Insight Blog

2025.08.04

Blog|DMN2025 顧客が「本当に求めているもの」を見つけ出す技術



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皆さんは、顧客のニーズをどこまで深く理解できていますか?

もし顧客が「もっと速い馬が欲しい」と言ったときに
「速い馬の提供方法」を考えてしまっていませんか?

表面的な声ではなく、その奥にある
「本当に求めていること」を見つけ出すこと。
それこそが「インサイト」です。

先日開催されたDMN2025 ユーザーインサイトでは、
インサイトをどのように導出し、プロジェクトに活かすかについて、
実践的なワークを通して学びました。

その内容をアジェンダに沿ってご紹介します。

  

 
こんにちは! mctの下野です。
 
2025年7月23日、DMN2025にて「Customer Insight/ユーザーインサイト DESIGN TRAINING PROGRAM」のワークショップを開催しました。講師は弊社執行役員でデザインインサイトユニットの佐藤と小仲が担当しました。
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講師紹介

佐藤 武史/ストラテジスト
現職現職ではサイエンス(研究テーマ策定など)やデジタルが得意領域。バイオテクノロジー(生物学)とカウンセリング(心理学)がバックグラウンド。仕事とは関係ないですが、薬膳について修行中です。

小仲 涼/エクスペリエンスデザイナー
製薬系の案件や研修案件などに携わることが最近は多いです。短歌が好きでちょこちょこ歌会に行ったり行かなかったりしています。
 
  
目次
1. インサイトとは?その本質と重要性
2. 概観を掴むためのプレリサーチ
3. 効果的なインタビュー設計
4. インサイトの深掘りと表現の重要性
5. まとめ:実践から学ぶインサイトの導出と活用法
 
 
インサイトとは?その本質と重要性
この講義ではインサイトを、「顧客が本当に求めていること」と言語化しました。
単に顧客が言葉にした要望を指すのではなく、その根底にある真のニーズを指します。

ヘンリー・フォードの有名な言葉(諸説あり)、「もし顧客に彼らの望むものを聞いていたら、もっと早い馬が欲しいと答えていただろう」がこの本質をよく表しています。もしインサイトを導き出さずにこの言葉をそのまま受け止めていたら、「馬を速く走らせる方法」という枠の中でしか思考が及ばず、馬が走りやすい道路を整備したり、馬のトレーニング方法を考えたりするに留まったでしょう。

しかし、顧客の「もっと早く移動したい」というインサイトを捉えることで、馬よりも速い移動手段、つまり自動車等の「広い可能性」の中から顧客のニーズに沿ったものを生み出す発想が生まれたのです。
 
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mctでは、インサイトを以下の要素を持つものと定義しています。
・顧客が本当に求めていること。
・新しい視点が得られること。
・プロジェクトを前に進めるヒントになること。
・自分ごととして理解・共感できること。

ただ、インサイトは顧客が明確に言葉にするとは限りません。
そのため、得られた顧客の声や情報から、分析する側がインサイトを導き出す必要があります。リサーチで得られた「事実の断片」(顧客の声、アンケート回答など)は、そのまま有用であることは稀です。これらを「解釈」や「リフレーム」し、「分析」を重ねることで、プロジェクトで活用できる「有益な情報」、すなわちインサイトとして「熟成・昇華」させていくことが求められます。

ここからは模擬テーマとして「乳がん検診の受診率を引き上げる施策を開発したい」を考えながら、デザインリサーチのプロセスやテクニックについて体験しながら学んでいきました。
 
 

概観を掴むためのプレリサーチ

インサイトを導出する第一歩として、現状把握やプレリサーチが重要です。なぜプレリサーチを行うのでしょうか?それは、既に分かっていることを把握し、今回のリサーチで「知りたいこと」を明確にするためです。分かっていることを再度リサーチするのは、時間的・資源的に非効率だからです。
 
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情報整理の方法として挙げられるのは、まずは関与スタッフと情報の棚卸です。たとえば乳がん検診について「すでに分かっていること」を洗い出し、逆に「さらに深めていきたいこと」や「今回の調査で知りたいこと」を議論します。アウトプットがどう使われるかを把握することも大切です。

近年では、リアルタイムウェブ検索が可能な生成AIサービスなども出てきているので、こういったサービスを活用して広範囲の情報を効率的に収集することもできます。ただし、やみくもに行うと情報過多に陥る可能性があるため、重要な情報に目星をつけながら進めるのが良いとのことでした。
 
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AIリサーチのサンプルとして提示された「給湯器点検ビジネスについてのプレリサーチ」では、「見知らぬ業者からの電話や訪問に対して警戒心や不信感を抱くことが多い。」ことや、「悪質な手口が知られているため、「高額な出費につながるのではないか」という不安がある」といった結果が示され、プレリサーチだけでも顧客の根底にある心理レベルの課題に気づくきっかけになりそうです。
 
 
 

効果的なインタビュー設計

プレリサーチを経て、リサーチの目的を「乳がん検診を受けるにあたって、実際どんなハードルや障壁が存在しているのか」と設定したうえで、これを深掘りするために、どのように設計していくべきかについて紹介がありました。大きくは「対象者」と「質問項目」の2点になります。
 
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■対象者:どんな人たちにリサーチを行うか。
対象者を検討するうえで、その対象者の条件を「必須条件」「優先条件」「割り付け」の観点で整理していきます。

必須条件は対象者の大前提となる条件です。たとえば、乳がん検診を受ける可能性がある「女性」や、乳がんの好発年齢である「40代から60代」などが挙げられます。また、「既に乳がんと診断された方」といった除外の条件を考えることもあります。

優先条件とは、必須条件をクリアした対象者群の中から候補者をピックアップする際に参考にする条件です。たとえば、「医療関係者(看護師など)」は、乳がんに関する専門知識を持っている可能性があり、回答にバイアスがかかる可能性があるので優先順位を下げたい、といった検討を行います。

割り付けとは、対象者内で比較分析をおこなうためや、発言に偏りがでないようにバランスを取るために用いられるアプローチです。例えば、「乳がん検診を定期的に受けている方と受けていない方を半数ずつ獲得する」や、「40代、50代、60代を均等に獲得する」などが挙げられます。


■質問項目:どのようなことを聞き出すと良いか。
リサーチを行う上で、対象者にどのような質問をどのような順番で投げかけ、どのように深掘りしていくのかを整理していきます。
 
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このあたりはリサーチテーマによっても変わってきますが、「乳がん検診を受けない理由を教えてください」のような直球の質問をしたところで、相手が明確な答えを持っていなかったり、表面的な回答しか得られないことがあります。
そのため、問いかけによって思考を促し、段階的な質問で深掘りし、対象者が言語化できるように支援していきます。

例えば「乳がん検診を受けない理由は?」と直球で聞いても特に理由が思い浮かばない方でも、「乳がん検診に対するイメージは?」など質問を重ねることで、「そういえばマンモグラフィーが痛いと聞くから受けたくないのかも」と検診を受けたくない理由を引き出せるかもしれません。
 
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また、対象者にとって「答えやすい質問」と「答えにくい質問」がありますので、まずは答えやすい質問からから入り、その後に、感情や価値観へと徐々に深層心理に迫ることで、より豊かな回答を引き出せます。


■プレリサーチとインタビューの比較
セッションでは、乳がん検診に関するプレリサーチと実際のインタビュー結果の比較が示されました。
プレリサーチでは「リスクをイメージできない」「費用を払う余裕がない」「恥ずかしい」といった理由が挙がり「自分ごと化してもらうのが最も大事」という仮説が導かれました。
 
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しかし、実際のインタビューでは「行こうと思ってもどこの病院を選んでいいか分からない」「病院リストが見にくく、探すのが億劫になる」といった「生の課題」が明らかになりました。これにより「受診意欲はあっても、そのやる気を削ぐ要素があることが問題だった」という、より深いインサイトが得られました。
 
 

インサイトの深掘りと表現の重要性

得られた情報からインサイトを抽出するフェーズでは、顧客の発言・行動・感情から、本音や困りごとを掘り下げ、自身の気づきや解釈、仮説を持って分析を進め、適切に表現する必要があります。

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インサイトが社内で「当たり前」と捉えられたり、アイデアに繋がりにくいと感じられたりすることがあります。これは、若者があらゆる事象に対して「ヤバい」という表現しかできずに伝わらない現象と似ています。つまり、どちらもインサイトの本質的な魅力を表現・言語化できていないということです。このような場合、インサイトをより深く解釈したり、これまでになかった「新しい切り口」で再解釈したりするなど、インサイトをクリアに意図を伝える表現を模索する必要があります。

インサイトを分かりやすく「まとめすぎる」と、本来伝わるべき深い情報が抜け落ちてしまうことがあります。例えば、「情報がたくさんあるけれど、結局どれが自分に合っているか分からない」という発言から、「欲しい情報が得られなくて困っている」とまとめると、「情報をたくさん提供すれば解決する」という誤った施策につながりかねません。「伝えやすさ」と「伝わる深さ」は別物であり、有用なアイデアに繋げるためには、調査で得られた「暗黙知」や「文脈」を削らずに伝える表現が鍵となります。

そこで、より良いインサイトを導出するためのテクニックが紹介されました。

■細分化(難易度:中)
漠然とした「検診を受けないリスクをイメージできない」という情報も、「基本知識がない」「身近な人との会話がない」「若いから大丈夫と思っている」といった具体的な要因にブレイクダウンすることで、より豊かな「暗黙知」が描かれ、示唆に富んだインサイトになります。

■切り口を変える(難易度:高)
調査データからは直接見えてこなかった視点を「想像力」で加えることで、インサイトはさらに面白くなります。例えば、乳がん検診へのハードルに「学歴が影響するのではないか」「地域によってプロモーションが違うのではないか」「子供の有無が影響しているのでは」といった視点があります。

インサイトの表現においては、単に事実を語るだけでなく、「なるほど」と納得させる信頼性、「そうなんだ!」という意外性、そして「確かに大事だよね」という共感を呼び起こすような言葉を選ぶことが、よりパワフルなインサイトへと繋がります。


■インサイトの評価と活用のポイント
ただし、インサイトは、ただ導き出せば良いというものではありません。それがプロジェクトに活用できるものであるか、適切に評価することが重要です。mctでは、インサイトの評価軸として以下の2つを挙げています。

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1:新規性、新しい発見であるか。
2:アイデアにつながる、今後に活用できるか?
 
得られた内容が新しい発見であり、かつ人々に喜びをもたらし、具体的なアイデアにつながるインサイトを目指すことで、その後の施策開発や既存アイデアの改善フェーズで効果的に活用できるようになります。
 
 

まとめ:実践から学ぶインサイトの導出と活用法

本セッションを通して、インサイトの導出と活用に関する重要なポイントを学びました。
 
 
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1. インサイトとは、顧客が本当に求めているものであり、新しい視点やプロジェクトを進めるヒント、そして自分ごととして共感できる要素を持つ。

2. インタビューで得られた情報を「細分化」したり「構造化」したりすることで、ありきたりな表現から抜け出し、より具体的で活用しやすいインサイトへと磨き上げる。

3. インサイトは出して終わりではなく、その後のアイデア創出などに繋がるよう、その「有用性」をきちんと評価することが大切である。
 

これらの学びを活かし、皆さんも日々の業務で顧客の真のインサイトを探し、より良いサービスや製品の開発につなげていきましょう。
 
 

DMN2025について

DMNとは、ビジネスデザイン、イノベーション、DXを学び、組織に改革を起こす人材育成のための年会費制プログラムです。参加者同士の議論を通じて学びを深める参加型のスタイルが大きな特徴です。
変化が激しく、将来の予測が困難な時代。だからこそ、未知の未来を見通し、新たなビジネスを創出し、推進できるマインドセットを持つ人材が求められています。持続的な成長を支えるイノベーション・デザイン・DX人材育成のための選択肢としていかがでしょうか?お試し体験やオンラインモニターなども募集していますのでお気軽にお問い合わせください。
 
 
 
 

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