2025.11.25
Series|医療×CX: Patient Centricityを“本気”で進めるために(全8回)― 第1回(3/6)

Ⅲ. 日本で患者体験(CX)視点が後回しになっている現状
日本の医療における患者体験(CX)向上の重要性と課題

◆患者体験(CX)が後回しにされている日本の現状
「Patient Centricity(患者中心主義)」が世界的な医療トレンドとして注目される中、日本においては患者体験(CX:Customer Experience)の視点がいまだ十分に取り入れられていないという課題があります。欧米では、医療の質を評価する指標の一つとしてCXが重視され、制度設計や医療提供の現場にも深く組み込まれているのに対し、日本ではその導入や実践が遅れているのが現状です。
ではなぜ、日本ではCXの視点が後回しになっているのでしょうか?その背景には、制度、文化、意識の面でいくつかの課題が存在します。
ではなぜ、日本ではCXの視点が後回しになっているのでしょうか?その背景には、制度、文化、意識の面でいくつかの課題が存在します。
◆日本における患者体験向上の課題:

1. 医療制度の構造的な制約
日本の医療制度は、全国民が保険で医療を受けられるという点で高い評価を得ていますが、その反面、診療報酬制度が医療の質や患者満足度を反映しづらい仕組みとなっています。医療従事者が患者一人ひとりに十分な時間を割く余裕がなく、患者との対話や体験価値の向上に取り組むインセンティブが乏しいのが現実です。
2. 「おまかせ医療」の文化的背景
日本では、「医師に任せるのが最善」という意識が根強く、患者が自らの意思で治療方針や選択肢について積極的に関与する文化がまだ浸透していません。このような背景から、医療提供者側もCXを意識する必要性を感じにくく、患者の声が診療の中心に据えられにくい状況が続いています。
3. データの可視化と活用の遅れ
欧米では、患者満足度調査やNPS(Net Promoter Score)といった指標を用いてCXを定量的に測定し、医療の質改善に活用する事例が増えています。一方、日本ではそうしたデータの収集や活用が限定的であり、CXを定量的に評価・改善する仕組みが整っていないのが課題です。患者体験に関する情報が“見えない”ため、改善の優先順位が下がってしまっているのです。
4. 製薬企業における患者体験の役割の希薄さ
製薬業界においても、製品中心の発想から脱却し、患者の生活や治療体験全体を重視する方向へのシフトが求められています。しかし、日本では依然として「医師を中心としたマーケティング」が主流であり、患者の声を製品設計やサービスに活かす仕組みが十分に構築されていないのが実情です。
5. 看護師不足と医療現場のストレス問題
近年、医療現場では看護師の慢性的な不足が深刻化しています。背景には過重労働や精神的ストレスが大きな要因となっており、これが看護師の離職や休職を招き、患者へのケアやCX向上に悪影響を及ぼしています。看護師が心身ともに健康で働ける環境づくりは、患者体験の質向上と医療の持続可能性のために不可欠です。
日本の医療において、患者体験(CX)の視点はまだまだ後回しにされがちです。しかし、真に患者中心の医療を実現するためには、医療制度や文化の壁を乗り越え、CXを「医療の質」の一部として捉える視点が不可欠です。今こそ、日本でも「患者の声に耳を傾ける医療」への本格的な転換が求められているのではないでしょう。

「良い医療」とは、単に高度な医療技術や設備が揃っていることを意味するものではありません。患者が安心し、納得し、信頼できる医療体験を得られてこそ、本当の意味で「質の高い医療」が実現されます。その中核にあるのが、病院での患者体験(CX: Customer Experience)です。
近年、欧米を中心に「患者中心の医療(Patient Centricity)」が推進される中で、病院のCXを見直すことの重要性が改めて注目されています。では、なぜ病院のCXを変えることが、医療全体の質の向上につながるのでしょう。「Patient Centricity(患者中心主義)」が世界的な医療トレンドとして注目される中、日本においては患者体験(CX:Customer Experience)の視点がいまだ十分に取り入れられていないという課題があります。欧米では、医療の質を評価する指標の一つとしてCXが重視され、制度設計や医療提供の現場にも深く組み込まれているのに対し、日本ではその導入や実践が遅れているのが現状です。
ではなぜ、日本ではCXの視点が後回しになっているのでしょうか?その背景には、制度、文化、意識の面でいくつかの課題が存在します。
ではなぜ、日本ではCXの視点が後回しになっているのでしょうか?その背景には、制度、文化、意識の面でいくつかの課題が存在します。

1. 患者の満足度が治療成果に直結
病院での体験がポジティブであればあるほど、患者の治療への理解と意欲が高まり、アドヒアランス(服薬遵守率)も向上すると言われています。たとえば、医師や看護師から丁寧な説明を受けた患者は、自分の病気や治療についてより深く理解し、治療方針に納得して前向きに取り組む傾向があります。
逆に、不安や不満が放置されたままでは、治療の中断や誤解、さらには不信感につながるリスクもあります。CXの改善は、治療の「結果」にまで影響を及ぼす力を持っているのです。
2. 医療従事者と患者の信頼関係を深める
病院のCXを向上させる取り組みは、単に患者の「満足度」を高めるだけではありません。医療従事者との信頼関係を深めることにもつながります。円滑なコミュニケーションが確保されることで、診察や治療がスムーズに進み、医療ミスのリスクも減少します。
また、患者からの感謝や肯定的なフィードバックが増えることで、医療従事者の職業的満足度やモチベーションも高まるという好循環が生まれます。
3. クレーム減少と業務効率化
CXが改善されると、患者とのトラブルやクレームが減少し、業務上のストレスや負担が軽減されます。受付や会計、案内などの「非医療的な接点」も含めて患者の体験が整理されることで、無駄な手戻りや混乱が減り、医療現場全体のオペレーションが効率化されるのです。
4. 医療の質評価軸の多様化
従来、医療の質は主に「診療成績」や「合併症の有無」など、医療者側が定めた基準で評価されてきました。しかし今、患者の視点から医療を評価する取り組みが世界中で広がっています。たとえば、PREMs(Patient-Reported Experience Measures)やNPS(Net Promoter Score)といった指標を用いることで、医療の質を「患者の実感」で測定する動きが進んでいます。病院のCXを改善することは、こうした新たな評価軸に応えるための重要な第一歩なのです。
5. 持続可能な医療提供体制の基盤形成
高齢化や人材不足が深刻化する中、医療機関には「質を保ちながら、効率的で持続可能な医療」を提供することが求められています。患者との信頼関係が構築され、不要な受診や再診が減少すれば、医療リソースの最適化にもつながります。CXの改善は、医療制度全体の安定にも貢献しうるのです。
病院のCXを変えることは、単なる「サービス向上」ではありません。それは、医療の成果を高め、医療者の働きがいを支え、ひいては医療全体の質を根本から変えていく変革の鍵なのです。これからの医療に求められるのは、「患者を診る医療」から「患者と向き合う医療」へのシフト。その実現のために、今こそ病院のCXを本気で見直すときが来ています。
◆結論
病院におけるCX(患者体験)の改善は、単なるホスピタリティやサービス品質の向上にとどまりません。それは、医療の成果を高め、医療従事者をエンパワーし、医療システム全体を根本から変革することを意味します。
真に患者中心の医療を実現するためには、「患者を治療する」から「一人の人間として向き合う」への転換が求められます。病院におけるCXを見直すことは、その変革に向けた最初にして最も喫緊の一歩です。
これからの医療に必要なのは、「患者を治す医療」から「患者と向き合う医療」へのシフトです。このビジョンを実現するためにも、いまこそ病院のCXを本気で見直すときです。
これからの医療に必要なのは、「患者を治す医療」から「患者と向き合う医療」へのシフトです。このビジョンを実現するためにも、いまこそ病院のCXを本気で見直すときです。

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滝沢秀幸 TAKIZAWA Hideyuki
医師・医学博士/全般内科専門医/デジタルヘルスアドバイザー/PX/DEI推進者門医
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