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2025.06.05

Blog|DMN2025 「価値づくり」のレンズを掛け替える重要性



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変化の激しいビジネス環境において、企業が持続的に成長していくためには、「価値づくり」に対する考え方をアップデートしていく必要があります。どのように顧客やパートナーと共に価値を創造していくか。そのための視点、すなわち「レンズ」を掛け替えることの重要性について、「Value Co-creation 「価値共創」の視点で価値づくりの未来を描く」と題されたセミナーの内容からご紹介します。
  
 

 

Value Co-creation / 「価値共創」の視点で価値づくりの未来を描く / 藤川佳則氏

 
こんにちは! mctの下野です。 
2025年度のDMN(デザインマネジメント・ネットワーク)が開催されています。DMNとは、ビジネスデザイン、イノベーション、DXを学び、組織に改革を起こす人材育成のための年会費制プログラムです。
5/22は藤川佳則氏による「価値共創」の視点で「価値づくり」の機会を探索するワークショプが開催されました。
 
 
DMN 2025 講師紹介1_藤川
 

講師紹介

藤川佳則氏(以降、藤川先生) / ⼀橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻教授
一橋大学経済学部卒業。同大学院商学研究科修士。ハーバード・ビジネススクールMBA(経営学修士)、ペンシルバニア州立大学Ph.D.(経営学博士)。ハーバード・ビジネススクール研究助手、ペンシルバニア州立大学講師、オルソン・ザルトマン・アソシエイツ(コンサルティング)、一橋大学大学院国際企業戦略研究科 (一橋ICS) 専任講師、准教授、同経営管理研究科国際企業戦略専攻 (一橋ICS) 准教授を経て現職。
 
 
目次 
1. 世界経済のメガトレンドと両利きの経営
2.「価値づくり」を捉える3つのレンズ
レンズ1:グッズ・ドミナント・ロジック(GDL)
レンズ2:サービス・ドミナント・ロジック(SDL)
レンズ3:マルチ・サイド・プラットフォーム(MSP)
3.セミナーでの体験と参加者の学び
 

世界経済のメガトレンドと両利きの経営

現在、私たちの社会は地球規模で数十年単位の変化の真っただ中にいます。この変化は、以下の3つのキーワードで捉えられます。
 
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  • SHIFT(シフト):世界経済のサービス化の進展。経済の中心が製造業からサービス業へとシフトしています。
  • MELT(メルト):産業の垣根がますますあいまいになりつつある現象。製造業のサービス化やサービスのモノ化が進み、業界の定義が難しくなっています。

  • TILT(ティルト):世界経済の重心が北半球中心から南半球中心に傾きつつある現象。イノベーションが南半球から生まれる例(モバイル決済、マイクロファイナンシングなど)も見られます。
また、私たちはポストデジタル、ポストパンデミックの時代に生きています。デジタルが当たり前になった環境、そしてパンデミックを経て地球の繋がりを強く実感するようになった世界です。 このような環境下では、既存のビジネスを拡大する能力と、新しい機会を捉える能力の両方が求められる「両利きの経営」が重要になります。 
 

 「価値づくり」を捉える3つのレンズ

私たちは知らず知らずのうちに特定の「レンズ」をかけて価値づくりを捉えています。このレンズを掛け替えることで、今まで見えなかった未来の可能性が見えてきます。セミナーでは、価値づくりを捉える3つのレンズが紹介されました。
 
 

レンズ1:グッズ・ドミナント・ロジック(GDL)

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  • 前提:経済活動の中心は物理的なモノの生産と売買であるという考え方
  • 価値づくりの主体:価値を作るのは企業であり、顧客はそれを消費する主体である
  • 価値づくりの場所:価値づくりは主に組織の中に閉じ込められる
  • 価値の捉え方:価値づくりには終わりがあり、バリューチェーンの終点で発生する市場交換経済での価値(交換価値)の最大化を目指す
このレンズだけでは、産業の垣根が曖昧になり、限界費用がゼロに近づく現代の変化に対応しきれません。
 
 

 レンズ2:サービス・ドミナント・ロジック(SDL)

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  • 前提:価値づくりは継続的なプロセスであり、企業と顧客が共に価値を創造する(価値共創)。
  • 価値づくりの主体:顧客も価値創造の主体となる。お客様が取る行動そのものが価値づくりに貢献します。
  • 価値づくりの場所:価値づくりの源泉は組織内部だけでなく、お客様のリソースも含め、あらゆる場所にあるという考え方 。価値連鎖(バリューチェーン)ではなく、価値星座(バリューコンステレーション)という発想で捉えます。
  • 価値の捉え方:製品やサービスの使用段階で生まれる価値(使用価値)に焦点を当てます 。

レンズ2の事例

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コマツのコムトラックス
建機の稼働データを収集・分析し、顧客(建設会社)と共有することで、現場のマネジメント改善や燃料費削減に貢献。メーカーとお客様が繋がり、お客様の行動データから価値を共創しています。
 
ナイキプラス
ランニングデータをユーザー間で共有し、他のユーザーのデータも参考にすることで、自身のランニング体験を向上させます。シューズというモノを通じて、お客様とメーカーが繋がり、お客様の行動から価値を共創しています 。
 
ウェザーニュース
ユーザーからの主観的な気象情報(桜の開花状況、雲の写真など)と客観データを組み合わせ、ゲリラ雷雨予報などきめ細やかな情報を提供。お客様の協力が予報精度の向上に繋がり、お客様自身の価値となります(価値共創型のビジネス)。
 
ブックオフ
本を「買い取って売る」という従来の古本屋のビジネスを超え、本を「売りやすくする」ことに焦点を当てることで、お客様が気軽に本を売買し、本棚のスペースを確保できるという価値を提供。
 
 
 

 レンズ3:マルチ・サイド・プラットフォーム(MSP)

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  • 前提:レンズ2を拡張し、企業と顧客だけでなく、複数の異なるプレイヤー(サイド)間での価値共創と交換を捉える 。これはテクノロジー的なプラットフォームだけでなく、価値づくりの視点でのプラットフォームを指します。
  • 可能性:サイドの数が増えるほど、価値づくりの組み合わせや課金の可能性が広がります。

レンズ3の事例

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Airbnb
ホストとゲストのツーサイドで始まりましたが、保険会社、地元ビジネス(レストランなど)、観光産業などを巻き込み、マルチサイドプラットフォームへと拡大しました。それぞれのサイド間で異なる価値づくりと多様な課金方法を実現しています。

ネスカフェアンバサダー
中小企業向けプログラムですが、バリスタマシンを無償提供し、カプセルを販売するネスレに加えて、ファンケルなどの他社も健康志向のカプセルを販売。ネスレはファンケルに課金するというモデル。アンバサダーとその同僚、カプセルメーカーというツーサイドプラットフォームと見ることができ、競合すらも価値共創者となり得ます。
 
ライフストロー
携帯用浄水器という製品ですが、レンズ1の視点(製品販売)だけでは収益化が難しい状況でした。しかし、レンズ3の視点で捉え、アフリカのケニアで無償配布。これにより水汲みの負担軽減や子供の就学といった社会課題を解決し、同時に燃焼量の削減によるカーボンクレジットを創出。このクレジットを民間企業にプレミアム付きで販売することで収益化。ケニアの皆さん、国際機関、民間企業という3つのサイドで価値を共創し、一部のサイドに課金するというビジネスモデルを構築しました。
全く同じ商品でも、レンズを掛け替えることで価値づくりのデザインが大きく変わる可能性を示しています。
 
これからの新しい価値づくりを実現するためには、組織のあり方そのものが問われます。顧客との新しい接点を作り、今までと異なる業績評価の仕組み(例えば、モノを売った後、お客様にどれだけ使ってもらったかで評価するなど)に変えていく必要があります。これはまさにDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進であり、カスタマーエクスペリエンス(CX)と従業員エクスペリエンス(EX)の両方が重要になります。
 
 
 

 セミナーでの体験と参加者の学び

セミナーでは、参加者自身がこれらの変化(SHIFT, MELT, TILT)が自社にとって最大の機会か脅威か 、また自社の事業をレンズ1とレンズ2/3で見たときにどのように見えるか 、レンズを掛け替える可能性やその難しさ、乗り越え方についてワークショップ形式で議論しました。

 参加者からは、TILTを機会、MELTを脅威と捉える意見や、レンズを掛け替えることで見えてくる可能性についての気づきなどが共有されました 。 また、「レンズ1, 2, 3」や「使用価値/交換価値」「価値共創」といった共通言語があることで、異業種の人たちとも事業の機会や難しさについて深く議論できることを実感しました 。組織内でこのような共通言語を話せる人を増やすことが今後の課題となるでしょう。

セミナーの最後には、参加者自身が本日のセッションを通じて「知らなかったこと」「関心が高まったこと」「すぐに実行に移すこと」を振り返るワーク(Tracing)が行われました。事例が豊富でフレームワークも分かりやすく、持ち帰りやすい内容だったという感想も聞かれました。

現在かけているレンズを意識し、必要に応じて掛け替えることで、自社の事業の未来を多様な角度から捉え、新たな価値創造の機会を見出すことができる。本セミナーは、そのための重要な視点と具体的な示唆を与えてくれる内容でした。
 
 

DMN2025について

DMNとは、ビジネスデザイン、イノベーション、DXを学び、組織に改革を起こす人材育成のための年会費制プログラムです。参加者同士の議論を通じて学びを深める参加型のスタイルが大きな特徴です。「リーダー向け」「中堅向け」「若手向け」それぞれに対してプログラムを展開しており、1つのアカウントをチーム内で共有することが可能です。
変化が激しく、将来の予測が困難な時代。だからこそ、未知の未来を見通し、新たなビジネスを創出し、推進できるマインドセットを持つ人材が求められています。持続的な成長を支えるイノベーション・デザイン・DX人材育成のための選択肢としていかがでしょうか?
お試し体験やオンラインモニターなども募集していますのでお気軽にお問い合わせください。
 
 
 

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