2026.05.08
Series|近未来小説:気候の変化を乗りこなす生活者たち—#03(気候災害が生む健康への二次被害)

このブログは、近い将来、気候の変化に対応しながら生活を送る皆さんの物語です。
環境問題はもはや「意識すべき対策」を超え、「全ての前提となる適応すべき変化」となりました。
今回は、12の未来シナリオから
「気候変動が生む健康への二次被害」に焦点をあてたショートストーリーをお届けします。
嵐の後に、緑が灯る 〜気候変動が生む「二次被害」としての健康負荷〜
2038年、マニラ。
洪水が街を去ってから3日が経っても、悪臭は残っていた。
泥が大通りのコンクリートを覆い、灰白色の模様を描いてひび割れていた。建物の外壁には、まるで統一された目盛りのように、高さ2メートルの水位線が残っている。
リリーは共同通路を通って住宅街へと戻った。洪水後の応急処置として歩道には滑り止めマットが敷かれていたが、その下にはまだ水が残っていて、一歩踏み出すたびに足元からじわりと染み出してくる。
リリーは共同通路を通って住宅街へと戻った。洪水後の応急処置として歩道には滑り止めマットが敷かれていたが、その下にはまだ水が残っていて、一歩踏み出すたびに足元からじわりと染み出してくる。
◆
エレベーターに乗り、ようやく過ぎた避難所での五日間を思い出す。
非常食として配られたのは、白いおにぎりと塩辛いインスタントスープと袋に入った甘い菓子パン。糖尿病を抱える父にとって、あの食事は毎日飲む薬を打ち消し続けるものだった。今朝、父の指先がわずかに震えていた。リリー自身も、喉が異常に渇いて頭がぼんやりとしており、スマートウォッチを確認すれば「血糖値:異常 / 要受診」という表示。一度や二度なら誰でも耐えられる。しかし、マニラの気候災害は年々深刻化し、避難生活も長くなっている。

玄関のドアを開けると、キッチンは変わらず動き続けていた。
洪水により電力供給が不安定な中でもシステムは「災害モード」に切り替わり、最小限の電力で栄養液を循環させていた。壁に沿って緑色の光が広がり、透明な栽培チャンバーの中では、菌類の構造体がゆっくりと動いている。
去年の春に自宅へ設置された「再生型キッチン」は、タンパク質を自律生成し、いつでも健康的な食事が摂れるようになるという最新技術だ。慢性疾患を抱える家族のいる世帯を対象にした行政の補助制度が始まり、父の糖尿病がそこに当てはまった。今回の災害で街は何もかもが止まっていたが、この部屋のキッチンだけは静かに稼働し続けていたという事実に、深い安心感を覚える。
窓の外では、広場に再生型キッチンの新しいユニットが設置されていた。まだ自宅にシステムを持たない住民のための、災害用の緊急共用キッチンだ。ドローンが次々と着陸しては食材を届けていく。避難所のような大鍋ではなく、糖尿病の人には糖質を抑えた、高血圧の人には減塩の、それぞれに合った食事が用意される仕組みだ。
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父が、洪水で押し流されて傷ついた苗を持ち帰っていた。それを空いている栽培チャンバーの培養液に入れると、システムが未登録の植物として識別し、光の波長をわずかに調整する。数分後、苗が少しだけ背筋を伸ばした。
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夜、停電の影響で街全体が暗くなった。しかし、すぐにシステムがバックアップに切り替わり、柔らかな緑の光がキッチンを再び灯した。
「明日は普通にご飯が食べられるね」と父が安堵する。
リリーはうなずく。五日の避難生活で荒れた体は、今日から健康に近づく。
窓の外の街には、まだ洪水の痕跡が残っている。しかしこの部屋の中では、小さな生態系が着実に機能していた。苗も、父も、少しずつ回復していく。次の嵐が来ても、この緑の光は消えない。リリーはそう思った。
気候変動の未来を創造するために
気候災害の被害は、直接もたらされるものだけには留まりません。その後に静かに積み重なる「健康負荷」が、繰り返し被災する人々の体をじわじわと蝕んでいます。
これは遠い南国だけの話ではなく、災害大国日本でも実際に起こったことです。
今回のテーマである「気候変動が生む健康への二次被害」をはじめ、【気候変動時代における未来シナリオブック】では、12個の厳選された気候変動適応の兆し(シグナル)と、そこから導かれる具体的な市場の可能性(未来シナリオ)をペアで詳しく解説。気候変動をどのような視点でとらえ、どのような発想をもとに商品戦略を構築していくか、具体的な取り組みイメージを提供しています。
小説の背景となったシグナルの詳細や、その他の兆しに興味を持っていただけた方は、ぜひ読んでみてください。
今回のテーマである「気候変動が生む健康への二次被害」をはじめ、【気候変動時代における未来シナリオブック】では、12個の厳選された気候変動適応の兆し(シグナル)と、そこから導かれる具体的な市場の可能性(未来シナリオ)をペアで詳しく解説。気候変動をどのような視点でとらえ、どのような発想をもとに商品戦略を構築していくか、具体的な取り組みイメージを提供しています。
小説の背景となったシグナルの詳細や、その他の兆しに興味を持っていただけた方は、ぜひ読んでみてください。
❙ Written by: Wenxin Huang, Mina soma
【連載】 Series|近未来小説:気候の変化を乗りこなす生活者たち
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Wenxin Huang
株式会社mct エクスペリエンスデザイナー
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