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2025.11.25

Series|医療×CX: Patient Centricityを“本気”で進めるために(全8回)― 第1回(1/6)

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滝沢秀幸(たきざわ ひでゆき)
医師・医学博士|全般内科専門医|デジタルヘルスアドバイザー|PX/DEI推進者
 
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第1回
患者中心主義を本気で進めるなら、
病院CXが避けられない
 

 
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はじめまして。医師・医学博士の滝沢秀幸と申します。
 
私は、日本国内および海外において内科医として診療に従事するとともに、国際的な視点を活かして医療戦略の立案やグローバルヘルスプロジェクトへの参画にも携わってまいりました
 
臨床現場で多くの患者さんと向き合う中で、単に病気を診るのではなく、「一人の人間としての患者さんの体験」に真摯に向き合うことの重要性を強く実感しています。優れた医療技術に加え、患者さんが安心し、納得して受けられる医療体験は、医療の質を根本から高め、治療成果の向上にも直結する極めて重要な要素です。
 
こうした「患者体験(PX)」を高めるためには、デジタルヘルスの活用、製薬企業との協働、現場でのヘルスリテラシーの向上、そしてDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)の推進といった、医療を取り巻くさまざまな要素との連携が不可欠だと考えています。
 
本ブログでは、私が日本と海外の医療現場を行き来してきた経験をもとに、「医療とCX(患者体験)」の現在地と未来について、全8回のシリーズでお届けしていく予定です。しばしお付き合いください。
 
医療の本質に立ち返りながら、より持続可能で、患者に寄り添ったヘルスケアの実現に向けた視点を、皆さまと共有できれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
  
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Ⅰ. 患者体験(CX)が医療の未来を変える
 
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すべての医療は患者の安心.安全、そしてしあわせのためにある!
「医療は、もっと“私ごと”に。患者体験(CX)が変える未来の医療」
最先端技術よりも問われるのは、“どう感じたか”。
すべての人が「自分のための医療」と実感できる体験づくりが、これからの医療のスタンダードに。
尊重・共感・自己管理の力が、患者中心医療を支える鍵
 
 
 
◆はじめに 
 
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「良い医療」とは、単に最先端の治療技術や診断精度の高さを指すものではありません。患者がその医療を「どう体験したか?」この視点が、いま世界中の医療現場でかつてないほど注目を集めています。自分の身体や健康に関心を持つ患者が一人でも多く増えてほしい! それが、私たちの願いです。
 
 
◆CXとは何か? 患者体験の全体像
 
患者体験(CX: Customer Experience)は、診察や治療そのものにとどまらず、医療機関への初回訪問時の受付対応、待ち時間、医師や看護師とのコミュニケーションの質、検査時の配慮、薬の受け取り方、さらには退院後のフォローアップや相談のしやすさに至るまで、すべての「タッチポイント」で形成されます。
つまり、医療に関わるあらゆるプロセスの中で、患者が「どう感じたか」「どう受け止めたか」がCXに大きな影響を与えるのです。
 
現代社会では、年齢、性別、国籍、障がいの有無、宗教、性的指向など、患者のバックグラウンドはますます多様化しています。そのような中で、医療機関が「一人ひとりの違い」をどれだけ尊重し、安心感と信頼感を提供できるかは、治療効果にも密接に関わる極めて重要な要素です。
 
 
◆「自分のための医療」と感じられるか
 
と、言い換えれば、患者が「この医療は自分のためのものだ」と感じられる体験こそが、医療の質を本質的に高める鍵なのです。
 
これからの医療には、「治す」ことに加えて「寄り添う」ことが、ますます求められます。患者一人ひとりの声に丁寧に耳を傾け、多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包括性(Inclusion)、すなわちDEIの視点を取り入れた医療の実践が、持続可能で信頼される医療サービスの基盤となります。
特に、多様な背景を持つ患者にとって、医療機関の配慮や姿勢は、単なるサービスの質を超え、治療効果に直結する重要な要素です。
 
医療の未来は、「治すこと」だけでなく「寄り添うこと」にあります。すべての患者の声に耳を傾け、ケアの提供にダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)の視点を取り入れることが、真に患者中心の医療体制を築く鍵となります。
 
 
◆自己管理の力 ~セルフメンタルメディケーション
 
こうした「医学の進歩」と「人としての尊重」のバランスが問われる今、必要とされるのが、患者自身が自分の健康に主体的に関わる力、すなわちセルフメンタルメディケーション力です。世界保健機関(WHO)は、セルフメディケーションを「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義しています。
 
たとえば、どんな兆候があれば医療機関を受診すべきかを判断したり、市販薬を使って様子を見たりといった判断力を指します。その基盤となるのが、ヘルスリテラシー(health literacy)です。
 
健康や医療に関する正しい情報を入手・理解し、適切に活用する能力――これは、すべての患者がまず身につけるべき重要な力です。
 
 
◆医療者と製薬企業の新たな役割
 
病気になった患者を治療するのは医師の使命ですが、病気の予防や軽症段階での対処法を伝えることも、同様に重要な役割です。
 
例えば、喉が痛い、鼻水が出るといった症状には、体内で病原菌を排除しようとする自然な理由があります。咳を止めるだけでは根本的な解決にならず、かえって症状を悪化させることさえあります。必要なのは、休養です。2〜3日しっかり休み、体の免疫力で回復を図るべきです。
 
このようなヘルスリテラシーの重要性を、医師だけでなく、製薬企業の経営層・管理職も理解し、患者に正しい情報と休養の大切さを伝えることが求められます。
 
 
◆医療機関の適切な利用を
 
日本では長年、誰でも自由に病院を受診できる「フリーアクセス」が当たり前とされてきました。しかし、東京のような大都市であっても、医師や医療スタッフ(看護師、臨床検査技師、介護福祉士など)の数は決して十分とは言えません。
 
今後10年〜15年で医療資源の不足はさらに深刻化すると予測される中、患者自身も「まず地域のプライマリ・ケアを受診し、必要に応じて専門医療機関に紹介される」という流れを理解することが、より正確で迅速な治療につながります。
 
  
◆病院・製薬企業に対しては、医療はすべて、患者のために!
 すべての医療は、患者の安心・安全、そしてしあわせのためにある!
 
『医療はすべて患者のためにある』という当たり前のことを、病院・製薬企業の皆さまとともに、いま改めて見つめ直す時が来ています。それを実現するためには、患者体験(CX)を軸にした医療の在り方が、これからの時代においてますます重要になります。病院や製薬企業におかれては、この原点に立ち返ることが、これからの医療の鍵となります。医学の進歩だけではなく、「人としての尊重」と「自分の健康に関わる力」を育てる視点を持ち、すべての人が「理解され、尊重され、安心できる」体験を得られる医療こそが、私たちが目指すべき未来の医療です。
 
 
 

 
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