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2026.04.30

Series|近未来小説:気候の変化を乗りこなす生活者たち—#02(温暖化と​エアコン普及の​ジレンマ)



#02_温暖化と​エアコン普及の​ジレンマ
 

このブログは、近い将来、気候の変化に対応しながら生活を送る皆さんの物語です。
環境問題はもはや「意識すべき対策」を超え、「全ての前提となる適応すべき変化」となりました。
今回は、12の未来シナリオから
「温暖化とエアコン普及率のジレンマ」に焦点をあてたショートストーリーをお届けします。
 
 

涼しさの​代償〜温暖化と​エアコン普及の​ジレンマ〜

 
——2035年、大阪
 
晴人は8歳で、壁の染みを数えるのが得意だった。古い長屋の六畳間に家族三人、エアコンは一台。そのエアコンが今日も唸っている。大阪の8月は40度を超えることがある。去年はなった。おばあちゃんが「子どもの頃は35度で大騒ぎしていた」と話すたびに、晴人には少し前の人が信じられなかった。35度なんて、今では「ましな朝」だ。
 
「窓、開けたらあかんよ」とお母さんが言った。晴人は窓に伸ばそうとした手を引っ込めた。
 
窓の外、路地を挟んだ向かいには、去年建ったばかりの新しいマンションがある。壁面には室外機がびっしりと並んでいて、そこから吐き出される熱風が、この路地をさらに熱くする。学校の先生はそれを「ヒートアイランド」と呼んでいた。晴人はその言葉が好きじゃなかった。島みたいな名前なのに海風は無くて、少しも涼しくない。
 


夜、お母さんが「電気代、電気代」とつぶやきながらエアコンを消した。部屋はあっという間に蒸し風呂になった。晴人は汗をかきながら、窓から外をのぞいた。
向かいのマンションの一階にはコンビニが入っていて、自動ドアが開くたびに冷気がふわっと漏れ出している。涼みに入っていく大人たちの後ろ姿を、晴人はじっと見ていた。
#02
 
怒っているわけではなかった。ただ整理できなかった。あのコンビニのエアコンが吐き出す熱が、この路地に流れてくる。それで自分たちはもっと暑くなって、もっとエアコンが必要になる。そのエアコンがまた熱を出す。——これは、誰が止められるんだろう—— そう思いながら晩御飯を食べて、お風呂に入った。

お風呂から出ると、お母さんが再びエアコンをつけていた。「熱帯夜の警報が出ていたから、28度でつけてるよ。電気代よりは命を取らないとね。」晴人はほっとした。ほっとしたのに、すっきりしない。トイレへ行こうとすれば「ドアの開け閉めは最低限に!!」と、いつものように強く注意された。
 

二学期の最初の授業で、先生が聞いた。「夏休みに、気になったことはありましたか」
晴人は手を挙げる。
「エアコンをつけると暑くなって、暑くなるとエアコンをつける。今やめないともっとひどくなる。でも、やめたら死んじゃう。どうすればいいんですか?」

教室が静かになった。先生は少し考えてから言った。「それを今、世界中の大人が考えているところです」
晴人はノートに書いた。—— 今、考えているところ —— まだ答えが出ていないんだ、と思った。怒りではなく、純粋な驚きとして。窓の外では、今日も室外機が熱を吐き出していた。去年よりファンの音が少し大きい。
 

 

気候変動の未来を創造するために

2035年の8歳が当たり前に知っているこのジレンマを、私たちはどう乗り越えていけるのでしょうか。
現実の世界でも、すでに都市の形やビジネスのあり方は変わり始めています。

今回のテーマである「温暖化とエアコン普及率のジレンマ」をはじめ、【気候変動時代における未来シナリオブック】では、12個の厳選された気候変動適応の兆し(シグナル)と、そこから導かれる具体的な市場の可能性(未来シナリオ)をペアで詳しく解説。気候変動をどのような視点でとらえ、どのような発想をもとに商品戦略を構築していくか、具体的な取り組みイメージを提供しています。

小説の背景となったシグナルの詳細や、その他の兆しに興味を持っていただけた方は、ぜひ読んでみてください。

 


❙ Written by: Satoshi Kageyama, Mina soma
 

【連載】 Series|近未来小説:気候の変化を乗りこなす生活者たち
―#01 (日陰がインフラになった時代)
―#02 (温暖化とエアコン普及率のジレンマ)
―#03 ()
―#04 ()
―#05 ()
 

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