は、必要としているサービスを探し、使いこなしていく際に非常に重要になってきます。その中の一例として、「名詞」だけでサービスを表現するのではなく、「動詞」も使いながら考えると良いという点が挙げられていました。ユーザーが自分の必要とするサービスを探し理解する時、「それが自分にとってどう役立つのか」がわからないと使おうと思えないかもしれません。また使ったとしてもユーザーの考えていたものと異なるサービスであった場合、期待が大きく損なわれる結果となり、ネガティブな結果を引き起こしてしまう可能性もあります。
例えば、「自宅トレーニングアプリ」と言われるよりも「宅トレ習慣化サポートアプリ」と聞いた方がそれが何なのか理解しやすくなりますよね。これはサービスの総称だけでなく、サービス内での1つ1つのタスク名称についても同様のことが言えるかと思います。
またここでは「サービスの価値・体験が下がってしまう悪循環」という興味深いメンタルモデルが紹介されていました。人は、それ(サービス)の存在理由がわからず、それを知るきっかけも得られないと自分なりの使い方を見つけ、デザインしていこうとしてしまいます。それによって設計者の意図と違う使う方をされることで当初設計者が想定していた体験を提供できず、更にユーザーにとって使いにくいものになっていってしまう、というものです。
サービスの価値・体験が下がってしまう悪循環モデル
(ちなみに私はこの図を見た時に、サービスデザインだけでなく日常生活でも「あるある」な考え方なのかなと思いました。例えば…目的をよく分かっていない会議では「そもそもこの会議の目的が何なのか?」ということを立ち戻って聞くことは憚られますが、参加者全員がそのような状態だと誰もが質問しにくい雰囲気が醸成されてしまいます。その結果想定していなかった議論の方向性に向かったり、あまり望ましくない意思決定をしてしまう…そんな状況にも通ずるものを感じました。)
また「12. ユーザーとスタッフに正しい行動を促すこと」についてはイギリスの国民保健サービスNHSの事例がご紹介されていました。NHSでは病院の予約〜来院まで時間がかかるという問題をサービスデザインで解決しようとし、どの患者さんも「予約から48時間以内に受診ができるようにする」という目標を掲げました。しかし実際は「予約の受付は診療希望の48時間以内のみに限る」という施策をとってしまったことで、患者さんは予約をとるのがかなり困難になり、患者さんの体験が著しく低下してしまったことでサービスへの満足度も低下しまったそうです。
(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:NHS_NNUH_entrance.jpg)
また別の事例では、コールセンターのオペレーターができるだけたくさんの顧客に対応するために電話対応に時間制限を設けた企業について紹介されていました。この制限時間を設けることで、スタッフからの対応は「いかに時間内に電話を終わらせるか」という部分に焦点が当たってしまい、顧客に対して十分なサポートやアドバイスができなかったということでした。
これらの事例での失敗の要因は「ユーザーが必要としているときに成し遂げたいことを達成できる」ということができなかったことにあります。またサービスプロバイダー側のタスクもその成果のみに焦点が当てられていたため、本質的に顧客のゴールを達成する行動をとることができていませんでした。サービス設計はユーザー、プロバイダー双方にとってポジティブな結果を生み出すものでなくてはなりません。作っているサービスはユーザー/プロバイダーのゴールを達成するものなのか?お互いにとってポジティブな結果を生み出すのか?を今一度立ち止まって考えてみると良いかもしれません。
実際にサービスを提供することで各ステークホルダーのゴールを実現し、良い結果をもたらすかどうか考えることが重要
またこの話はサービス設計のときだけでなく、KPIの設定も同様のことが言えると思います。「誰が何をしたか」というタスクベースでなく、「何を成し遂げたか(ユーザーゴールを達成しているのか)」の成果ベースで計測をしていく必要があるかと思います。
■つまり「良いサービス」とは何か?
長々と書いてしまいましたが、つまり「良いサービス」とは改めて何なのでしょうか。LOUさんは下記の3つを良いサービスの基準として上げています。
「ユーザーが望んでいることを望んでいる形で叶えることができること」
「サービスが組織に利益をもたらし、容易に運用できること」
「サービスが社会全体に悪影響を及ぼさないこと」
この考え方を更に細分化したものが上記の15の原則に紐づいてきます。
良いサービスづくりにおいてはそれぞれのステークホルダーのジャーニーやゴールを理解し、それを達成するためにはどうすればいいのかを考えることが重要になります。またユーザー自身だけでなく、そのサービスに関わるステークホルダーのゴールも念頭におきながらサービス設計をしていく必要があります。
今回のブログではCANUXの「DESIGNING GOOD SERVICES」の講演をご紹介いたしました。講演では一部のケーススタディに絞ってご紹介されていましたが、LOU DOWNEさんの著作「Good Service[グッド・サービス] DX時代における“本当に使いやすい”サービス作りの原則15」では今回ご紹介した以外のサービスデザインの原則が失敗例/成功例と合わせてご紹介されています。もっと詳しく知りたいという方は是非こちらも読んでみてください。
こちらのブログにてCANUXのイベントレポートは終了しますが、本イベントでUXやデザインにまつわる手法やトレンドなど様々な情報がキャッチできましたので、また引き続き発信していきたいと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
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Michiru Watanabe
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