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2025.06.30

Series|顧客エンゲージメントを高めるUI/UXデザイン―番外編 : ノンヒューマンペルソナを活かした UI設計



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「顧客エンゲージメントを高めるUI/UXデザイン」をテーマに
お届けしている本シリーズ、第4弾のテーマは番外編として人間以外の「ノンヒューマン」視点で
UIUIXを考えると、どのようなデザインになるのか、についてご紹介します。
 
  

 

ユーザーは人間だけじゃないかもしれない?

 
私たちが日々設計しているUI(ユーザーインターフェース)は、 基本的に「 人間にとって使いやすいこと 」を中心に組み立てられています。 操作のしやすさ、 読みやすい文字、  ストレスのない導線など、 あらゆる要素が 「人間ユーザー」 目線でデザインされています。 しかし、アプリが使われる日常の中には、当然ながら人間以外の存在も含まれています。
 
スマート家電にはペットが、農業用ドローンには野鳥や虫たちが、私たちのデジタル行動の影響を受けているかもしれません。
これらの発想から生まれたのが、 ノンヒューマン・ペルソナ (Nonhuman Persona)  というツールです。
 
以前の blogで 「ノンヒューマン・ペルソナ の考え方 」 についてご説明しているので、 もしよければそちらもご覧ください。
今回は実際のUIデザインにおいて、ノンヒューマンペルソナを使った実例として、カエルが "アクタント" の一員 として扱われたアプリをご紹介します。
 
 

カエルが変えるUIデザイン: 市民科学プロジェクト「Frog ID」

 
今回ご紹介するのは、アプリ 「FrogID」 で、 オーストラリア博物館とIBMによって共同開発された市民科学アプリです。

オーストラリアでは、気候変動や乱獲、都市開発によって、両生類の多くが絶滅の危機に瀕しています。
中でもカエルは、汚染、気候変動、生息地の変化など、あらゆる環境変化に真っ先に反応する生き物で、彼らの生息情報は地球の生態系を理解する上で重要です。
 
カエルの保全戦略における課題の一つは、現存する種とその分布に関するデータの不足でした。
このFrog IDは、市民たちがスマートフォンを使って、身の回りで聞こえるカエルの鳴き声を録音・投稿し、 その音声から種の識別と生息地の分布をモニタリングすることができます。 これによって、カエルとその生態系が変化する地球にどのように対応しているかを理解することを目的としています。

そして、 FrogIDのユニークな点は、 録音される "対象" であるカエルを、単なるデータの提供者ではなく、UI設計上のステークホルダーとして扱った ところにあります。
 
 

ノンヒューマン・ペルソナ 「Bella」の誕生

 
Frog IDの開発チームは、このプロジェクトで直接影響を受けるカエルをペルソナ化することで、 開発段階から、彼らの視点から生息環境にできるだけ影響を与えないようにするなど、 デザインに取り込みました。
 
現地調査などのリサーチに基づいて、 「Bella」という名前の仮想的なカエルのペルソナを作成。
このペルソナには、 カエルの鳴き声の周期(ユーザー属性の置き換え)に関する詳細や繁殖生態、類似種、分布に関する情報に加えて、説明、ニーズ、問題点 も含まれていました。  Bellaは、都市周辺の湿地に生息し、人間の活動に敏感な種として設定されました。

もちろん、カエル自身がアプリを操作することはありません。 しかし、
「もしBellaがここにいたら、この設計は彼女にとってストレスにならないだろうか?」
 
という問いを設計の中心に据えることで、従来では見過ごされがちな視点が浮かび上がりました。
 
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カエルの視点を捉えたペルソナ表現(左)と科学者ペルソナ(右) /
作成者:イザベラ・ベイン(プロジェクトで使用されたオリジナルのペルソナの例として)出典: blog
 
 

インターフェースに反映された 「カエルの視点」

 
カエルのBellaの "ニーズ" を考慮したことで、FrogIDのUIには以下のような細やかな設計方針が取り入れられました。
 
ダークモードの標準採用
アプリは夜間に使用されることが多く、Bellaのような夜行性のカエルにとって、スマホの明かりがストレスや混乱の原因になります。そこで、画面の光量を抑えるダークモードが初期設定として導入されました。
 
静かな通知・控えめな音
録音時に余計な音が鳴らないように、UI設計全体が“静けさ”を重視しています。これは、録音中にカエルを驚かせたり、正確な鳴き声を妨げたりしないための配慮です。
 
ユーザーへの行動ガイド
「静かに録音しましょう」「足元に注意しましょう」 といったメッセージをUI 内に組み込むことで、 ユーザー自身がカエルに配慮した行動を自然に選べるように設計されています。
 
このように、Bellaは単なるキャラクターではありません。 彼女の存在は、開発チームに「このアプリは人間だけでなく、周囲の生き物にとっても負担にならないか?」という視点を持たせる、設計上の"羅針盤"として機能しました。
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 FrogIDアプリのユーザーインターフェース — (A) カエルの鳴き声の録音、(B) 生息地フィルターの選択、
(C) カエルの種類の選択、(D) 録音の送信 /出典: blog
 
 

UI/UXにおいて、倫理を“拡張”するということ

 
従来のUI/UXデザインは 「ユーザーの立場に立つ」ことを基本としていますが、 その"ユーザー"が必ずしも人間である必要はないのかもしれません。 FrogIDの事例は、これまで見落としていたターゲットユーザーである人間以外のアクターの視点を取り入れることで、より包括的で持続可能なデザインが可能になることを示しています。
 
ターゲットユーザー以外のペルソナを作り、喋らない影響者に声を与えることで、デザイナーが対処すべき課題についてより深い洞察を得ることができます。
 
FrogIDの事例から見えてくるのは、ノンヒューマン・ペルソナが単なる思考実験ではなく、 実際のプロダクト改善に直結する実用的な手法であるということです。

私たちmctでは、このような視点を活かしながら、プロダクト・サービス・ブランドに持続可能な価値と物語を宿すための支援を行っています。 あなたのプロジェクトにも、「見えないユーザー」の声を取り入れてみませんか。 
 
 
 


 

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参照サイト: https://www.frogid.net.au/
 
 

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