2023.05.25
イノベーションのためのファシリテーターの役割
こちらはイリノイ工科大学デザインスクールのヴィジェイ・クマー教授が著した『101デザインメソッド』をもとに、デザイン思考を紹介するコーナーです。同書では、段階に応じて分けられた7つのモードごとに、プロジェクト内での問題を解決するためのメソッドが紹介されています。これらのメソッドをモードに応じて使い分けていればイノベーションを生むプロジェクトが成立するかといえば、実際そうはいきません。そこにはツールとしてのメソッドだけでなく、プロジェクトを"進める力"が必要だからです。今回はこのファシリテーションについてご紹介します。
イノベーションを起こすプロジェクトには、「今までとは異なる新しいもの」をどう自社が提供できるのかを模索する段階があります。その中で、プロジェクトを推進しているリーダーやディレクターはしばしば、「アイデアは出たが目新しくない」「アイデアのレベル感が何かズレている気がする」「アイデアが発散し、時間内に収束できなかった」といった、課題に直面しているようです。
これらの多くは、ファシリテーションがうまく機能していないことが問題となっています。そのリスクを回避する目的で、プロジェクトの推進者は以下の2つのポイントを押さえながらファシリテーションを推進することが求められます。
ポイント1:発想の場を整える
サンダース教授の言葉にもあるように、アイデア発想の場は多様化しています。さまざまなステークホルダーをデザインプロセスに関与させることで、よりユーザー視点での製品やサービスを生み出そうとする試みが行われるようになった一方、デザインに関する経験が少ない人(いわば"デザインの素人")が関与することで「アウトプットの方向性がまとまらない」という事態も想定されます。ファシリテーターは彼らをサポートし、彼らの魅力を引き出してあげなければなりません。
デザインプロセスにおいて「何が問題であるのか」を捉えながら進めることは、経験者でも難しいこと。しかし、イノベーティブなアイデアを生むには、参加者自身が自分の中で問題を捉えなおし、主体的に未来のサービスや製品を作ることをできる環境を整えてあげることが重要になってきます。つまり、イノベーションにつながる魅力的なアイデアを出しやすい「発想の場」を整える役割を担います。
ポイント2:目標のマネジメント
プロジェクトには7つのモードがあり、それらモードにはそれぞれ達成すべき目標があります。
ファシリテーターは限られた時間の中で、その場の成果物のクオリティや目標に対する相応しさをマネジメントする役目があります。この場合、「従来の枠を超えたアイデアとなっているのか?」「そのアイデアによって本当にニーズは満たされるのか?」といった問いを持ち続けながら、その場の成果物が目標に近づいていくことをコントロールしていきます。
さらにプロジェクト全体を見ると、7つのモードではそれぞれ意識すべきチェックポイントが異なります。例えば、以下のようなものがあります。
モード3:顧客の振る舞いや顧客が語ることは、それが真実だと感じられるか。
モード3-4:気づきは競争のレベルを変える上で、十分に興味深いものであるか。
モード4:インサイトは顧客が求める実現可能なアイデアを出す上で役立つものとなっているか。
モード4-5:モデル、原則、フレームワークは効果的にアイデア出しをサポートするか。
それぞれのモードに沿って「最も考慮するべき問い」を設定し、その目標に近づけているか確認しながら、ツールを選択・カスタマイズしていくこと、また、それらが次のモードの目標へとつながっていくようコーディネートすること。それが、プロジェクトを推進するファシリテーターのもうひとつの役割です。
ファシリテーターは、体系立てられたデザイン思考のプロセスに沿いながら、これらの役割を担うことで、よりイノベーションを起こしやすいプロジェクトにしていくことが可能です。しかし一方では、ファシリテーションはプロジェクトメンバーが同じ目標に向かって進むためのサポートツールにすぎないということも考慮しなければなりません。
第一回目の投稿でもお話しした、企業内での「イノベーション文化の醸成」が浸透し、プロジェクトメンバーそれぞれが、ファシリテーターと同じ目標を向いて進めていくことができているならば、イノベーティブなプロジェクトになるでしょう。
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Satoru Inoue
株式会社mct エクスペリエンスデザイナー/エスノグラファー
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