2025.11.25
Series|医療×CX: Patient Centricityを“本気”で進めるために(全8回)― 第1回(5/6)
Ⅴ. 病院と製薬企業がCXを共に考える時代へ

患者体験(CX)の共創が、これからの医療を変える。
病院と製薬企業が垣根を越えて連携し、患者の声に耳を傾ける時代へ

◆一貫した体験の設計が、医療の質と持続可能性を高めるカギに
現代の医療において、患者体験(CX: Customer Experience)は単なるサービスの向上にとどまらず、医療の質そのものを左右する重要な要素となっています。これまで病院と製薬企業は別々に患者や医療従事者と向き合ってきましたが、これからの時代は両者が連携し、患者中心の体験を共にデザインしていくことが不可欠です。
◆なぜ連携が必要なのか?
患者の治療体験は、病院での診察や治療、そして処方された薬の服用という複数の段階から成り立っています。病院と製薬企業がそれぞれ別個にCXを追求しても、断片的な改善にとどまることが多く、患者が感じる「一貫した安心感」や「納得感」にはつながりません。両者が連携し患者・医療者の声を活かしたCX設計を行うことにより、治療理解や服薬遵守率の向上、医療現場のコミュニケーション円滑化、業務効率化を実現し、医療全体の質が高まるのです。
また、看護師をはじめとする医療従事者の働きやすさ向上やストレス軽減も、患者体験向上の重要なファクターです。医療現場の人材確保と持続可能性を支えるためには、医療機関と製薬企業が共に支え合いながら、患者中心の質の高い医療を目指す必要があります。
患者中心の医療はもはや選択ではなく必須の時代です。病院と製薬企業が連携し、患者の声に真摯に耳を傾け、一貫したCXを共創していくことこそが、より良い医療の未来を切り開く鍵となるでしょう。
◆連携によるシナジー効果
両者が情報共有し、患者や医療従事者の声をもとに連携したCX設計を行うことで、患者の治療理解が深まり、服薬遵守率も向上します。また、医療現場でのスムーズなコミュニケーションや業務効率化にもつながり、医療全体の質を高める効果が期待できます。
◆未来に向けて
患者のニーズや期待は多様化・高度化しています。これに対応するためには、病院と製薬企業が壁を越えて協力し合い、患者に寄り添ったCXを共創することが不可欠です。こうした連携は、患者のQOL(生活の質)向上のみならず、持続可能な医療提供体制の実現にも寄与します。

◆患者体験の共創こそが未来の医療を形づくる

患者の治療体験は、病院での診療・処置から、製薬企業が提供する薬剤の服用に至るまで、複数の段階で構成されています。病院と製薬企業がそれぞれ個別にCX(患者体験)の向上に取り組んでも、その成果は断片的かつ限定的になりがちです。しかし、両者が連携し、患者や医療従事者の声をもとにCX設計を行うことで、治療理解の深化、服薬アドヒアランス(遵守率)の向上、コミュニケーションの円滑化、さらには医療現場の業務効率化といった、多面的な相乗効果が期待できます。
患者体験の向上は、看護師や薬剤師などの医療従事者にとっての「働きやすさ」や「やりがい」とも密接に関連しています。医療人材の確保や現場の持続可能性を実現するには、病院と製薬企業がパートナーとして協力し、質の高い患者中心の医療体験を共に築いていくことが不可欠です。
また、医療従事者不足の問題に対しては、状況に応じて柔軟に取り組む「コーピング(対処)」も重要です。時間や労力、経済的・健康的コストを伴う対処だけでなく、仕事の達成感や感謝された経験を思い出すといった「認知的コーピング」も、ストレス軽減に効果があります。特に、看護師などが自分のペースで無理なく実施できる活動は、患者への貢献感を高め、より効果的な成果につながります。
CXは患者だけでなく、医療機関に勤めるスタッフや製薬企業の関係者にとっても「前向きな体験」であるべきです。ストレスを減らし、やりがいを感じられる環境づくりこそが、新しい医療CXを築く土台となります。
さらに、「医療」と「教育」が人生の根幹であるという視点も見逃せません。病気の仕組みや予防の知識を子どもの頃から学ぶことができれば、「医者いらず」の社会も夢ではありません。生活習慣の改善や健康的な選択を日々重ねることは、どんな先進医療にも勝る効果を持ちます。最終的には、患者自身が医療知識を高め、自立的に健康を管理できる社会を目指すことが理想です。
実際に、世界各地では、そういう病院・医療機関と産業界が協働して患者中心の医療を実現しているCXモデルの先進事例が多数存在します。

◆海外におけるCXモデルの先進事例
1. 【シンガポール】National University Health System(NUHS)
「One Patient, One Care Team」モデル

シンガポールのNUHSが展開する「One Patient, One Care Team」CXモデルでは、患者ごとに専任のケアチームが診療から退院後まで一貫して支援します。全医療データはシステム全体で共有され、重複診療や情報の断絶を防止。PREMs(患者経験評価)を活用してサービスを改善し、特に慢性疾患や高齢者へのケアの質を高めています。看護師・薬剤師など多職種連携体制により、医療スタッフの業務負荷軽減と働きやすさ向上にも寄与しています。
2. 【アメリカ】Cleveland Clinic「Patients First」モデル

アメリカのCleveland Clinicでは、2007年にChief Experience Officer(CXO)を設置し、CXを経営戦略の中核に据えました。すべての職員が「Communicate with H.E.A.R.T」などの共感コミュニケーション研修を受け、CXの質を向上。NPS(ネットプロモータースコア)などによるリアルタイムの患者フィードバックを収集・反映させる仕組みが確立されています。CX評価は職員のパフォーマンス評価にも連動し、組織全体の意識改革と従業員エンゲージメント向上を実現しています。
3. 【スウェーデン】ヨンショーピング県「患者との共創によるサービス改善」モデル

スウェーデンのヨンショーピング県では、患者を医療サービスの共創者と位置づけ、あらゆる改善活動に関与させる「共創型CXモデル」を導入しています。PREMs・PROMs(患者報告アウトカム指標)を活用し、医療の質と体験を定量的に評価。身体的・精神的・社会的ニーズすべてに応える「パーソン・センタード・ケア」の徹底を図っています。行政・医療機関・患者が一体となって医療政策の策定から実装までを推進する、持続可能な地域連携モデルです。
◆患者中心の医療は「選択肢」ではなく「前提条件」
シンガポール、アメリカ、スウェーデンの先進CX事例が示す通り、患者の声に真摯に耳を傾け、制度設計から実際の体験に至るまでを共創していく取り組みが、これからの医療の新たなスタンダードとなるでしょう。
病院と製薬企業がともに歩み、患者と共に考えながら、未来の医療をより良いものに変えていく—!その第一歩は、まさに「共創による患者体験(CX)の革新」です。持続可能で質の高い医療を実現するために、今こそ力を合わせて、より良い医療体験をともに創り出していきましょう。
◆結びの言葉
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滝沢秀幸 TAKIZAWA Hideyuki
医師・医学博士/全般内科専門医/デジタルヘルスアドバイザー/PX/DEI推進者門医
- CX・顧客経験
- 組織デザイン
- インサイト
- グローバル
- 顧客中心
- ヘルスケア
- 患者理解
- 製薬
- サスティナビリティ
- 患者中心
- PPI
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- ビジネスデザイン
- ペイシェント・セントリシティ
- イノベーション
- イベント告知
- デザイン思考
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- エクスペリエンスデザイン
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- エスノグラフィックリサーチ
- デザイン
- デザインリサーチ
- リモートコラボレーション
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