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2023.10.13

Blog|MOTを捉える(後編)-「真実の瞬間」を活用して、より良いCXデザインを実現する -

MOTを捉える後編

今回は、CX(顧客経験)改善のプロジェクト進行において、もっとしっかりとMOT(Moment of Truth:真実の瞬間) を設定・活用することで、より効果的な「インサイトからデザインへの落とし込み」を可能にするポイントについてお伝えします。

この記事は前後編の2回に分けてお届けします。(前編からお読みになりたい方はこちら

目次(後編)
4. MOTを使ってCX改善プロジェクトに取り組むためのポイント
 ①4つのフェーズを意識して、MOTの初期仮説を立てる
 ②ブランド体験を通じて、顧客にどんな気持ちになってもらいたいか、目標を立てる
 ③MOTでの期待と実際の体験とのギャップを深掘りする
 ④指標を用いてMOTを選定する
 ⑤MOTでの出来事をできるだけ具体的に表現する

①4つのフェーズを意識して、MOTの初期仮説を立てる
プロジェクトをスタートする時、最初に設定する問題が曖昧だと、その後の問題の探求フェーズも曖昧なものになります。例えば、「◯◯ユーザーの価値感について知りたい」「◯◯患者さんの困りごとについて知りたい」といったレベル感の問題設定だと、インタビューで聞かなければならない範囲が広がりすぎてしまいます。

過去に実施したリサーチ情報がなく、どこがMOTなのか見当がつかないという場合でも、総花的で発見の薄いリサーチにならないよう、まずは前述の4つのフェーズ(第0〜第3の瞬間)それぞれの、どこかのタッチポイントに何かしらのMOTがあると想定して、観察やインタビューに臨むことをお勧めします。

タクシー配車アプリサービスの仮説MOTの例。テーマによって4つのフェーズの表現は変更する。例えば疾患リサーチの場合は「異変を感じる」「初診を受ける」「診断がおりる」「治療を開始する」等がよくある重要なフェーズとして設定できる。

また、インタビューを重ねていく中で、仮説で置いていたMOTがそれほど重要なタイミングではなかった、また、MOTにおける問題の解釈が間違っていたと気づくことがあります。その場合は、仮説のMOTに固執せず、次回以降のインタビューで柔軟に深掘りポイントを変えていくことが重要です。

②ブランド体験を通じて顧客にどんな気持ちになってもらいたいか、目標を立てる
プロジェクトの初期段階で、もう1つやっておいた方が良いことがあります。それは、「顧客にどんなブランド体験を提供したいか、どんな気持ちになってもらいたいか」という目標を定めておくということです。mctではそのような感情に関わる目標のことを「エモーショナルモチーフ」と呼んでいます。

ブランドによっては、既にこうした目標がある場合も多いと思いますが、もしもない場合は、仮説的にでも先にエモーショナルモチーフを設定しておきましょう。

自分たちが目指しているエモーショナルモチーフの状態に対して、実際に、顧客がMOTで感じている感情はどのようなものなのか、理想とギャップを浮き彫りにしながらインタビューや観察をしていくことができます。


タクシー配車アプリサービスの仮説のエモーショナルモチーフ例。

③MOTでの期待と実際の体験とのギャップを深掘りする
次に、インタビューや観察のステップでは、MOTにおけるインタラクションに対して、顧客が事前にどんなことを期待・予想したか、また実際に体験した時にどう感じたのかについて明らかにします

人は意識的・無意識的かに関わらず、何かを体験する時には、何らかの期待・予想をしています。もともとの期待と実際の体験とのギャップが大きければ大きいほど、そこでの顧客の感情の振れ幅も大きくなります。
また、前述の「エモーショナルモチーフ」(理想の状態)と、現実のギャップを見ることも重要です。

顧客が体験したことが「期待通り」だったのか、「期待以上」「期待以下」だったのかを考察する。期待が分かっていないと、どれくらい満足・どれくらい不満だったかというギャップは分かりづらくなる。

また、そこで感じた感情は、その次の顧客の行動や意思決定(例:契約を続行する、取りやめる、他社にスイッチする等)に影響を与えます。その影響のインパクトが大きいインタラクションは、企業としてやはり優先度を上げて取り組まなければならない、勝負の瞬間となるMOTと言えるでしょう。

この影響についての分析時に注意しなければならないことは、そのインタラクションでのできごとを表層的に理解するだけではなく、「実際に体験したことから、顧客はどんなことを連想するだろうか」と想像力を働かせることです。
スカンジナビア航空のCEOが「もしもトレイテーブルが汚れていれば、乗客はその飛行機のエンジンも汚れていると思う」と危機感を感じたように、一見、些細なタッチポイントかもしれませんが、場合によってはブランド体験全体を左右するような手がかりになる可能性があります。

1つのインタラクションから、例えば下記のような広がりを持つ可能性があるかどうか検討します。また、インタビューの時にそれぞれのつながりをしっかりとヒアリングできているとその後の分析がしやすくなります。


  • ラダーアップ的なブランドイメージへの連想
  • 他のインタラクションの連想といった横へのつながり
  • 過去の経験を思い出すといった過去へのつながり
  • 未来を連想するといった未来へのつながり


④指標を用いてMOTを選定する
インタビューなどのリサーチがある程度終了したら、改めて仮説で立てていたMOTについて見直します。


  • 本プロジェクトにとって本当に重要なポイントだったのか
  • そこで起こっている問題やその要因についての理解は妥当だったのか
  • 他にユーザーのジャーニーの質を左右する重要なポイントはなかったのか


特に仮説のMOTが企業目線での書き方になっていた場合は、「ユーザー目線で、このMOTを捉えるとどう見えているのか」という視点で書き直す必要があります。また、
つい自社の既存の業務フロー・サービスの範囲内でMOTを設定しがちですが、あくまで「顧客が大量の感情エネルギーを注ぐ瞬間」がどこであったか、という視点でMOTを見直しましょう。

例えば最近、友人が体験したことですが、コ・ワーキングスペースを利用した際、その空間やスタッフの対応が良く、期待以上で満足していました。ところが後日、クレジットカードの支払いトラブルがあり、二重支払いになっていた代金を返金してもらうことに。その時の対応が遅く、また返金完了後の連絡もなく、最終的にとてもがっかりしたということでした。支払いフェーズは外部のシステム会社が担当しており、対応に遅れが出てしまったようですが、顧客からするとそれはどの会社が対応していようと「同じブランド体験」なので注意が必要です。

いくつかMOTの候補が複数出て、どれが重要か決める必要がある場合には、以下のような指標を用いて「MOTを選ぶ」ということも必要になります。


  • 顧客にとっての重要度:顧客が大量の感情エネルギーを費やしているか
  • 自社にとっての重要性:商品、ブランド、サービスに対する強固な印象を形成し、その後の顧客の意思決定に影響を与えているか


自社として、特に優先すべきMOTを選定する。

MOTを特定する上では、市場での競合プレイヤーが実際に実施できている/できていない施策を分析して自社が注力すべきところを再検討したり、業界を超えて劇的にCXを向上させるために、異業種の進んでいるプレイヤーの施策を参考にするといった視点も重要になります。競合調査のポイントについてはまた別の機会にお伝えできればと思います。

⑤MOTでの出来事をできるだけ具体的に表現する
具体的な施策アイデアを出し、優先順位を決められたら、それがジャーニーマップ上のMOTにて、どのような出来事になるのかを物語として構築します。ここでのポイントは、できるだけそのシーンを詳しく検討し、表現する、ということです。

複数のアイデアをつなぎ合わせてストーリーボードを描くということは多くのプロジェクトで既に実施されていると思いますが、例えばそこでの「どんな一言」や「どんなビジュアル」が、顧客に「どんな気持ち」を起こさせるのか。またその感情からユーザーを「どんな行動に駆り立てる」のかを検討します

ストーリーボード全体をそこまで詳しく描く必要はありませんが、MOTにおいてはできるだけそのシーンのBefore→Afterを詳細に表現してみると、よりリアルに改善の方向性を把握できるようになります。


As-is  (現状)のMOTの表現例。実際の診察時に、医師からのどんな言葉・態度があったかが分かる。また、それに対する患者目線での受け取り方がイメージできる。

To-be(理想)の、施策アイデアを反映したMOTの表現例。何を用いて、どんな言葉で、何を患者に伝えなければならないかが具体的に分かる。

いかがでしたでしょうか。
過去にデザインプロジェクトで何となく散漫なアイデア出しに終始してしまったという場合には、MOTに焦点を当てたプロジェクト推進にトライしてみることをお勧めします。

また、「MOT」という言葉は最近よく聞く言葉であり、何となく理解しやすい概念ではありますが、実は人によってその定義やイメージがバラバラだった、ということもよくあります。プロジェクトをスタートさせる時点で、そのチームにおいては何をMOTとして取り扱うのか、しっかりと認識合わせをしておくことも重要かと思います。

本ブログが、みなさまのプロジェクト進行の参考になるようでしたら幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました!

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