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2024.09.27

Blog|行動変容COM-B 第4回:「BtoBの行動変容」をどうデザインするか?

 

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これまでのシリーズブログでは、3回にわたって、COM-Bモデルの概要や活用イメージなどをお伝えしてきました。

第1回:「行動を変える」ためのインサイトをどう見つけるか?
 ⇒人々の長期的な幸せにつながるような行動変容をどう考え、どう進めるか? 
第2回:行動変容における「隠されたインサイト」
 ⇒言語化しづらい、潜在的な行動変容のブロッカー/ブースターをどう理解するか?
第3回:「興味がない人」の行動をどう変えるか?
 ⇒COM-Bを「興味がない人」へのアプローチにどう活用するか? 

本日の第4回目では、「BtoBビジネスにおけるCOM-Bモデルの活用可能性」についてご紹介したいと思います。



「BtoBビジネスでは製品スペックがすべてじゃないの?」

このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。たしかに、BtoBビジネスでは製品やサービスの機能性能が重視される傾向にありますが、実際のビジネスの現場では、関与者の「行動」や「意思決定」が想像以上に大きな役割を果たしています。

今回の行動変容COM-Bシリーズブログでは、BtoBビジネスにおける行動変容の重要性と、COM-Bモデルの活用可能性について二つの具体例を通してお話しします。

◆ヘルスケア業界における人間関係の重要性


製薬業界の例を見てみましょう。

医師へのインタビューを行うと、特定の製薬会社のMR(Medical Representative)との会話を好む医師に出会うことがあります。特に、慢性疾患など効果・効能に大きな差がなく、選択肢が豊富な領域では、人間関係の影響がより顕著になる傾向があると思います。 医師とMRの距離が近くなり、コミュニケーションの機会が増えることで、「このような背景を持つ患者さんには、弊社の薬剤を検討いただけないでしょうか?」といった、より個別化された提案の機会が生まれやすくなるのでしょう。

製品の効果・効能や安全性といった客観的な要素だけでなく、「MRと医師の関係性」という人間的な要素も、処方行動に少なからず影響を与えうるのです。(極端な例ですが、各社との関係性を考慮して「今から3ヶ月はA社の薬、次の3ヶ月はB社の薬を優先するよ」と、ローテーションで薬剤を使用している医師に出会ったこともあります)

一方で、オンコロジー領域など、使用可能な薬剤の選択肢が限られていたり、ガイドラインの影響が強い分野では、このような人間関係の影響は比較的小さいかもしれません。

しかし、オンコロジー領域で新薬が承認された場合などは少し状況が異なります。特に、アンメットメディカルニーズ(まだ満たされていない医療ニーズ)が強く残っているがん種の場合、リスクを踏まえつつ率先して新薬に期待して処方を検討する医師がいる一方で、未知の副作用への懸念や長期的な安全性データがまだ十分でないことを理由に処方を様子見する医師もいます。

このような状況下で、使用を様子見する医師に対して、どのようなアプローチが考えられるでしょうか?

以下に、オンコロジー領域の新薬のケースで考えられるCOM-Bモデル(Capability, Opportunity, Motivation - Behavior)を用いたアプローチの例を示します。

Capability(能力):
 ●MRが新薬の臨床試験データや安全性情報を正確に理解し、説明する能力を高める
 ●医師側では、新薬の作用機序や適応を正確に理解し、適切な患者選択を行う能力に貢献する
Opportunity(機会):
 ●学会やウェビナーなどでの新薬に関する情報提供の機会をつくる
 ●先行して新薬を使用している医師との意見交換の場を設定する
Motivation(動機):
 ●医師が抱く患者QOL向上への願望を刺激する
 ●新たな治療選択肢による治療成績改善への期待を高める

このようなCOM-Bアプローチを通じて、安全性を重視する医師の懸念に丁寧に対応しつつ、新薬がもたらす可能性のある利益について理解を深めてもらうことが肝要です。その結果、適切な患者さんに対して、慎重かつ適切に新薬を使用する行動変容につながる可能性が出てくると考えられます。

このアプローチは、単なる製品情報の提供を超えて、医師の意思決定プロセスに寄り添い、患者さんにとって最適な治療選択をサポートするMR活動の一例といえるでしょう。(実際、いわゆる「できるMR」は自然とこのようなアプローチを使っているのでしょう)
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Photo by Unsplash (charlesdeluvio) 

◆工作機械販売における「見えない価値」


もうひとつ、工作機械の販売を例に考えてみましょう。

ある工作機械Xを販売している営業マンAさんが、機械のスペック不足が原因で売上が伸びないと悩んでいるとします。一方で、同じ機械Xを販売する営業マンBさんは、順調に商談を進めています。

この違いは、何でしょうか?

工場への取材で頻繁に耳にするのが、「技術伝承をどうすればいいのか?」「トラブルが起きた際の対応のスピード感」といった、製品スペック以外の課題です。営業マンBさんは、こういった顧客の潜在的なニーズに対して適切に配慮できているのかもしれません。

一方で営業マンAさんは、機械のスペックや性能のみに焦点を当て、顧客の運用面での課題や長期的な支援ニーズを見落としているかもしれません。例えば、新しい機械の導入に伴う従業員のトレーニング費用や、生産ラインの一時的な停止によるコストを考慮せず、単純な性能比較だけで商談を進めようとしている可能性があります。

これらの例から分かるように、BtoBビジネスにおいても、製品スペック以外の要素が重要な役割を果たしています。つまり、「自社をもっと好きになってもらう」という意識変容のポイントをCOM-Bモデルで明らかにしていく余地は十分にあると考えられます。

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 Photo by Unsplash (LinkedIn Sales Solutions)

例: 工作機械Xの販売におけるCOM-Bモデルを用いたアプローチ

Capability(能力):
 ●営業マンが顧客の技術的課題を理解する能力を高める
 ●顧客側では、新しい機械を効果的に使用するスキルアップに貢献する
Opportunity(機会):
 ●顧客との対話の機会をつくる
 ●機械のデモンストレーションの場を設ける
Motivation(動機):
 ●営業マンの顧客課題解決への意欲を向上させる
 ●顧客の生産性向上への期待を向上させる

これらの要素を分析し、適切な施策を講じることで、単なる製品説明を超えた、顧客にとって真に価値ある提案が可能になると考えられます。


今回は、BtoBビジネスで大切なこととして、製品・サービスのスペックはもちろん、「行動」や「意思決定」が重要な要素であることをご説明してきました。

COM-Bモデルを活用することで、より効果的な営業戦略や顧客関係構築も可能になります。製品・サービスの優位性だけでなく、「人」に焦点を当てたアプローチを取り入れることで、ビジネスの成功確率を高めることができうるのです。



以上、4回のシリーズブログを通して行動変容リサーチについて考えてきました。次回は、これらのインサイトを用いたアイデア開発のコツについてご紹介します。お楽しみに!

【全5回の行動変容COM-Bシリーズブログ】
第1回:「行動を変える」ためのインサイトをどう見つけるか?
第2回:行動変容における「隠されたインサイト」
第3回:「興味がない人」の行動をどう変えるか?
第4回:「BtoBの行動変容」をどうデザインするか?
第5回:行動変容を促すためのアイデア開発手法

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