2024.03.18
Blog|EPIC カンファレンス 2023 in Chicago
昨年10月(2023年)にシカゴのイリノイ工科大学(IIT)で開催されたEPIC 2023に参加してきました。
EPICはビジネス・エスノグラフィーに関するカンファレンスで、毎年開催地が変わります。北米を中心に、北欧のコペンハーゲン、欧州のロンドンやアムステルダム、2010年には東京でも開催されました。グローバルに開かれたカンファレンスです。(過去の開催地はこちら)
年ごとに設定されたテーマに沿って、キーノートスピーチ、プロジェクト事例発表、ワークショップ等が開催され、各国の多様な業界からサービスデザイナー、エンジニア、デザインリサーチャー、NPOや行政機関スタッフなどが集います。mctも2008年から度々参加していますが、今回の会場となっているイリノイ工科大学は、弊社が同大学のVijay Kumar教授からデザインイノベーションの手法を習得していることもあり、縁のある場所です。(mctのHISTORY参照)
今回のカンファレンステーマはFriction(摩擦)でした。イノベーションが生まれるところにはFrictionが存在する。Frictionを避けるのではなく積極的に発見し、その複雑で生産的な力を引き出すことに取り組むべきだ、というメッセージが込められていました。
ホールでは事例発表やワークショップ、講堂ではパネルディスカッションやキーノートスピーチが開催。
登壇者はFrictionというテーマに沿って事例を発表しますが、EPICはカンファレンスであると同時にコミュニティであり、それぞれのプレゼンテーションは良い意味でとてもカジュアルで、結論ありきではない、登壇者と聴衆の間で様々な意見交換ができるような内容と雰囲気があります。
対話を通じて、現在様々な国で活動しているカンファレンス参加者が持っている共通の課題感や関心が浮かび上がり、今後どのような姿勢でそれらに向かっていくのか考える起点が生まれています。
今回の共通の課題感や関心は、AIとEquity(公平性)でした。多くの話題にこれらの観点が含まれていた印象です。
Ovetta Sampson氏、大きな声で情熱的に語りかけていて、さながらゴスペルの演奏会のよう。
キーノートスピーカーの一人、Googleで機械学習のUXディレクターをしているOvetta Sampson氏は、機械学習は過去のデータを元に将来の出来事を予測するため、入力データには慎重である必要があり、モニタリングが重要であることを強調しました。さもなければ、偏ったデータによって、倫理的な問題やバイアスが深刻な影響を与える可能性があります。リサーチャー、エスノグラファー、デザイナーが、Human Centered Designのアプローチによって、人々がアルゴリズムによって害を受けるリスクを軽減する役割を担うべきだと指摘しました。
参加者は周囲の意見に真剣に耳を傾けつつ、誰からともなく積極的に意見が出続け、関心の高さが伺えた。
キーノートスピーチやプロジェクト事例発表の合間には、ランチを食べながらEquityに関するワークショプが開催され、デザインリサーチにおいてEquityを担保するために、私たちは何に気をつけなければならないかについて、参加者の経験に基づいた意見交換が行われました。
EPICのEquityに関するステートメントを題材に、以下のような課題にどう立ち向かうべきかが問われ、参加者はグループに分かれ、日頃実践していることを共有し、アイデアを考えました。
・代表性と採用:リサーチ対象者の代表性は担保されているか?
・組織の理解とサポート:エスノグラファーの活動が制限されていないか?
・見せかけの公平性と本心:リサーチがパフォーマンス的な取組みになっていないか?
・文化的およびロジスティクスの壁:文化的な背景や事情が配慮されているか?
・認識と固定観念:先入観によって偏見のレンズをかけていることはないか?
AIについては日本でも多く話題になっている一方、Equityは日本とは一段異なる深刻さ、真剣さがあるように感じ、日本とグローバルの意識の違いを感じました。
割合としては欧米からの参加者が多かったので、文化が大きく異なるアジアからの登壇者は注目を集めていた印象。
カンファレンスではもちろんAIやEquity以外にも多くのトピックがあり、どれも実践に基づく話で参考になるものばかりでした。例えば以下のセッションは、個人的に関心をもっているインクルーシブデザインとも重なるところがあり特に興味深い内容でした。
●Intergenerational Living: Thai Cultural Frictions and Taboos in Changing Times
―Adisorn Supawatanakul, Teak Research Co., Ltd
→タイの多世代住居における世代ごとに異なる隠れたニーズをエスノグラフィーやコ・クリエーションのアプローチで明らかにし、新しい不動産のかたちを開発した事例
●"Let's Chat!": Prototyping, Productive Frictions, and Radically Restructuring Adolescent Sexual Health Counseling Interactions
―Amanda Geppert, Center for Interdisciplinary Inquiry & Innovation in Sexual & Reproductive Health (Ci3) at the University of Chicago
→若者の性の健康カウンセリングにおける効果的な介入方法を、プロトタイピングの手法と参加型デザインのアプローチを組み合わせて、青年期の当事者とともに開発した事例
今後もグローバルのデザイントレンドを把握しながら、解決したい問題や課題に合わせた効果的なプロジェクトをご提案していきたいと思います。
mctのnoteの記事には、さらに詳細な内容と率直な感想・学びを書いていますので、そちらもぜひご覧ください。
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Yohei Ushijima
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