2026.07.30
Series|近未来小説:変わる暮らしの新しいかたち—#01(熱波の時代の、身軽な住居)

このブログは、近い将来に訪れるかもしれない日常を描く、近未来小説シリーズです。
世界各地で生まている「変化の兆し(シグナル)」を起点に、そこから導かれる未来の暮らしを描いています。
今回は、気候変動によってもたらされる
「熱波時代の住居」に焦点をあてたショートストーリーをお届けします。
🌐 Read in English
熱波の時代の、身軽な住居
2037年、10月のある平日、午前9時。
理沙は在宅ワーク用のデスクに座り、画面越しに「発酵デザイン基礎講座」の講師の声を聞いていた。気温40度を超える日が珍しくなくなって数年、窓の外はまだ夏の名残の陽射しが強い日もあるが、夏季期間は仕事の予定を軽くする「サマー・シフト」は、彼女の会社でも数年前から当たり前になっている。
理沙は都内のIT企業でマーケティングを担当している。真夏の7月、8月はほとんど外に出ず、涼しいオフィスと自宅を往復するだけの日々を送った。代わりに今、秋の3週間を「アップデート休暇」として確保していた。
「今年は何を学ぶの?」
友人の美咲からのメッセージに、理沙は少し考えてから返信した。
「発酵デザイン。日本各地の発酵文化をめぐりながら、自分のプロダクト企画にも活かせないかなって」
美咲と美咲の家族は、数年前からコンテナハウスで暮らしている。
元は海運用の20フィートコンテナを改造した8畳ほどの住まいで、車両登録をしているため固定資産税がかからず、必要な時にトレーラーで牽引して移動できる。夏は北海道や東北の高原、冬は温暖な瀬戸内や九州へと、季節ごとに拠点を変えながら暮らす「移動する家」だ。屋根の太陽光パネルでオフグリッド運用ができるため、電気代もほとんどかからない。
理沙は在宅ワーク用のデスクに座り、画面越しに「発酵デザイン基礎講座」の講師の声を聞いていた。気温40度を超える日が珍しくなくなって数年、窓の外はまだ夏の名残の陽射しが強い日もあるが、夏季期間は仕事の予定を軽くする「サマー・シフト」は、彼女の会社でも数年前から当たり前になっている。
理沙は都内のIT企業でマーケティングを担当している。真夏の7月、8月はほとんど外に出ず、涼しいオフィスと自宅を往復するだけの日々を送った。代わりに今、秋の3週間を「アップデート休暇」として確保していた。
「今年は何を学ぶの?」
友人の美咲からのメッセージに、理沙は少し考えてから返信した。
「発酵デザイン。日本各地の発酵文化をめぐりながら、自分のプロダクト企画にも活かせないかなって」
美咲と美咲の家族は、数年前からコンテナハウスで暮らしている。
元は海運用の20フィートコンテナを改造した8畳ほどの住まいで、車両登録をしているため固定資産税がかからず、必要な時にトレーラーで牽引して移動できる。夏は北海道や東北の高原、冬は温暖な瀬戸内や九州へと、季節ごとに拠点を変えながら暮らす「移動する家」だ。屋根の太陽光パネルでオフグリッド運用ができるため、電気代もほとんどかからない。

「うちは来月、また北から南に引っ越すよ。今度は瀬戸内の島の空き地を借りて、そこで冬を越すの」
美咲は当たり前のようにそう言うが、理沙にとっては未だに新鮮に響く響きだった。
家を持つとは、ローンを組んで一箇所に根を張ることだと、理沙の親、祖父母世代までは信じられていた。だが今は、身軽に季節を追いかけるように暮らす人々が増えている。持ち家か賃貸かではなく、「どこで、どんな季節を過ごすか」が住まい選びの基準になりつつあった。
講座が終わると、理沙は荷物をまとめて新幹線に乗った。目的地は長野県の小さな醸造所がある町だ。全国どこにでもある大規模な観光地ではなく、人口三千人ほどの町で開かれる三日間のマイクロツーリズム型ワークショップ。宿は地元の古民家を改装した一棟貸しで、参加者は理沙を含めて六人だけだった。
夜、味噌蔵の主人が語る発酵の歴史を聞きながら、理沙はふと気づいた。真夏の東京では、こうして誰かの話にじっくり耳を傾ける時間など持てなかった。冷房の効いた室内でモニターに向かい続ける生活の中で、季節の移ろいをほとんど感じずに一年が過ぎていく。だからこそ、この秋の三週間だけは、五感を取り戻す時間として大切にしたかった。
三日目の朝、理沙は蔵の裏の畑で大豆を収穫する体験をした。土の匂い、朝露の冷たさ、そして働く人々の何気ない会話。効率よくスキルを身につけることばかり考えていた自分に、ふと恥ずかしさを覚えた。
東京に戻る新幹線の中で、理沙は美咲からの写真を見た。コンテナハウスの窓越しに広がる瀬戸内の海。次はどこへ向かおうか、そんなことを考えながら、彼女は自分も、3年後には身一つで季節を追いかけるような暮らしをしていたいと思った。
家も、休暇も、学びも、決められた形から解き放たれ、自分のペースで組み立てていく
――それが理沙にとっての、2040年時代のニューノーマルだ。
美咲は当たり前のようにそう言うが、理沙にとっては未だに新鮮に響く響きだった。
家を持つとは、ローンを組んで一箇所に根を張ることだと、理沙の親、祖父母世代までは信じられていた。だが今は、身軽に季節を追いかけるように暮らす人々が増えている。持ち家か賃貸かではなく、「どこで、どんな季節を過ごすか」が住まい選びの基準になりつつあった。
講座が終わると、理沙は荷物をまとめて新幹線に乗った。目的地は長野県の小さな醸造所がある町だ。全国どこにでもある大規模な観光地ではなく、人口三千人ほどの町で開かれる三日間のマイクロツーリズム型ワークショップ。宿は地元の古民家を改装した一棟貸しで、参加者は理沙を含めて六人だけだった。
夜、味噌蔵の主人が語る発酵の歴史を聞きながら、理沙はふと気づいた。真夏の東京では、こうして誰かの話にじっくり耳を傾ける時間など持てなかった。冷房の効いた室内でモニターに向かい続ける生活の中で、季節の移ろいをほとんど感じずに一年が過ぎていく。だからこそ、この秋の三週間だけは、五感を取り戻す時間として大切にしたかった。
三日目の朝、理沙は蔵の裏の畑で大豆を収穫する体験をした。土の匂い、朝露の冷たさ、そして働く人々の何気ない会話。効率よくスキルを身につけることばかり考えていた自分に、ふと恥ずかしさを覚えた。
東京に戻る新幹線の中で、理沙は美咲からの写真を見た。コンテナハウスの窓越しに広がる瀬戸内の海。次はどこへ向かおうか、そんなことを考えながら、彼女は自分も、3年後には身一つで季節を追いかけるような暮らしをしていたいと思った。
家も、休暇も、学びも、決められた形から解き放たれ、自分のペースで組み立てていく
――それが理沙にとっての、2040年時代のニューノーマルだ。
暮らしの変化は、新しい市場
こうした暮らしの変化は、フィクションの中だけの話ではありません。
たとえば、夏に日傘をさす男性が増え、コンビニやドラッグストアには、経口補水液がずらりと並ぶようになりました。意識していないだけで、気候の変化は、私たちの過ごし方や買うものを、すでに少しずつ変えています。
こうして人々の行動が変われば、新しく求められる商品やサービスも生まれます。私たちmctは、そんな変化、とりわけ気候変動への適応から生まれる新しい市場を「40℃エコノミー」と呼んでいます。
8月7日(金)には、気候変動がもたらすビジネス機会をテーマにしたワークショップを開催。
国立環境研究所 気候変動適応センターの砂川淳氏を招いた講演や、新しい商品・サービスのアイデアを考える体験プログラムも予定しています。
物語の先にある「これからの暮らし」を、ビジネスの視点から考えてみたい方は、こちらにもぜひご参加ください。
たとえば、夏に日傘をさす男性が増え、コンビニやドラッグストアには、経口補水液がずらりと並ぶようになりました。意識していないだけで、気候の変化は、私たちの過ごし方や買うものを、すでに少しずつ変えています。
こうして人々の行動が変われば、新しく求められる商品やサービスも生まれます。私たちmctは、そんな変化、とりわけ気候変動への適応から生まれる新しい市場を「40℃エコノミー」と呼んでいます。
8月7日(金)には、気候変動がもたらすビジネス機会をテーマにしたワークショップを開催。
国立環境研究所 気候変動適応センターの砂川淳氏を招いた講演や、新しい商品・サービスのアイデアを考える体験プログラムも予定しています。
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Satoshi Kageyama
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